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2007_オシム日本代表(その12)・・前半と後半で豹変したサッカー内容というテーマ・・(日本代表対コロンビア、0-0)・・(2007年6月5日、火曜日)

さて、どのように書きはじめましょうか。とにかく、このゲームでの重要テーマは一つしかありません。「その現象」は、イビツァ・オシムさんが志向するサッカーを如実に投影していたのですよ。主体的に考えながら、まず攻守にわたる汗かきアクション(ダイナミックな走り)からゲームに入っていくというプレー姿勢の重要性が見事に表現されていたということです。

 その現象とは、前半の停滞サッカーが、後半になって、人とボールが動きつづける抜群にダイナミックなサッカーに豹変したことです。

 わたしは、その「現象」を、1990年イタリアワールドカップでの出来事と重ね合わせていました。イビツァさん率いるユーゴスラビア代表のサッカーが、第一戦(対ドイツ・・1-4の大敗)から第二戦(対コロンビア・・1-0の勝利)へかけてポジティブに豹変した現象をね。

 これについて書きはじめたら長くなるから止めておくけれど(詳しくは、ギド・ブッフヴァルトとの『対談記事』をご参照ください)、とにかくイビツァさんは、そのゲームを通じ、個人プレーと組織プレー(攻守にわたってボールがないところでもしっかりと走ること!)のバランスがいかに大事かということを、ユーゴスラビア国民(&メディア)だけではなく、チームに対しても明確に指し示したのです。そしてチームを立て直し、素晴らしい成果を挙げた。

 この試合の前半で、チームのブレーキになっていたのは、稲本潤一でした。残念ながら彼は、まったく言い訳の立たないネガティブプレーに終始したのです。「一体なにをやってんだ・・インターセプトばかりを狙ったってダメだよ・・まず自分がチェイスして守備の起点になるんだよ・・汗かきができなくなったのか?・・以前の稲本のイメージはどこへ行ってしまったんだ・・何だ、ボールを持っても、こねくり回すばかりで、結局は逃げの横パスか・・」などなど、わたしは彼の実力をしっかりと心得ているつもりだから、その消極プレーが残念でなりませんでした。正直なところ、ちょっと腹も立ちましたよ。

 あれだったら、マラドーナのように、勝負ドリブルで相手を何人も抜き去ったり、相手の数人に取り囲まれても、まったく動じずに「タメ」を演出してスルーパスを繰り出すようなスーパープレーができなきゃ誰にも認められないということです。

 前半の日本は、コロンビアに、局面での個人勝負に持ち込まれてしまうシーンが続出しました。これでは、コロンビアのペースになるのも道理。何せ、個人のチカラではコロンビアに一日の長があるからね。

 だから日本は、組織プレーを前面に押し出さなければならなかった。組織プレーを機能させることで、ボールがないところで勝負を決めたり(人とボールの有機連鎖!)、人とボールをよく動かせることによってスペースでボールを受け(ある程度フリーでボールを持ち)、そこから(より有利なカタチで)ドリブル勝負にもチャレンジしていける。でも日本代表は・・。

 前半では、稲本が、明確な「二列目センターのフタ」になっていました。そこがゲームを停滞させていたのですよ。高原にしても、遠藤ヤットや中村俊輔にしても、そのフタがデンと居座っているから、組織プレーを機能させられない。特に高原直泰が可哀相だったね。彼は、個人で突破できるだけのチカラはないから、味方の効果的なサポートが必要だったのに、それを受けられず、最前線で孤立しちゃったからね。

 とはいっても、すべてを稲本の所為にするわけじゃありませんよ。遠藤ヤットにしても中村俊輔や高原直泰にしても、はたまた後方の鈴木啓太や中村憲剛にしても、稲本に対してアグレッシブな刺激(叱咤など)を与えるべきだったし、また彼の停滞プレーを無視して、自分たちだけでペースをアップしていくべきだった。それがあれば、稲本のプレーペースも確実にアップしたはずなのに・・。

