湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2009年8月29日、土曜日)

 

ツボにはまったアルディージャのゲーム戦術・・(本山雅志がいないことで!?)仕掛けの変化を演出できないアントラーズ・・(ARvsA、3-1)

 

レビュー
 
  「素晴らしいホームゲームだった・・選手たちに感謝したい・・足を運んでくれたファンの方々も満足して家路につかれたに違いない・・この試合のキーポイントは、優れたアントラーズの攻めを、しっかりと抑え切れたこと・・とにかく、中盤で、彼らの攻めを遮断できたことが大きかった・・」

 「ゲーム戦術」をうまく機能させつづけたことで、まさに思うがままのサッカーを展開したアルディージャの張外龍監督が、そう胸を張っていた。

 そんなコメントを受け、こんな質問を投げかけてみた。

 「いま張さんが言われた、中盤でのアントラーズの攻めを遮断できたというポイントと、ハーフタイムで選手たちに投げかけた、後半も最終ラインを集中してコントロールすること・・という戦術的な指示ポイントは、とても強くリンクしていると思う・・要は、最終ラインを高くコントロールするというリスクを負うことで、中盤でのスペースを消し、そこで相手ボールホルダーに十分なプレッシャーを掛けつづけられたという風に理解しているが・・」

 「まあ・・そういうことだ・・最終ラインを上げることにはリスクが伴うが(それを負ってもなお)よい(積極的な)ゲームを展開できることの方が重要だ・・それがあったからこそ、中盤で(例えば!?)アントラーズの重要なゲームメイカーである小笠原満男を抑え、彼らの攻めを中盤で遮断できたということだ・・」

 ということで、この試合でピックアップすべきテーマは、「このポイント」に絞り込まれるということになります。

 優れた攻撃コンテンツ(仕掛けプロセスでの、優れた、組織イメージのシンクロコンテンツ!?)を内包するアントラーズが、この試合では(このところのゲームでも全般的に!?)相手の強化ディフェンスブロックを崩しきれなかった・・

 その背景要因だけれど、いの一番に(前述した)この試合でアルディージャが徹底しつづけた、忠実&クリエイティブ、そして勇気あるディフェンスを挙げないわけにはいかない。特に、橋本早十と金澤慎で組んだ守備的ハーフコンビが展開した、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実なチェイス&チェックや、(スペースケアとしての)マーキングの穴埋め作業など。本当に素晴らしい縁の下の力持ちパフォーマンスでした。

 もちろん「そんな忠実な汗かきプレー」がうまく機能しつづけたのは、最終ラインが、積極的に押し上げたから(攻撃的なラインコントロールをつづけ、中盤スペースも上手くコントロールしつづけたから)に他ならない。張監督も言っていたけれど、たしかに、マトと片岡洋介で組むセンターバックコンビは、自信あふれたラインコントロールを魅せていたね。とはいっても(これも張監督が指摘していたけれど)両サイドバックのプレーには、ときどき集中切れ(ポジショニングバランスのミス)が出ていたけれどね。

 そして次の背景要因として、アントラーズの攻めというポイントに移っていくわけです。

 たしかにアルディージャの守備ブロックは強固だったし、選手も、積極的にリスクチャレンジを繰り返すなど、とても良いプレーを披露した。とはいっても、そこはアントラーズだからネ。流れのなかから上手くチャンスを作り出せなかった(押し上げ気味だったアルディージャ最終ラインの背後に広がる決定的スペースを突いていけなかった!?)という事実は重い。

 そのことについて、オズワルド・オリヴェイラ監督に聞いてみた。「強力なアントラーズ攻撃陣にしては、また、あれほどゲームを支配している割には、流れのなかから上手くチャンスを作り出せなかった・・アルディージャの強化守備ブロックを崩せず、数えるほどしか決定的と呼べるチャンスを作れなかったわけだが(実際には、一つしかチャンスメイクできなかった・・なんていう失礼な言い方だったかもしれない・・スミマセンね!)、その要因をどのように考えるか??」

