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2009_海外サッカー・・大人のバランサー、ベッカム!?・・(ポローニャvsミラン、1-4)・・(2009年1月26日、月曜日)

前回の海外サッカーレポートでは、「前後分断サッカーとベッカム」なんていうタイトルのコラムをアップしました。そのコラムは「こちら」ですが、今回は、実効あるカタチでチーム戦術にインテグレートされ(組み込まれ)つつある「大人のバランサー」ベッカム・・という視点でコラムをアップする気になりました。

 前回のコラムでは、前線トリオのカカー、アレッシャンドレ・パト、そしてロナウジーニョの三人と、後方トリオの三人、セードルフ、ベッカム、そして天才ボランチ(リンクマン)という称号を欲しいままにするピルロが「前後に分断する」傾向が強すぎる(もちろんサイドバックはオーバーラップするけれど・・)というニュアンスの内容を書いたわけですが、このゲームでは(1-0でミランがフィオレンティーナを下した前節のホームゲームと同様!)前後のバランスは大きく改善されました。

 そこでは、攻守にわたって実効レベルが低いロナウジーニョの代わりに、攻守のバランス感覚に優れたアンブロジーニが中盤に入り、セードルフが上がってチャンスメイカーとして機能することになったわけですが、それによって、少しは「前後分断傾向」が緩和されたというわけです。

 別の表現をすれば、それは「前戦のフタが開いた」とも言えそうだよね。そう・・ロナウジーニョ。そりゃ、「自分のカタチ」でボールを持ったときのロナウジーニョの凄さは誰もが認めるところだけれど、守備をやらない、攻撃で「自分のカタチ」にも持ち込めないし強引なドリブル突破トライにも十分な実効レベルが伴わない・・等々というのじゃ、チームのお荷物になってしまうのも道理なのですよ。

 また(前回コラムの)セードルフにしても、自ら進んで守備の起点を作り出すような汗かきディフェンス(要は、全力チェイス&チェック!)を積極的に展開するわけじゃないから、ミラン中盤のダイナミズムが減退していくのも自然の成り行きだったのです。

 とはいっても、そんな「負のベクトル方向」を敏感に感じ取ったベッカムが(ゲームが進んでいくなかで)チェイス&チェックや穴埋めカバーリングを「より」積極的にこなすようになったことで、自身のセリエAデビューマッチ(アウェーのローマ戦)を「かろうじて」引き分けに持ち込むことが出来た。前回コラムでのベッカムは、攻守にわたって、非常にポジティブな『組織プレー』を披露したのです。

 そんなベッカムが、「前戦のフタ」が開いたこともあって(!?)攻守にわたって、よりダイナミックに実効プレーを展開できるようになっていった。いや・・というよりは、より効果的に「大人のバランサーブレー」を展開できるようになった・・っていう表現の方が適当かもしれないね。

 たしかにドリブル突破や、最終勝負の起点になるような「勝負のタメの演出」などはベッカムの得意とするところじゃないけれど、攻守にわたる忠実な組織プレーを基盤に、人とボールをしっかりと動かすためにリーダーシップを発揮するという視点では、ピルロは、本当に信頼に足るパートナーを得たと感じているはずです。もちろん、自分のチーム内ヒエラルキーポジションを脅かす、本当の意味でのライバルとしてね。

 ベッカムの強みは、もちろんキック。正確な中距離パス(前半に魅せた、パトへの50メートルはあろうかという正確なディアゴナールパスは秀逸だった)や、魔法のように曲がりながら正確に危険スポットへ飛んでいくクロスは言うに及ばず、仕掛けのグラウンダーパスでも存在感を発揮する。味方が受けやすい(次のプレーにスムーズに入っていき易い)コースと強さと種類のタテパスを送り込みつづけるベッカム。

 もちろん、シンプルなタイミングの横パスやバックパス(安全な展開パス)も多いけれど、ココゾッ!のチャンスには、例えば(前半43分の三点目の起点になった!)最前線で戻り気味にフリーランニングするカカーの右足にピタリと合う鋭いグラウンダーのタテパスに象徴されるような、効果的な「仕掛けタテパス」を送り込んだりする。

 美しく勝負強いチームの「象徴」は、ある意味、リスキーな、タテへの(相手守備の密度が高いゾーンへの)仕掛けパスの量と質とも言える。自信と確信に裏打ちされたリスキーな仕掛けパス。ミランでは、その起点が一つ増えた!? フムフム・・

 ベッカムの存在感は、チームにとっての優れた(そして様々なタイプの)価値を「忠実に表現」しつづけることで着実にアップしつづけている。もちろん「ベッカム・ブランド」も大きなビジネス価値の要素ではあるけれど、わたしは、純粋にサッカー的な価値に目を向けたい。

 それは「大人のバランサー」とでも形容できるだろうか。この試合でも、右サイドバックのザンブロッタが、「大人」のカバーリングに対する信頼をベースに、後ろ髪を引かれることのないオーバーラップを繰り出しつづけていたし、「あの」ピルロにしても、ケースによっては、ベッカムを探してボールを預けたりしていた。そのパスには、「この状況だったら、オマエの中距離パスの方が効果的だよな・・」なんていうメッセージが見て取れた。フムフム・・

 一つの「才能」が、優れたチームにインテグレートされる(組み込まれる≒存在感を発揮し、確固たるチーム内ポジションを築いていく!?)プロセスほど興味を惹かれる学習機会はなによネ、本当に・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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