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2008_ヨーロッパの日本人・・稲本潤一と中村俊輔に対する期待・・(2008年1月20日、日曜日)

さて、久しぶりの日本人レポート。メインはもちろん、復帰してきた中村俊輔です。まあ、松井大輔や稲本潤一も(高原直泰も)追いかけてはいたけれど、納得できる内容ではなかったこともあって、あまり筆が進まなかったという体たらくでした。

 例えば稲本潤一。たしかに局面でのボール奪取勝負では(昨年のアジアカップでも目立っていたように)強さを見せつけるシーンも多い。パワーでもスピードでも、そして守備テクニックでも。ただ、攻守にわたる中盤でのダイナミズム(活力・迫力・力強さ)アップへの貢献度といったら、大いに疑問符がつく。

 ディフェンスでは、チェイス&チェックに代表される「守備の起点プレー」に課題を抱えている。もちろん、味方が守備の起点になった状況での(自身の強みを発揮できる)ボール奪取勝負プレーについてはプラスポイントだけれど、それだけでは十分ではない。やはり、もっともっと「汗かき」のところで貢献しなければ、センターハーフとしての価値は高まらないのです。

 まあ、アイントラハト・フランクフルトが、基本的には、ポジショニングバランス・オリエンテッドな(マークを効率的に受け渡すような)守備を展開しているということもある。だから、ポジショニングバランスを意識しながら勝負ポイントをイメージする(味方との有機的なイメージ連鎖!)というわけです。それは分かるけれど、彼の場合は、明らかに「もっと出来る・もっとやるべきだ」という印象が強く残るのです。要は、彼が秘めるポテンシャルからすれば・・ということです。

 また、攻撃でも不完全燃焼。彼は中盤でのバックアップに徹しているつもりなのだろうけれど、それにしても、まだまだ出来るところは多い。タテのスペースへ飛び出していったり、ボールを持った状況では、タテへの「ワンのパス」から、自分がコアになったコンビネーションをスタートさせるとか、ドリブルで突っ掛けていくとか、もっとリスキーな勝負を仕掛けていってもいいと思うのですよ。もちろん途中で攻撃の流れが断ち切られてしまったら、素早い切り替えから、相手攻撃をスピードダウンさせることも含めて全力で戻ればいい。そう、ボックス・トゥー・ボックスというイメージ。そんなプレー姿勢こそが、彼のプレー内容の価値をアップさせるのです。

 いまのプレー内容は、どちらかといったら安定志向だよね。しかしそれでは、何も生み出すことは出来ない(発展ベクトルに乗れない)。それに、フランクフルトでの彼は、常に「100」以上を要求される外国人助っ人プレイヤーなんだからね。

 また、日本代表での稲本潤一だけれど、ダイナミックな協力(組織)プレス、人とボールを活発に動かしながら数的に優位なカタチを作りつづける、それをベースに(サイドチェンジなど)スペースを効果的に攻略する、そして「それ」をやり続ける、という岡田武史監督のコンセプトにはうまくフィットできないのではないだろうか。

 稲本は、攻守にわたって組織的に中盤ダイナミズムをアップさせるという岡田監督のチーム戦術ベクトルにとってのプラス要素になれるのか・・。いまの状況では、どうしても「さて、どうだろう・・」という疑問符ニュアンスの方が強くなってしまう。個人的には、最終ラインの方が、稲本のポテンシャルをより実効あるカタチで発揮させられる思っているのですがね・・。

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 ありゃりゃ、稲本潤一に対するクリティックが長くなってしまった。さて、中村俊輔。良かったですよ。攻守にわたる効果的プレーに対する「意志」が、以前のレベルに戻りつつあると感じます。

 運動量も十分だし、守備もしっかりしている。ディフェンスだけれど、ボール奪取勝負のテクニックも向上していると感じますよ。もちろん身体をぶつけるフィフティーの競り合いじゃパワー負けしてしまうけれど、相手の次のアクションをうまく「読んだ」タイミングがピタリと決まったアタックは素晴らしい。スライディングにしても、スマートでスムーズになっている。俊輔は、相手からボールを奪い取ることの楽しさを学んだということだろうね。それもまた優れた学習能力・・。

 攻撃でも、例によってのシンプル組織プレーと個人勝負が、うまくバランスしていると感じます。スペースへ入り込んでタテパスを受け、それをワントラップかダイレクトでスムーズに(そして効果的に)次へ展開して次のスペースへ入り込んでいく。そんなところに、彼の強い意志を感じるわけです。

 また勝負所でボールを持ったら、勇気をもった仕掛けに対する意志が充満する。特に、サイドゾーンでの一対一の勝負シーン。俊輔ほど、高い確率で、マークする相手を振り切って勝負パス(クロス)を送り込める選手はいないと再認識していました。そこですぐにアタマに浮かんだのが、アジアカップでのベトナム戦で、中村俊輔が同点ゴールを演出したシーン。それについては、昨年の「このコラム」を参照してください。

 とにかく中村俊輔が良いカタチでボールを持ったら、本当に効果的な「タメ」が演出される。ボールコントロールの妙と、それをベースに演出される「仕掛けの起点」。それは、チームメイトが仕掛けイメージを構築するための起点として機能するわけだけれど、俊輔がボールを持ったときの、周りの味方のボールなしのアクションの爆発は見応え十分でした。

 このキルマーノック戦でも、何度も、右サイドで相手を翻弄するだけではなく、そこから、危険なクロスを送り込んだり、ボックス内の味方へ、ズバッという勝負パスを送り込んだり、はたまた、自分自身が、勝負ドリブルやワンツーで切れ込んでいったりと、とにかく俊輔がボールを持ったら何かが起きるとワクワクさせてもらいました。

 このワクワク感が大切なのですよ。もちろん相手にとっては大いなる脅威。物理的にも、心理・精神的にもネ。だからこそ、中村俊輔のボール絡みの勝負プレーは、日本代表にとっても大変重要な武器なのです。もちろん「それ」が武器として機能するためには、攻守にわたる「組織プレー」のコンテンツが「岡田ベクトル」にフィットしていなければならないわけだけれど、まあそれについても問題ないだろうからね。とにかく、今から、日本代表でのフィッティングプロセスが楽しみで仕方ありません。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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