湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2008年4月26日、土曜日)

 

アグレッシブさでヴェルディに軍配!?(ヴェルディ対グランパス、2-0)・・良いイメージが戻りつつあるレッズ!?(サンガ対レッズ、0-4)

 

レビュー
 
 「今日は勝てる内容ではなかった・・中盤でボールを失いすぎていたし、セカンドボールもうまく拾えなかった・・要は、自分たちのゲームではなかったということ・・アグレッシブにプレーできなかったとも言える・・逆にヴェルディは、非常にアグレッシブにプレーしたと思う・・」

 試合後のピクシーの弁です。アグレッシブ、ね〜〜。

 私は、グランパスのサッカーを、そんなにネガティブには観ていませんでした。特に前半などは、全体的なサッカー内容で、明らかにグランパスがヴェルディを凌駕していたからね。それでも、後半になって、ガラッと様相が変わっていったことも確かな事実。こちらは、後半は、もっとグランパスがゲームを支配するに違いないと思っていたわけだけれど、実際は、その逆だったのですよ。

 前半についてグランパスが凌駕したと表現したわけだけれど、そのグラウンド上の現象は、こんな感じでしょうか・・。

 とにかく守備の「量と質」が違う・・最前線から忠実にチェイス&チェックを繰り出しつづけるグランパス・・そして「その守備の起点」を中心に、素早く、効果的に「守備網」が組織される・・そこでは、誰一人としてサボッている者はいない・・まさに、有機的なプレー連鎖と呼べるほどハイレベルなグランパスのボール奪取プロセス・・その積極性は、もちろん次の攻撃を力強くドライブし、特にボールがないところでの動きが活性化していく・・そして人とボールが効果的に動きつづける・・力強い守備は、そのまま次の攻撃の心理的なベースになるもの・・やはり守備こそがサッカーの絶対的基盤なのだ・・

 このテーマについては、以前の「グランパス・コラム」も参照してください。

 そんなグランパスに対抗するヴェルディ。たしかに、柱谷監督が言うように、(ゲームプランとしての)中盤守備に対する意識付けが効いたようで、選手たちは、しっかりと戻ってディフェンスに入って「は」いた。でも、実際の守備アクションは、彼らが目指した守備戦術に比べ、そんなに首尾一貫したものじゃなかった。

 チェイス&チェックは、どちらかといったら「アリバイ的」だし(相手ボールホルダーに対する抑えが効いていない!)、その周りでのマーキングにしても、どうもいい加減・・こんなだから、グランパスに上手くスペースを使われてしまうシーンが続出するのも道理・・それも、一発スルーパスを何度も通されかけちゃったりして・・とにかくヴェルディは、まずしっかりと守備の起点(チェイス&チェックからのボールホルダーに対する抑え!)をしっかりと演出しなければならなかったのですよ。

 前半がそんな展開だったし、これまでのグランパスは、後半に「爆発」するゲームが多かったから、このゲームでも、後半はグランパスがヴェルディをもっと押し込んでいくはずだと想定してしまったわけです。でも実際は・・

 あの、前半から後半にかけての「ゲームの流れの変容」は何だったんだろうね。後半の内容「だけ」をみれば、冒頭のピクシーのコメントが当てはまるのですよ(もちろん時間が押し詰まってきてからはグランパスがガンガン攻めつづけ、シュートもガンガン打ちつづけたワケだけれど・・)。それは、グランパスのパフォーマンスが「落ちた」からなのだろうか、それともヴェルディのサッカーが(要は、守備が)活性化したからなのだろうか?? まあ、その両方が、バランス良く作用したということなんだろうね。

 ヴェルディの中盤守備が活性化したことで、グランパス選手の足(アクション)が停滞気味になり、そのことで(ヴェルディの中盤守備がより効果を発揮しはじめたことで)ゲームの流れがヴェルディへと傾いていった!? まあ、そういうことなんだろうね。

 とにかく、全体的には「僅差」だったけれど、ゲームの流れ(ゲーム戦術や実質的なプレー内容)からすれば、ヴェルディが3ポイントを(偶然要素も加味したニュアンスで!)フェアに勝ち取ったゲームだったとすることができそうです。

 ところで、冒頭のピクシーのコメントにあった「アグレッシブ」という表現。気になったから、こんな質問をしてみた。

 「何度も、アグレッシブさという表現を使われたが、グラウンド上の現象に置き換えると、そのアグレッシブさは、どんなプレーをイメージしているのだろうか・・」

 それに対してピクシー。「それは、スリーラインのバランスを上手く保つための後方と前方とのコミュニケーションだ・・もちろん、アグレッシブにプレーするためには、それ相応のフィジカル準備が必要になる・・」

 フムフム・・。多分、その発言の意味するところは、こんなことなんだろうね。アグレッシブなプレーとは、スリーラインを、しっかりとコンパクトに保ちながら効果的なプレッシング守備をやりつづけること・・それがあれば、次の攻撃も、より積極的に仕掛けていけるはず・・そのために、守備ブロックと攻撃ブロックが、常に緊密に連携しなければならない(効果的にコミュニケートしつづけなければならない)・・コンパクトなサッカーをやり通すためには、それ相応のフィジカルコンディションが大前提になる・・などなど。