 それに対するオズワルド・オリヴェイラ監督のコメントは、「準備はしっかりとしていたが、それでも、うまく機能しない時もあるさ・・大事なことは、シーズン全体を通して、いかにサッカーを高いレベルに維持しつづけられるか・・そして、その結果として良い成績を残せるか・・ということだ・・」なんて、ちょっとはぐらかされた感があったけれど・・。

 ということで、ここで、私なりの要因を探ってみることにするわけです。

 たしかに、アルディージャ張監督が言うように、この試合では、小笠原満男からの「必殺の一発ラストロングパス」が飛ぶシーンはなかった。一度だけ、決定的スペースへ抜け出した興梠慎三へのトライはあったけれど、結局は、相手ディフェンダーに読まれて「先回り」されてしまった。

 小笠原満男は、パスレシーバーの動きが上手く連動しなかっただけではなく、中盤でハードなチェックを受けつづけていたことで、ラスト・ロング・パスを飛ばす余裕を持てなかったということだね。たしかにそれは、とても大事なポイントだった。

 もう一つ。私は、本山雅志の不在が、殊の外大きなマイナス要因だったと思っています。攻守にわたって「全力の汗かきプレー」にも精進できる天才プレイヤー・・。本山雅志の才能レベルをよく分かっているつもりだからこそ、アントラーズのチームメイト同様に(!?)彼の汗かきプレーを、とても高く評価している筆者なのです。

 本山雅志が作り出す、攻守にわたる組織プレー的な価値は、もう、ダニーロとは比べモノにならない。本山が繰り出す、ボールがないところでの「大きく鋭い動き」があるからこそ、マルキーニョスも、うまくスペースを探し出せるし、フリーでパスも受けられる。また野沢拓也にしても、本山雅志が展開する、攻守にわたる「ボールがないところでの汗かきの動き」があるからこそ、次のボール奪取勝負シーンに効果的に(あまり苦労せずに!?)絡んでいけるし、攻撃では、本山雅志が作り出したスペースをうまく活用したりできるのですよ(まあ漁夫の利に近いシーンが多いよな!・・だから、本山雅志がいなくなったら、とたんに元気がなくなってしまう!?)。

 そんなだから、本山雅志という(天才的なドリブラーでもある!)ボールがないところでの創造性プレイヤーがいないことが、アントラーズの(効果的な個人勝負を仕掛けていけるための絶対的ベースとしての!)スムーズな組織プレーの量と質に、暗い影を投げかけていると思うわけです。

 そして最後の要因が、自分たちのイメージを追いつづけ「過ぎる」アントラーズという視点。たまには「エイヤッ!」のシンプルな勝負プレーも繰り出していかなければならないのですよ。

 シンプルなタイミングで、相手ゴール前ゾーンに「アーリークロス」を放り込んだり、中盤からの「スペースをつなぐドリブル」で上がり、唐突にロングシュートを放ってみたり、はたまた、ニアポストゾーンへの、強いシュート性の「ライナークロス」を送り込んだり・・。

 とにかく、そんな「仕掛けの変化」こそが、相手守備の「組織イメージ」を崩していくということが言いたかった筆者でした。

 アレッ・・!? 本山雅志という、攻守にわたるコアになる組織プレイヤーの不在・・相手が守備ブロックを固めてくる・・仕掛けの変化を演出するための吹っ切れたトライ・・。それって、レッズのケースと似通っている!? レッズでは、山田直輝がケガで戦列を離れているし、例外なく相手が守備を固めてくるし(しっかり守ってカウンターというゲーム戦術!)、そんな厳しい状況であるにもかかわらず、頑(かたく)なに自分たちの仕掛けイメージにこだわりつづけるし・・。フムフム・・

 まあ、この試合については、こんなところでしょうか。ヴィッセル対レッズ戦は、週明けにでも、ゆっくりとビデオ観戦することにしましょう。それにしてもレッズは、リーグ7連敗ですか〜〜・・・

------------------

 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

=============

 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]