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2008_ドイツ報告、その4・・ローラント・コッホとの会食・・そしてコーチ国際会議で知り合った長澤好高さん・・(2008年7月30日、水曜日)

「そうじゃないよ・・そんなニュアンスを少しでも匂わせたら、その時点で、勝ち点10を失うのと同じコトになってしまうんだゼ・・とにかく今のオレ達は、ブンデスリーガで最高の結果を残せると確信して仕事をしなければならないんだ・・」

 ローラント・コッホが語気を強めました。それは、無神経にも私が、こんな言い方をしたことに対する強烈な反応だったのです。「とはいってもサ、やっぱり現実的には、ブンデスリーガ一部に残留することも(そんな目標設定も)視野に入れて仕事することになる公算が大きいんだろう?」

 「オレ達がそんな弱気なことを考えていたら、選手たちは決して踊らないゼ・・逆に、引き分けでもいいやってな消極マインドに陥ってしまう・・それが、勝ち点10を失ったも同然だと言った意味なんだよ・・」

 「スマン・・」と、私。

 今日のお昼時、ヴィースバーデンで開催されていたサッカーコーチ国際会議が無事に閉幕しました。この日、何人かのコーチと会う約束をしていたのですが、クリストフ・ダウムと電話で話し、1FC.ケルンが午後1600時から「非公開トレーニング」をやるということを聞いたのですよ。これは見逃せない・・と、他の約束を別の日に回して、すぐにケルンへ出発したという次第です。

 先日のコラムでも書いたように、ケルンは、クラブハウスに隣接する小さなスタジアムも持っています。1FC.ケルンの偉人の名前をとった「フランツ・クレーマー・シュタディオン」。そこは、非公開トレーニングをするには最適です。外からは、まったく中が見えませんからね。

 ということで、クラブハウスに到着してすぐに事務所の方にスタジアムのカギを開けてもらって観客席へ入っていきました。やってる、やってる。閑散とした雰囲気のなかで、選手たちが、クリストフ・ダウムとローラント・コッホの発する強烈な大声の指示に「踊って」いましたよ。それも、全力でネ・・。やはり、クリストフとローラントのコンビが作り出す雰囲気は「超一流」だ。

 掲載した写真。そこで紺のTシャツにブロンドヘアーがクリストフ・ダウムで、白のTシャツに白の帽子をかぶっているのがローラント・コッホです。

 テーマは「サイドチェンジ」からのコンビネーション。例によって「小さなゲーム」から「大きなゲーム」へと、スムーズに練習プログラムが組み立てられていきます。そこでのクリストフとローラントは、プレーを止めることなく、誰もが聞き逃せないほど強烈な大声で指示を飛ばす。そして、彼らの一言一言に、選手たちが敏感に反応する。いいね。メリハリのある優れたトレーニングではありました。

 その後、ローラント・コッホと夕食をともにすることになった次第です。そこは、ケルンのワールドカップスタジアムに隣接して新しくオープンした(美しい池を一望できる)レストランでした。

 「昨日の公開トレーニングには2000人以上のファンが集まったんだよ・・それじゃ、まったく集中できないよな・・ということで、今日は非公開にしたんだ・・」と、ローラント・コッホが言う。ナルホド・・

 ケルンは100万都市だし、「1FC.」は、ケルンを代表する(ドイツを代表した時代もあった!)超名門クラブ。それが、一時期の低迷を脱してブンデスリーガ一部に返り咲いたのだから、格段に注目度がアップするのも道理です。まあ、別な見方をすれば、そんな超名門クラブが長いこと二部に低迷していたということ自体が、様々な意味で「リーグ全体の体質の変化」を象徴していたという考え方は衆目の一致するところではあるけれどネ。

 「そうだな・・たしかに、この10年余りケルンが低迷していたことは、様々な意味でブンデスリーガの体質の変化を象徴していたって言えるだろうな・・とはいっても、やっぱりケルンが二部にいちゃいけないよ・・」

 ローラント・コッホが、語りつづけます。「(今回)オレ達が引き受けたとき、チームは本当にヒドい状態だったんだ・・オレ達が欲しかった一部リーグの選手にしても、二部ではプレーしたくないと移籍を拒んだしね・・とにかく、あの状態から、本当によく一部に上がれたものだと、クリストフとしみじみ語り合ったものだ・・もちろん、まだまだ困難な状況はつづけているさ・・チーム状態がまだ安定していないこともあって、優れた選手を集めにくいしね・・まあ、とにかく最善を尽くすしかないわけだけれど、それでもオレ達は(クリストフとオレは)最高の結果を残せる自信があるんだ・・そう、オレ達のコンビが(1987年から)最初に1FC.ケルンを率いたときのようにね・・」