 これから高原直泰とチームメイトになる稲本潤一。ブンデスリーガで揉まれれば、彼本来のダイナミックプレーが蘇ってくるはずです。また、アジアカップにも、彼の潜在能力を高く評価しているからこそ、是非メンバーに加えて欲しいと願っています。ガンバレ、稲本。

 ということで後半。稲本と同様に、あまり冴えなかった中田浩二も交代です。稲本の代わりには、ダイナミック組織プレーの権化、羽生直剛。中田浩二の代わりには、これまたダイナミック組織プレーの権化という形容句がピタリと当てはまる今野泰幸。

 その交代がチームのダイナミズム(活力・力強さ)を何倍にも活性化するのは、誰でも明確に予想できたはずです。そして案の定、日本代表のサッカーが何倍にもダイナミックに豹変するのです。特に、遠藤ヤット、中村俊輔、高原直泰のパフォーマンスが、動きの量と質の高揚をベースに何倍にもアップしたのはインプレッシブでした。

 この「現象」は、もちろん、選手たちのイビツァ・オシムさんに対する信頼感をアップさせたことでしょう。何せ、プレーがうまくいっていないことを最も敏感に感じ、それに対して一番不満を持っているのは選手たち自身だからね。そのネガティブな流れを、選手交代や「プレーイメージ作り」、はたまた「ハーフタイムの奇跡」などの手練手管でガラリと好転させてくれる監督に対する信頼は確実に深まっていくものなのですよ。

 もちろんそのことは、稲本にも当てはまります。彼とて、自分のプレーの情けなさを一番切実に感じていたはずだからね。スパッと交代させられたことに対して、(少し時間を置いて冷静になれば!?)確実にポジティブに捉えられるはずです。脅威と機会は表裏一体ということも含めてね。何せ、インテリジェンスも含め、あれほどのポテンシャルの地も主なのだから・・。

 最後に、鈴木啓太と中村憲剛の守備的ハーフコンビについて。あっと・・、今日の彼らのパフォーマンスだったら、まさに「ダブルボランチ」と呼んでも差し支えないでしょう。わたしは、ブラジルに敬意を表して、ボランチという表現はめったに使わないことにしているのです。でもこの試合での二人は、まさにダブルボランチという称号にふさわしかった。

 彼らの攻守にわたるクリエイティブプレーは、フォーバックだったからこそ意義がありました。フォーの場合は、とにかくハーフとのコンビネーションが命ですからね。ハーフでの「抑え」が、直接的に最終ラインのパフォーマンスを左右してしまうのですよ。

 鈴木啓太の高みで安定したクリエイティブ&ダイナミックな汗かきディフェンス。素晴らしいの一言でした。チームの誰もが、敬意を表し、感謝していることでしょう。彼については、ギド・ブッフヴァルトが、イビツァさんに直接リコメンド(推薦)したと聞いています。まあ、当然だね。
 また、攻守にわたって、まさに理想的なボランチというワクワク感を与えてくれた中村憲剛。このところフロンターレ中盤で、実効ある王様として君臨している彼の組織ポジションは、もちろん中盤での汗かきディフェンスにも精進しているからこそ確固たるものとしてキープできているのですよ。もしこれで中村のプレー姿勢が、尊大で傲慢なものになったら、すぐにでもその組織ポジションから引きづりおろされてしまうでしょう。フロンターレでの中村憲剛については「このコラム」をご参照下さい。

 謙虚さとリスクチャレンジへの大胆さこそが、発展のための最も大事なリソース!? まあ、そういうことです。

 それにしても、中村憲剛。後半14分の絶対的チャンスは決めなきゃね。高原のスーパーなボール奪取からはじまった一連のコンビネーション。中村俊輔と遠藤ヤットまで介し、最後は、彼ら全員を後方から追い抜いて決定的スペースへ飛び出した憲剛がシュートチャンスをもらう・・。理想的な組織プレーでの、本当に美しいチャンスメイクでしたよ。あれが決まっていれば、日本代表のプレーイメージ(脳内イメージタンクのコンテンツ)がワンランクアップしたのに。

 スミマセン、最後にまたまた「タラレバ」で・・。疲れたから、今日はこんなところでキーボードを置きます。推敲なしの乱文・・失礼。
 



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