湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第26節(2009年9月19日、土曜日)

 

今回は、本当にポイントだけを短くまとめようとは思っていたのだけれど・・(MvsA, 2-1, FRvsR,0-2)

 

レビュー
 
 今日は、神奈川県での二試合を「ハシゴ」。まず横浜で行われたマリノス対アントラーズ。そして間髪いれずに川崎(等々力)へ移動し、フロンターレ対レッズを観戦した次第。

 ちょっと気を入れ過ぎていたから疲れた。ということで、今回はホントにポイントだけを(箇条書きで!?)短くまとめることにしました。ご容赦アレ・・(でも結局は、しっかり書いちゃったりして・・あははっ・・)

 では、まずマリノス対アントラーズから。この試合、前半の早い段階で、全てのゴールが決まってしまいました。

 前半10分にマリノスの坂田大輔が先制ゴールを挙げれば(そのシーンでは、左サイドをオーバーラップした小椋祥平からの目の覚めるようなラストクロスが送り込まれた=小椋祥平に0.5点!!)、 その二分後の前半12分にはアントラーズの小笠原満男が同点ゴールを流し込み、 そしてその三分後の前半15分には、センターゾーンをドリブルで突き進んだ渡辺千真が、値千金の決勝ゴール(20メートルの中距離シュート)を叩き込んだ。

 この試合は、そこから、とても興味深い展開になっていきました。

 例によって、攻守にわたり、最高レベルの組織プレーを魅せつづけるマリノス。本当に、木村浩吉監督は良い仕事をしている。何せマリノスでは、集中を切らせたり、サボったりするようなプレー姿勢など、まったく目にすることがないんだからね。そりゃ、もちろんたまには見掛けるよ・・集中切れで「アタマ空白」になってしまった選手を。それでも、全体的には、攻守にわたる汗かきプレーの内容も含め(ボールがないところでのアクションの量と質)とてもハイレベルな共同作業(=組織プレー)を展開していると思うのですよ。

 それに対してアントラーズ。たしかに、何度かは決定的チャンスを作り出したけれど、どうも、「いつものアントラーズのチャンスメイク内容」からしたら、まだまだという印象の方が強い。ということで、オズワルド・オリヴェイラ監督に聞いてみた。

 「このところのアントラーズは勝ち点を失いつづけているが、その原因のなかで、最も大きなものは何だろうか・・」といったシンプルな質問。オリヴェイラ監督は、いつもは、複雑なサッカー要素を組み合わせて正確に表現しようとするけれど、シンプルな質問の場合、答える方も、ストレートに核心を突くコメントが得られることもあるんですよ。

  「決定力に課題がある・・たしかにアルディージャ戦では、相手の集中した守備にやられ、ほとんどチャンスらしいチャンスを作り出せなかったけれど、この試合も含め、その他のゲームでは、いつも十分なチャンスを作り出していたと思う・・でも決め切れない・・一度でもチャンスを外したら、次のチャンスでの、選手のテンション(緊張度合い)は、より高いものになる・・そして、またチャンスをゴールに結びつけられずに心理的な悪循環を繰り返すことになる・・この試合でのマリノスは、3本のチャンスのうち2本を決めた・・ただウチは、数本の決定機を一つも決められなかった・・まあ、それでは結果を得られないのも当然だ・・」

 でも私は、ちょっと違う発想をしていた。例によって・・本山雅志の不在。彼の存在の重要性については「このコラム」を参照して欲しいのですが、彼さえいれば、組織パスプレーが「もっと」スムーズにいくに違いないと思うわけです。

 優れた組織プレーは、優れた人とボールの動きとも言い表せるし、それがあるからこそ、効果的にスペースを活用できる。そして、だからこそ、個のドリブル勝負も「より」効果的に繰り出していける。

 でも、この試合でのアントラーズは(たしかに何度かはチャンスを作り出しはしたけれど)どうも最後まで、単発という印象をぬぐえなかった。以前だったら、彼らが勢いに乗って攻め上がってきたら、とても危険なニオイがしたものなのに(ウラをスペースを続けざまに攻略してしまうとか・・)この試合では、ゴリ押しの個人勝負がベースになったチャンスだったから・・

 だから、普段は危険この上ないマルキーニョスのドリブル勝負も、「ゴリ押し」という印象がぬぐえなかったし、そのトライも、ことごとくマリノスに潰されていた。フムフム・・

 マリノスだけれど、最後の最後まで(後半の出来が良くなかったとはいえ)守備での集中が途切れることはなかった。交替出場した河合竜二も、全力でチェイス&チェック(相手ボールホルダー=パスレシーバーに対する迫力のアプローチ!)をつづけていた。その意識と意志の高さは特筆モノだったし、そこまで選手をモティベートした(共通のイメージで限界まで闘わせた!?)木村浩吉監督に大拍手だった。だからこそアントラーズも、余裕をもって仕掛けの起点を作り出すことができかなった。フムフム・・