 そうそう、あの当時は、それまでプロチームを率いた経験のない若い監督とコーチのコンビにチームを任せることに対して、多くのメディアが強烈な批判を繰り広げたっけ。それでも、正式にクリストフ・ダウムとローラント・コッホのコンビがスタートした最初のシーズンにリーグ3位を獲得し、その後も、二年連続で準優勝に輝いた。それだけじゃなく、UEFAカップでも準決勝に進出するなど大いに気を吐いた。

 本当に、誰もがビックリするほどの大成果を挙げたのですよ。私も、コトあるごとに日本から駆けつけた。その後のシュツットガルトやレーバークーゼンを観察することも楽しかったけれど、あの当時のケルンでの活躍ほど血湧き肉躍る出来事はなかった。何せ、ヤツらの最初のクラブだったし、私の「マイチーム」でもあったわけだからネ。

 池のほとりに設(しつら)えられたテーブルでローラントと食事をとりながら、当時のエキサイティングな感覚がよみがえってきたものです。そんな熱い思いから、自然に「こんな言葉」が口をついていた。

 「この20年の間に、ケルンからケルンへ・・そのタイムスパンに二人が為した仕事の軌跡をまとめてみたいね・・若いコンビが、ドイツでの成功からトルコへ、そして再びドイツに戻って(シュツットガルトで)リーグを制し、そのままレーバークーゼンへ移籍して名門クラブを復活させる・・そしてスキャンダルにまみれながらも、徐々に汚名を挽回していった・・こりゃ、本当に面白いストーリーになるじゃないか・・もちろんオレは、サッカー的な視点でも内容を深められる自信があるしナ・・今度、ホントに時間を作ってみようかな・・」

 「そうか・・いつでもいいぜ・・オマエだったら、クリストフもノーとは言わないだろう・・何せ、おれ達には日本語は分からないからナ・・アハハっ・・」

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 今日は、サッカーコーチ国際会議をレポートするつもりだったのですが、それは明日からということにします。もちろん内容の全てを網羅できるわけじゃないけれど、要点だけはしっかりとまとめるつもりです。ということで、ご容赦アレ。

 「EURO_08の分析」とか「ドイツにおけるユース育成システム」とか、マティアス・ザマーやフォルカー・フィンケ(元FCフライブルク監督)、はたまたラルフ・ラングニック(フラット・フォーの権化・・彼も二部クラブを昨シーズン一部に引き上げた!)等によるパネルディスカッションとか、国際会議の内容は、年を追うごとに、急速に充実してきていると感じますよ。

 最後に、今年のサッカーコーチ国際会議で知り合いになった(わたしに声を掛けてくれた)長澤好高(ながさわよしたか)さんを紹介します。彼は、顔写真を掲載することも快諾してくれました。

 長澤さんは、ミュンヘンに在住して10年余りだということですが、最初は1996年に一年だけドイツへ留学したとのことです。その後、Jリーグの仙台で(当時はブランメル!?)通訳などの仕事に就きながら、ドイツと日本を何度か往復し、「Bライセンス」を取得しました。

 そして、1998年から再びドイツへ留学し(長期留学を覚悟でミュンヘンへ!)2000年には既に「Aライセンス」を取得した。そして一昨年から、私が卒業した「プロコーチ養成コース」の席を獲得することにチャレンジしているのです。フムフム・・大したものだ。

 そんな長澤さんと話し合っているところに、彼の知り合いのドイツ人が次々と声を掛けてきました。その一人ひとりについて詳しく説明してくれる「誠実さを地でいく」長澤さん。声を掛けたドイツ人の方々も、彼の誠実さを反映するかのような気持ちの良い人たちでした。

 もちろん彼が良いコーチかどうかは分かりません。ただ、ドイツで「就労ビザ」を取得し、ドイツの電気会社に勤めながら(また地元のドイツクラブで子供や成人のチームをコーチしながら=コーチとして収入を得ながら!)より上のコーチライセンス取得を目指すことの「大変さ」は十分に分かっているつもりです。だから、まさに「レスペクトッ!」なのです。ホント、大したものだ。

 時間があまりなかったので、より深く突っ込んだディスカッションまでは至らなかったけれど、とにかく彼との話し合いからは「爽やかな感じ」だけが残ったことは確かな事実です。

 長澤さんは、もう一人の日本人の方を世話しているそうです。その方は、わたしが卒業した大学の後輩に当たるのだそうです。最初は「B級ライセンス」までという約束だったそうですが、結局「Aライセンス取得」まで行きたいということで、今は、長澤さんの紹介で同じ電気(工事)会社に務めて頑張っているらしい。もちろん、その方も、長澤さんと同じように「就労ビザ」を取得したのですよ。ホントに大したものだ。

 誠実さを絵に描いたような長澤さんのダイナミックな行動力から「元気」をもらった筆者でした。ではまた明日。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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