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2007_アジアカップ・・俊輔が演出した同点ゴールには殊のほか重要な価値があった・・それと、ベトナムが内包する膨大なエネルギー・・(日本 vsベトナム、4-1)・・(2007年7月16日、月曜日)

「サッカーは本物の心理ゲーム・・リードルさんは、日本が一回りも二回りも強い相手だからベトナムはノーチャンスだったと言ったけれど、先制ゴールを奪ったときは、何らかの希望の光を感じはじめたようなことはありませんでしたか・・サッカーは本物の心理ゲームだから・・」。試合後の記者会見で、ベトナム代表監督アルフレッド・リードルさんに対して、そんな質問をぶつけてみました。

 「いや、先制ゴールを奪ってからも、このまま勝つとはまったく思えなかった・・実際に同点ゴールを叩き込まれたのは、その5分後だったからね・・」。そんな言葉に、最前列に座るわたしは、リードルさんの目をじっと見つめつづけましたよ。「・・(分かったよ!?)確かにそうだな・・できるだけ長くリードを保てれば、そのことが日本にとって心理的なプレッシャーになるはずだし、時間の経過とともに、そのプレッシャーが大きくなっていくとは思っていたよ・・」。やっぱり、リードルさんは誠実なプロコーチじゃありませんか。

 「カタールに勝ったUAEのブルーノ・メツ監督に会ったら、どんな声を掛けますか?」。ブルーノのUAEが、カタールに逆転勝利を収めたことでベトナムが決勝トーナメントに進出できたのですが、その質問には、そんな意味合いも含まれていました。「別に・・ブルーノにとっても良い結果だったはずだからね・・彼には、オメデトウと言うしかないよ・・お互いギリギリの勝負をしているんだから・・それにオレはブルーノの携帯番号も知らないしさ・・」。場内に笑い声が響く。アルフレッド・リードルは、ホントに良いプロコーチだと思いますよ。彼については昨日のコラムを参照してください。

 ところで、ベトナムの先制ゴール。私は、それこそが、この試合における唯一のクリティカルポイント(危険でありものすごく重要な見所≒学習機会)だったと思っています。その先制ゴールは、コーナーキックから偶発的に入ってしまった鈴木啓太の自殺点だったけれど、それが内包していた意味は、殊の外大きかったと思っているのですよ。

 こんなことを書くと、いまの日本代表の精神的な強さを「甘く見ている」ということになってしまうけれど、アルフレッドの言葉どおり、もしベトナムが、そのリードをある程度の時間スパン維持できていたら、確実に心理プレッシャーは、倍々ゲームで増幅していったに違いないと思うのです。タラレバだけれど、遠藤のスーパーフリーキックにしても、あれほどリラックスしたキックはできなかっただろうし(プレッシャーがあったら微妙にキックの角度がプレていた!?)、パスやクロス、またスペースへ走り抜けるボールがないところでの動きにしても、少しずつタイミングやコースがプレはじめたに違いないと思うのですよ。

 確信レベルが十分なときのアクションのコンテンツと、心理的なプレッシャーがあるときの動きでは、微妙に、何らかの差異が出てくるものなのです。もちろんその背景には、サッカーには不確実な要素が満載されているという基本的な性質もある。サッカーは本物の心理ゲーム・・なのです。

 だからこそ、中村俊輔の「魔法」に心から敬服する次第です。左サイドでのスーパーなフェイント。そして、ファーポストスペースでフリーになっていた巻へ向けた、完璧なコースをトレースしていくクロスボール。感服しました。そして、同点ゴールを演出した中村俊輔に対して、心のなかで「アリガトウ」とも呟いていた。

 俊輔の個人勝負。UAE戦でも、このベトナム戦でも、何度か決定的な仕事を魅せてくれた。攻守にわたる組織プレーマインドが充実しているオシム日本代表だからこそ、そんな俊輔の個人勝負プレーは、得も言われぬほど重要な価値を内包していた。組織ベースの攻撃における、素晴らしく効果的な「変化の演出」という価値が・・。

 彼が、ドリブル勝負に入る前に魅せたパスレシーブの動き。そしてそこへ、ベストタイミングで出されたパス。そんな効果的な組織コンビネーションによってスペースでボールを持てたからこそ、俊輔も、「よし! ここがオレの見せ場だ! またチームにとっても効果のある勝負所だ!」と、1対1の勝負を仕掛けていけたのです。

 彼は、もうとっくに、個人プレーに対して「特別過ぎる」意味合いを持たせるような「マスターベーション・プレイヤー」は卒業したはずだからね。これからも、攻守にわたる組織プレーと、個の才能が光り輝く「変化の演出プレー」を理想的な高みでバランスさせられるでしょう。何せいまの彼は、そんな組織と個のバランスに深い充実感を覚えているはずだからね。

 そんな彼のプレー姿勢を感じているからこそ、左サイドで展開された得も言われぬほど美しいコンビネーションから中村俊輔が決めたスーパーシュート(日本の三点目)に対しても、自然と祝福の拍手をおくっていましたよ。