 そうそう、やっぱりグランパス躍進の原動力は、高い守備意識であり、それに基づいた攻撃での(ボーがないところでの!?)リスクチャレンジ姿勢にあり・・ってなことなんだろうね。これについても「先ほどのコラム」を参照してください。

 これから、京都サンガ対レッズの試合をビデオで観戦します。内容があればレポートしますので・・。

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 結局(フラストレーションが溜まるテレビ中継にもかかわらず!?)京都サンガ対レッズの試合についても簡単にレポートしておくことにしました。もちろん、私のアーカイブとしてね。

 まず・・このテレビ中継についても、カメラワークが気になったことから入らざるを得ない。こちらが観たいところ(ボールがないところでの攻守のドラマ)がテレビ画面に映し出されないのですよ。カメラワークでの「引き方」と「寄せ方」に明確な意図が感じられない。何となくボール周辺にカメラアングルを置いているっちゅう感じ。これでは、観ている方のフラストレーションが蓄積されるのも道理。フ〜〜

 まあ仕方ない・・。ということで試合。レッズ先発は、前節アルディージャ戦と(相馬崇人を除いて)同じです。トゥーリオと細貝萌が守備的ハーフコンビを組み、エジミウソンをワントップに、高原直泰と永井雄一郎が「ツー・シャドー」を組む。

 前戦トリオのゲーム戦術的タスクですが、私にはそう見えたんですが・・。高原にしても永井にしても、中盤深いところまで下がって守備に就いていたし、そこでパスを受けて展開ステーションになったりしていたからね。ということで、こちらは、そのようなことになるまでのプロセスも脳内イメージタンクに焼き付けたかったというワケなのです(だからカメラアングルが・・)。

 まあ仕方ない・・。前半を大雑把にくくれば、京都サンガが積極的に攻め上がり、レッズが、カウンターやセットプレーからチャンスを作り出すというゲーム展開イメージでしたかね。要は、サンガが積極的に前からボールを奪いに行ったということです。とはいっても、レッズが(このところ多かった)余裕なく押し込まれるというのではなく、ほとんどの場面で、サンガ攻撃をしっかりと受け止められていました。でも、その後の攻撃がいただけない。まだまだボールがないところでのアクションの量と質が減退気味なのですよ。もちろんツボにはまれば、永井雄一郎の爆発ドリブルなどを介した鋭いカウンターを繰り出していったり、セットプレーで惜しいチャンスを作り出したりするけれどね。

 そんな前半だったけれど、それでも時間の経過とともに、徐々にレッズも(全体的に)ペースをアップさせていったと感じました。その背景には、永井雄一郎と高原直泰の、前後左右のアクションラディウス(行動半径)が広くなっただけではなく、トゥーリオと細貝萌の(特に前戦に絡んでいくような)アクションラディウス(行動半径)が増大したこともある。

 要は、この四人が「縦方向に」ポジションをチェンジするような(まあ、そんなに大胆ではないけれど・・)シーンが出てくるようになったということです。攻撃では、トゥーリオと細貝萌が、何度も最前線ゾーンに顔を出すようになっていったし、逆に(この二人のどちらかが)両サイドの山田暢久や平川忠亮をオーバーラップ「させて」自分は後方のバックアップに入る・・なんていうシーンを演出したりしていたのです。

 そして後半も、レッズのポジティブなサッカーの流れが増幅していくのです。そして、サンガ田原の退場劇から、その直後のレッズ先制ゴールへとゲームが急激に動きはじめる(その直前には、一発カウンターから、幡羅の絶対的シュートチャンスもあったっけ)。

 それにしても、永井雄一郎の(高原への)スルーパスは見事だった。永井は、前半から、効果的なゲームメイク&チャンスメイク(要はパサー役)もこなしていたからね。その地道な蓄積が、このスルーパスに結実した!?

 そしてその後は、レッズの独壇場という展開になっていく。

 実効レベルが上がった積極(プレス)ボール奪取プレーを基盤に、人とボールを活発に動かしつづけるなかで、流れのなかから何度もチャンスを作り出しつづけるレッズ。特にサイドからのクロスが効果的だった。何せ、中央ゾーンには、タイミングよく上がってくる(=サンガ守備に気付かれない消えるプレー=サンガ守備陣にとって見慣れないヤツが急に現れるからこそ効果的!)トゥーリオだけではなく、高原やエジミウソン、永井だっているし、たまには細貝だって顔を出してくるんだからね。

 そしてレッズは、最終的には「4-0」というビッグスコアで京都サンガに大勝を収めたわけだけれど、もちろんこの試合でも、彼らのプレーには「光と影」があった。

 とにかく、攻守にわたって、積極的に「アクト」していかなけば、決して良いサッカーを展開することは出来ないということです。(攻守にわたり・・究極の主体性をもって・・)考えて走る!? まあ・・そういうことだけれど、レッズの場合は、中盤でのトゥーリオのリーダーシップが機能しはじめたら良い流れになる。その意味でも、トゥーリオに対しては、(彼自身の発展のためにも!)もっともっと要求しつづけなければなりません。仲間を叱咤激励するだけじゃなく、攻守にわたる自らの「アクト」によって仲間を刺激しつづけることを要求するのですよ。この「攻守にわたるアクト」に多くの「汗かきプレー」も含まれることは言うまでもないよね・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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