湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第2節(2008年3月15日、土曜日)

 

グランパスが魅せたダイナミックサッカーに乾杯!・・レッズについては選手たちの「意志の低迷」が心配・・(レッズ対グランパス、0-2)

 

レビュー
 
 さて・・何から入りましょうか。やっぱりフェアに、グランパスが展開した素晴らしいダイナミックサッカーというテーマから入ることにしましょう。まず、ピクシーに対して、こんな質問をぶつけたところから・・。

 「ストイコビッチ監督が現役のとき、もちろんボール絡みの素晴らしいプレーは言うまでもなかったわけですが、私は、最前線から全力でボールを追いつづける(汗かきのチェイス&チェック)ディフェンス姿勢に感銘を受けたものでした・・わたしは、この試合でグランパスが展開した素晴らしいサッカーの絶対的なベースは、何といっても優れた守備意識にあったと思っているのですが、そのテーマについてコメントをいただけませんか・・」

 ピクシーは英語で受け答えをしていたわけですが、どうも(広く深いに違いない彼の発想を言葉に託すプロセス)不自由さがヒシヒシと感じられる。どうして母国語でやらないのだろうか・・?? まあ、何らかの事情があるんだろうけれど、記者会見は母国語で、後の「囲み取材」では英語で受け答えするようにすべきだと思いますよ。

 あっと、蛇足・・。わたしの質問に対してピクシーが答えた骨子ニュアンスは、こんな感じだったでしょうか。

 「私にとってもっとも大事な目標イメージは、グランパスを組織的にまとまった良い(美しい!?)チームに成長させること・・攻守にわたって組織的なプレー姿勢をつらぬきつづけるような強いチーム(良いサッカー)・・この二ヶ月、モダンサッカーにとって何が重要なのかを言いつづけた・・その基盤があってはじめて、美しさを、技術的、戦術的に表現することが可能になる・・それこそが我々の目指す目標イメージだ・・」

 また、別の質問に対して、「フィジカルが重要だ・・サッカーを(本当の意味で)楽しめるようになるためにも・・フィジカルと高いモティベーションが、良いサッカーをするためのベースになる・・」とも言っていた。そこで使われたキーワードが「プレイ・フットボール」。要は、サッカーを楽しむためには、攻守にわたって、汗かきも含めて、しっかりと走らなければならないということが言いたかったのでしょう。

 とにかく、ストイコビッチ監督の(ちょっと簡単すぎる!?)英語での受け答えを、一生懸命、広く深く(応用)理解しようとする(私の)モティベーションが自然と高揚していくくらい、このゲームでのグランパスは素晴らしいサッカーを展開したということです。

 冒頭で質問したように、とにかくディフェンスが素晴らしかった。チェイス&チェック・・その周りで展開される「予想ベースのボール奪取狙いプレー」・・遠いゾーンでの忠実マーキング・・などなど。そんなグランパスのダイナミック守備に追い立てられるように、レッズのボールの動きが寸詰まりになっていく(人の動きが全くといって出てこないのだから、それも当然!)。

 簡単に予測できるような横パスや逃げのパス。そして、一つひとつのプレーの後で足を止めてしまうレッズ選手。ボールがないところでのプレー(動き)の量と質がアップしていかないのだから、ある程度フリーでプレーできるはずがない。もちろんそれは、彼らがスペースを活用できていない(≒攻撃の起点を十分に演出できない)ことと同義です。とにかくグランパスは、ダイナミックな守備によって、レッズを心理的な悪魔のサイクルにまで追い込んだと言えるでしょう。

 ということで、グランパスにゲーム内容で凌駕されたレッズ。彼らは、グランパスのプレッシャーを、まったくといっていいほどコントロールできていなかった。

 昨年までだったら、いくら押されている状況でも、相手が押し上げてくる攻撃の「勢い」をしっかりとコントロールできていた。要は、相手のボールの動きを「追い込む」ことで、次のボール奪取ポイントを明確にイメージできていたということです。だから、全体的に押されているとはいっても、その現象に対する形容句は「相手の攻撃をしっかりと受け止め・・」ということになるわけです。ただ、この試合では・・。

 こんなにレッズ守備ブロックが「振り回される」ゲームを観るのは本当に久しぶり。とにかく彼らは、グランパスのダイナミックな組織パスプレー(横パスや逃げパスなどは皆無の、人とボールをしっかりと動かす攻撃的ポゼッション!)に対して、多くのシーンで後手後手にしか対応できていませんでした。まさに、リアクションサッカー(後追いの対応を繰り返すだけのディフェンス!)。

