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2009_ブンデスリーガ・・存在感を発揮した大久保嘉人・・そして、クリストフ・ダウム率いる1FC.ケルン・・(ケルンvsヴォルフスブルク、1-1)・・(2009年2月1日、日曜日)

「オオクボには大いに期待している・・まずは攻撃面の強化という意味だが、もしかしたら、ウチの攻撃選手たちにとっての新たなる強力ライバルの出現という視点の方が重要かもしれない・・とにかくウチの選手は、常に厳しい競争環境を勝ち抜かなければならないのだよ・・」

 ヴォルフスブルクのフェリックス・マガート監督が、ドイツの雑誌に対して、そんなニュアンスのことを語っていた。フェリックス・マガートは、大久保に対して、本当に期待しているみたいだ。昨年7月にヴィースバーデンで開催された、ドイツ(プロ)サッカーコーチ国際会議でも、私との立ち話で、日本には優秀なサッカー選手が多い・・とにかくもう一人日本人が欲しい・・と言っていたっけ。もちろん、彼がそう思う背景に、長谷部誠の「成功」があることは言うまでもありません。

 さて試合だけれど、後期開幕戦のケルン対ヴォルフスブルクが、ブンデスリーガを独占中継する「フジテレビ739(スカパー)」でライブ放送されることを知ったとき、本当に小躍りしてしまった。

 実は、この試合は現地観戦するつもりだったのですよ。でも都合がつかずにドイツへ飛んでいけなかった。だから、少なくともテレビ観戦できると知って、本当に嬉しかったのです。何せ、長谷部誠と大久保嘉人の「そろい踏み」だけじゃなく、「あの」クリストフ・ダウム率いる1FC.ケルンも同時に観られるんだからね。

 クリストフ・ダウムと1.FCケルンについては、昨年の「このコラム」や、彼の長年のパートナーであるケルン・ヘッドコーチ、ローラント・コッホと話し合った「このコラム」を参照してください。彼らは、ドイツ留学時代からの(30年来の)友人です。

 この試合は、フェリックス・マガートと、クリストフ・ダウムという、ドイツの名将のせめぎ合いという側面でも注目された一戦でした。この二人については「ウィキペディア」を参照していただきたいのですが、フェリックスについては「マガト」という日本語カタカナ表記で登録されている。まあ「マガート」というのが実際の発音にもっとも近い表記だけれどネ・・

 ということで、このコラムでは、後半の途中から登場した大久保嘉人と、我慢を積み重ねるような粘り強い闘いを展開している1.FCケルンについて簡単にコメントすることにします。

 まず大久保嘉人。よかったですよ、本当に。彼について私は、「自らシュートできる状況を演出する(そのスポットに入り込む)感覚に長けている・・」なんて表現しています。要は、どのゾーンに勝負のパスが送りこまれてくるかを正確に察知する才能・・ってなことかもしれない。

 この試合でも、自ら組み立てプロセスに絡みながら、ココゾッ!の全力ダッシュで(かなり後方から!!)相手ゴール前のスペースへ走り込んでスルーパスを受け、正確なトラップから弾丸シュートを放った。不運にもケルンGKの正面に飛んでしまったけれど、まさに「これぞ大久保!」っていう決定的シーンだった。

 それ以外でも、ヴォルフスブルクの同点ゴールを決めたグラフィチへ、素晴らしいタイミングで、そのシュートへつながる「ファウンデーション・パス」を供給したり(正確なトラップと素早いリズムのパスアクションが秀逸だった!)ポスト直撃のダイレクトシュートを放ったりと、後半25分間のプレーだったにもかかわらず、かなりの存在感を発揮した。

 その存在感の意味だけれど、前述した具体的なチャンスで目立った活躍をしたことはもちろんだけれど、それ以上に、サッカーの現場で(特にフェリックス・マガートから)もっとも評価される『攻守にわたる汗かきハードワーク』という本格的な価値が素晴らしかったと思う。

 岡田武史が率いる日本代表チームでも、徐々に、組織チームプレー「も」充実してきてはいたけれど、そんなポジティブな流れに「フェリックス・マガート」という強烈なパーソナリティーによる「後押し」が加わったのだから、そんな「ハードワーク・マインド」が、彼の体感のベースになる可能性は大きい。

 とにかく、ハードワークの最も重要なファクターは「意志」だからね。学校の勉強だって、本人が「やる気(目標へ到達したいという意志!)」を持たなければ、効果(結果)なんて期待できないでしょ。「やらされている」という意識が少しでもある場合、やはり本当の意味で「気」が入るプレーなんて期待できないのですよ。

 その意味で、大久保嘉人は、岡田武史とフェリックス・マガートから大いなる刺激を受けることで、彼自身が「オレはこうなりたい・・こうありたい・・」という意志を前面に押し出しはじめたということなんだろうね。日本代表でのプレーが楽しみになってきた。もちろん、日本代表チームでの「ライバル環境の活性化」という視点でもネ。

 さて、クリストフ・ダウム率いる「1.FCケルン」。やはり現有勢力では、我慢を積み重ねるような粘り強い戦いをつづけていくしかない。それに、この試合では、チーム得点王のノヴァコビッチと、最終ラインの重鎮ジェロメルが出場停止だったからね。

 要は、個人の能力レベルには明確な限界があるという意味だけれど、それにしては、本当によくやっていると思う。まあ、クリストフ・ダウムとローラント・コッホの、選手の意志を高揚させる心理マネージメントのウデに拍手といったところだね。

 基本的には、しっかりと守って効果的なカウンターを繰り出していくというイメージ。もちろん、「引いて守備ブロックを厚く守る」という、受け身で消極的なチームコンセプトではなく、あくまでも「攻撃的なボール奪取」を志向し、ボールを奪い返した次の瞬間から、なるべく手数と時間を掛けずに相手ゴールへ迫る・・というイメージ。

 そのチーム戦術イメージだけれど、前半は素晴らしく機能した。そして、まさにイメージ通りのカウンター(一発ロングパス)から、ラドゥが素晴らしい先制ゴールを決めた。

 でも後半になったら、ヴォルフスブルクが、より攻撃的に前へ出てきただけではなく、ロングボールも多用することで「全体的なプレーゾーン」を前方へ「押し上げて」いったそのことで、ケルンは押し込まれ、何度かのピンチも迎えた。

 そこでは、ケルン守備ブロックの「淡泊さ」が目についた。もっと粘り強い競り合いを展開しなければならないのに、一発アタックを仕掛けて「置き去り」にされたり、肝心なところで密着マークが甘くなったりと、ヴォルフスブルクにチャンスを作り出されつづけたのです。

 いくら、クリストフとローラントによる心理&戦術マネージメントが優れていても、やはり「個の能力」の限界という側面もあるということだね。もちろん、やり方によっては、もっともっと「意志のパワー」を高揚させられたかもしれないけれど・・。

 来シーズンの1.FCケルンには、バイエルン・ミュンヘンから、ルーカス・ポドルスキーが「帰って」くるというハナシもあります。クリストフとローラントは、長期的な視野でケルンをビッグクラブに「返り咲かせ」たいと思っているのですよ。そのためには、財政的な基盤の強化だけではなく、育成やマネージメント周辺要素のバックアップシステムや、組織の体質改善など、やらなければならないことが山積みです。

 ということで、私は、クリストフ・ダウムとローラント・コッホから、「1.FCケルンの再生プロセス」という学習機会も与えられたと思っているのですよ。まあ・・それにしては、このところヨーロッパから足が遠のいてはいるけれど・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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