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 何か、もっとポイントがあったように思うけれど、ホントに発想の(想像力と創造力の)エネルギーが枯渇しそうだから、ここからは、フロンターレ対レッズの勝負マッチを、ポイントを絞り込んでレポートします。

 それにしても、フロンターレは強いチームだ(強いチームになった)よね。その絶対的ベースは、言わずと知れた攻撃力。そのことについて、関塚隆監督に質問をぶつけてみた。

 「ちょっと質問が一般的になってしまうけれど・・フォルカー・フィンケが、フロンターレの攻撃力はリーグ随一だと言っていた・・私もそう思うけれど、関塚さんが、そのことにアグリーかどうか・・またアグリーの場合、そのもっとも重要なポイントは、どこにあるかを教えてもらえないだろうか?」

 「まだリーグが終わったわけではないから、すべての要素をさらけ出すわけにはいかないですが・・まあ、ウチの場合は、よいタレントに恵まれているというのが一番大きいですよね・・でもタレントだけでは良い攻撃はできないし、勝てもしない・・個の才能には、いろいろなタイプがあるわけで、それを、我々がやりたいサッカーという視点だけじゃなく、次の相手に対するゲーム戦術的な視点でも、最高のパフォーマンスを発揮できるように、いろいろと組み合わせるのですよ・・まあ、結局は、そのタレントが持つ才能とエネルギーを、フォア・ザ・チームというベクトル上で、いかに限界まで発揮させられるか・・それがテーマなのです・・」

 関塚隆監督は、本当にアタマがいい。インテリジェンスにあふれているよ。結局、選手は、監督については、「アタマが良いかどうか・・」というポイントしか見ていないからね。フロンターレが一つにまとまるのもよく分かる。

 ここでは攻撃力にスポットを当てたけれど、彼らの「守備力」もまた、リーグ随一かもしれないネ。この試合でも、レッズの攻撃を(全体としては)とても効果的に抑制していたと思いますよ。もちろん、何度かは崩されたし、結局そこから(=流れのなかでレッズの仕掛けに振り回されて!)二点目を奪われてしまったけれどネ。

 あっと・・このレッズの二点目。とても素晴らしいゴールだったわけだけれど、フォルカー・フィンケも、「あのようなカタチで(要は、彼がイメージする高質なコンビネーションを基盤にして)流れのなかからゴールが奪えたことは、本当によかった・・」と胸を張っていた(胸をなで下ろしていた!?)。

 それも、強力なフロンターレ守備ブロックを崩し切って挙げたゴールだったから、とても意義が深いと思う。またそこには、素晴らしいプレーを披露しつづけている守備的ハーフの鈴木啓太が、タイミングよくオーバーラップして叩き込んだゴールだった(真の組織コンビネーションによる最終勝負)という意味合いもある。

 そのチャンスメイクは、連敗中のレッズからは、ちょっと想像し難いモノだったよね。ウラの決定的スペースを、人とボールが素早くスムーズに動きつづける「ハイレベルな組織コンビネーション」で何度も攻略してしまったんだからね。それも、強力なフロンターレ守備ブロックを相手にして・・

 この試合では、梅崎司も、攻守にわたるボールがないところでのアクション(動き)の量と質という視点でも、とても素敵なパフォーマンスを魅せてくれた。これから、田中達也、山田直輝が全面的に復帰してくるだろうし、セルヒオも復活してくるでしょ。そこでの、アンビシャスに若者たちによるライバル争い。とても興味深いよね。そこでこそ、フォルカー・フィンケの、心理マネージャーとしての本当にウデが問われるということになります。

 サッカーチームには、様々な不満が蠢(うごめ)いていなければなりません。不満が目立たないような「仲良しクラブ」という心理環境では、闘う意志も含め、 決してレベルの高い発展など期待できないのですよ。

 私は「心理の剣が峰をいくグループ」と呼ぶけれど、そんなギリギリの緊張感のなかでこそ、選手たちは、最高の発展プロセスを歩むことができるものなのです。もちろん、たまには、(剣が峰ではない)平野をゆったりと散策するような「安定した心理環境」が必要になることもあるわけだけれどネ。だからこそ、監督の「優れたバランス感覚」が求められる・・

 ちょっとハナシが安定しないな〜。とにかくここでは、レッズが、一時期のピンチは脱出しつつあるということが言いたかった。

 もちろん、まだまだ、守備での(最終勝負シーンでの確実なマーキングとかチェッキングといった)ギリギリの安定性を向上させるだけではなく、攻撃でも、人とボールが活発に動きつづける組織コンビネーションの量と質を『再生』していかなければならないわけだけれどネ。

 その「再生プロセス」でもっとも大事なポイントが選手の自覚(意識と意志)の高揚にあることは言うまでもありません。徐々に、(正しいサッカーに対する強い意志を秘めた)主力選手も揃いつつある。さて、フォルカー・フィンケのお手並み拝見といくか・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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