 パスが来るのは分かっているのに、どうしてマークを詰めていかないんだ・・どうして、もっと素早く相手ボールホルダーへの間合いを詰めていかないんだ・・どうして、安易にアタックを仕掛けてしまうんだ(アリバイ守備!)・・などなど、うまく守備の起点を作り出せないことでボール奪取がままならないレッズ守備ブロックに対して、フラストレーションがたまりつづけたものです。

 闘う意志の欠如・・多くのシーンで陥っていた、アナタ任せのプレー姿勢・・だから足を止めて様子見になってしまう・・

 そんなシーンを観ながら、サッカーの基本的コンセプトに思いを巡らせていました。サッカーは、自由であるからこそ(最終的には自由にプレーせざるを得ないからこそ)究極の意志のスポーツ(主体スポーツ!)と言える・・

 ・・その「意志」が、プレー内容に如実に表現されてくるのがディフェンス・・そこでは、一人ではなく、チーム全員がプレーイメージを共有することで「有機的な(組織)プレー連鎖」を演出しなければならない・・一人でも「これじゃダメだ・・やってられネ〜よ・・」等とふて腐れて足を止めたら最後、そこからチーム全体の「機能性」の崩壊がはじまる・・崩壊がはじまったら、その流れを止めるためには、ものすごいレベルの「意志」が必要になる・・そして、その意志がチームとして「重ね合わなければ」、すぐにでも奈落の底に突き落とされる・・

 とはいっても、満足な仕事ができなかった高原直泰に代わって永井雄一郎が出てきた後半の立ち上がりには、明確に、レッズの攻守にわたるサッカー内容に「回復」の兆しが見えました。動き回ってパスターゲットになるだけではなく、しっかりとキープしてシンプルに展開したり、勇気をもってドリブル勝負を仕掛けていったりと、素晴らしい「攻撃の変化」を演出しつづける刺激プレイヤー、永井雄一郎だったのです。

 永井雄一郎にとって、高原直泰とエジミウソンは(緊張感と危機意識を高揚させるための)究極の刺激だったに違いありません。開幕ゲームのマリノス戦でも、途中交代で二列目に入った彼は、ボールがないところで動き回り、仕掛けの起点としてうまく機能できていたからね(まあその後は、彼とは関係ない要因でレッズのサッカーが寸詰まりに逆戻りしてしまったけれど・・)。

 とにかく、永井雄一郎という「刺激」を得たレッズは、何度か決定機を作り出すまでに回復したのですよ。でも、そんな良い流れが、次の選手交代によって寸断される。私の目には、まさに「良いサッカーの流れが寸断された」と映っていました。それは、鈴木啓太と梅崎司の交代。「あの」鈴木啓太が、疲れが見えていた(記者会見の後の、外国人ジャーナリスによる囲み取材でオジェック監督が言及)ということでベンチに下がったのですよ。そのとき私は、「エ〜〜ッ!?」と言葉を失った(最初はケガかと思ったが、実際には違った)。

 たしかに後半の立ち上がりは、(レッズの)イケイケの積極的な仕掛け姿勢が出てきたことで、鈴木啓太は、何度も「リスキーな仕掛けパス」にトライし、そのうちの何本かをミスってしまった。それだけではなく、彼には珍しい(勇み足アタックによる!?)ディフェンスでのミスもあった。とはいっても、そんな啓太の「攻撃的な姿勢」と永井雄一郎の勢いが相まってチームに勢いを与えていたことも確かな事実。その啓太が・・

 案の定、そこから、レッズの前への勢いが大きく減退してしまった。梅崎はディフェンスが出来ない(やらない!?)。もちろん「寄り」はするけれど、本物のボール奪取勝負を仕掛けるワケじゃないし、ボールがないところでのマーキングを忠実に(最後まで)継続するわけでもない。まあ、守備ブロックにとっては、逆に「迷惑な」中途半端ディフェンス姿勢だということです。これじゃ、それまでレッズが乗っていた、攻守にわたる「積極的な仕掛け姿勢」が逆流するのも道理。フ〜〜

 グランパスが(内容的にも)順当な勝利を掴んだゲーム。とにかく、レッズ選手たちの「意志レベルの低迷」が心配です。チームは、選手のなかだけで話し合いの機会をもつべきだね。また、選手の代表とオジェック監督が話し合うことも必要になるかも。

 とにかく選手は、監督とは関係なく、プロとしての(個人事業主としての)自分たちの「為すべき仕事の内容と、その共通の目的」を再認識しなければいけません。いまは、選手のセルフ・モティベーション能力「も」問われているのです。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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