 ところで、ブルーノ(メツ監督)のUAE代表と、アルフレッド(リードル監督)のベトナム代表。ホントによかった。これでブルーノの首はつながったはずだし、アルフレッドもベトナムの英雄になれた。また、ベトナムで決勝トーナメントに臨む日本も、ベトナムの人々からサポートされるはずだからね(日本が勝ったことでベトナムが落ちなくてホントに良かった・・本当にアリガト、ブルーノ・・)。いや、ホントにすべてがうまくいった(望み通りになった)と感じていますよ。

 ところで、その準々決勝の相手が、オーストラリアに決まりました。実は、日本対ベトナム戦の後、Aグループの二試合を並行してテレビ観戦(一つはインターネットテレビ観戦)していたのですよ(だからHPのアップが遅れた)。

 このAグループは本当に錯綜していました。全4チームが「勝ち点4」で並ぶ可能性も大きかったからね。でも結局は、オーストラリアが、タイを「4-0」と粉砕して順位が決着しました。私は、オマーンを押していたんだけれど、結局はイラクと「0-0」で引き分けたことでグループリーグで姿を消すことになってしまいました。

 さてオーストラリア。これまでの試合内容は、昨年のドイツワールドカップのときとは比べものにならないくらいネガティブです。そこでは、(昨年のワールドカップでオーストラリアを率いた)フース・ヒディング監督のウデの確かさを再認識させられたといったところ。

 また、多くがヨーロッパでプレーするオーストラリア代表だから、高温多湿の東南アジアの気候条件は殊の外ハードなはずです。それでも彼らは、最後の最後になって、やっと実力を発揮した。サスガに潜在力は抜群です。日本にとっても、相手にとって不足なしじゃありませんか。このような強い相手とギリギリの勝負マッチを闘える。素晴らしいことです。またそこには、移動する必要がないとか、高温多湿の気候がDNAに組み込まれているといった、日本にとってポジティブなファクターもある。

 また、相手が強いオーストラリアだったら、勝たなければならなかった(実力差もアリアリだった)ベトナム戦とは、心理的なバックボーンもまったく違います。オーストラリアと対戦するときのオシム日本代表は、変な(歪んだ)心理プレッシャーなどに苛まれることなく、解放された心理状態で、存分に実力を発揮してくれるはずです。

 例えば相手に一点リードされたとしても、またそのリードが長くつづいたとしても、オーストラリアのチカラを認めているからこそ、吹っ切れた心理で、最後の最後まで存分に実力を発揮してくれると思うのですよ。とにかく、いまから楽しみで仕方ない。

 ところでハノイ市内。帰りは大変なことになってしまいました。Aグループの試合を観戦した後、後藤健生さんとタクシーで街中まで帰り、彼が宿泊しているホテルの近くで(もちろん屋台レストラン!)夕食を共にしたのですが、その後タクシーでホテルへ帰る途中、ものすごい騒ぎに巻き込まれてしまったのですよ。

 要は、ベトナム代表がアジアカップの決勝トーナメントに進出したことで、町を挙げて大変なお祭り騒ぎになってしまったということです。そうでなくてもハノイの交通はカオスなのに、それに輪を掛けた盛り上がりで、もうまったく動きが取れなくなってしまった。前方の交差点には、四方八方から大量のクルマとオートバイが入り込んでくるし、そのほどんどがお祭りを楽しんでいるから動こうとしない。

 これじゃ、いつまでたってもホテルに帰り着けないし、コラムを書きはじめることだって叶わない。ちょっと焦りはじめたとき、タクシーのドライバーが、強引に「Uターン」を決めてくれたのです。そこで、つい、「ブラーボ!!」という言葉が口をついた。言わずと知れた、オシムさんのモティベーション・ツールワード。ニコッと微笑んだタクシーの運ちゃんが(えっ!? ブラーボの意味が分かったのかい?)、一方通行ナニするものぞ・・ってな感じで、ガンガン逆走しちゃうんですよ。こちらは生きた心地がしない。それでも、対向してくるオートバイは、みんな器用に避けていた。

 コイツ等、ホントにライディングがうまいな・・なんて思っていたら、目の前のオートバイが、ガチャンとコケた。そしてそこへ重なるように何台ものオートバイがぶつかってコケつづける。私が乗るタクシーは、そこでは再び正規の方向を走行していたから事なきを得たわけだけれど、まあホントにすごいことになっていたんですよ。幸いなことに、見たところ、オートバイに乗っていた人が大事に至った様子はありませんでした。とにかく、ベトナムという国が内包するエネルギーの凄さをかいま見た気がしたモノです。

 だからさ・・そんなレベルを超えたスピリチュアルエネルギーをぶつけてくるベトナムが相手だったからこそ、俊輔が演出した同点ゴールには、ものすごい価値があったんだよ。

 ということで今はもう午前2時を回っています。今日はこれまで。まったく推敲なし。ということで、誤字、脱字、テニオハのミスなど、ご容赦。

 明日は久しぶりのオフにする予定だけれど、それでも「試合後のクールダウントレーニング」はしっかりと予定されている。そこでは、オシムさんの、サブ組に対するモティベーションが見物だしな・・まあ、面白い発見があったら報告するというスタンスで、こちらもリラックスしてトレーニングを観察しよう・・。ということで、かしこ・・。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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