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2016_ドイツ国際会議(その6)・・クリストフ・ダウム・・講演とデモンストレーションの「内容」でも、異次元の存在感だった・・(2016年7月26日、火曜日)

すごいネ〜、クリストフ・ダウム。

これまでのイメージ通り、ものすごいダイナミズムで講演をこなした。また、つづいて実技のデモンストレーションも披露するとのこと。

いまは、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が借り切ったスタジアムの観客席でコンピューターに向かっているんですよ。そう、まず講演内容をメモっておこうっちゅうわけさ。

だから、観客席の最上階に設置されたデスクを確保するために、素早く大ホールを出て一番バスに乗ったんだ。

そう、国際会議が行われている(私が泊まっているホテル隣接の!)大ホールからスタジアムまでは、バスで移動しなきゃいけないほどの距離なんだよ。

クリストフは、40分ほど、力強い声とジェスチャー、活き活きとした表情の変化を駆使しながら、ものすごくインプレッシブに話しつづけたっけ。

今回のテーマは、攻守の切り替えということだけれど、もっと端的に言ったら、「はじめからショートカウンターをブチかますことを目標にした」フォアチェックのシンクロ・・とも言えそうだね。

要は、ドルトムント時代のユルゲン・クロップが広めた「ゲーゲン・プレッシング」を、より進化させ、チームのなかで徹底させようっちゅうわけだ。

そのこともあって、クリストフは、まず数字を提示した。

この60年間で、1試合の走行距離が二倍以上になったことだけじゃなく、攻守でのスプリント回数も、大幅に増えたという「ファクト」の確認。

特に全力スプリントの量と質は、直接、サッカーの内容を左右する重要なファクターだと強調していた。

もちろん異論などないし、そのコンセプトは、広く理解されている通りだよね。

でも日本では、気候的な条件など、ダイナミックなプレッシングサッカーを90分つづけることには、様々意味合いを内包する「良質バランス」という視点も考慮しなければいけないけれどね・・。

とにかく、これからのサッカーが、ユルゲン・クロップ、ラルフ・ラングニック、ロジェ・シュミット、そして言わずもがなのペップ・グアルディオーラが提示した、アクティブなプレッシングサッカーへと収斂されていくことだけは確かな事実でしょ。

ところでクリストフ・ダウム。

彼については、Wikipediaの「このページ」を参照して欲しいけれど、とにかく彼が、ドイツを代表する名将であることは論を俟(ま)たない。

彼との最初の出会いは、1976年8月頃だったと思う。そう、私が「1.FCケルン」への入団テストを受けていたときのことです。

そのコトについては、「My Biography」で書いたから、「そのコラム」も参照してください。

また、以前にめげてしまった「The 対談」シリーズでも、こんな、彼との対談記事を載せたから、「そちら」も参照してください。

そのクリストフが、この7月に就任したルーマニア代表チームでも、現代の「絶対的潮流」であるプレッシングサッカーを志向するっちゅうわけだ。

もちろん彼には、トライして欲しい。でも、もしかしたら・・、いや確実に、ルーマニア(代表)選手たちとの「擦り合わせ」が必要になるでしょ。

その作業は、人間心理「的」にも、とても難しい「擦り合わせ」になるかもしれないけれど、希代の心理マネージャーとしても勇名を馳せているクリストフのことだから、必ず、成果を出すはずです。

ところで、クリストフの心理アプローチ。それは、決して一方通行じゃないんだ。

彼は、常に、とても柔軟な姿勢で選手に接する。彼は、選手たちの主体性(自己主張)を、ものすごく大事にするコーチなんだ。

そして、選手たちに考えさせ、彼らの方から、より走り、より闘うというハードワークに対する積極姿勢が出てくるように仕向けるんだよ。

人は、「力ずく」では動かない。

とても優秀な「心理学の実践家」でもあるクリストフは、そのメカニズムをしっかりと理解し、グラウンド上で、とても効果的に選手たちの心理を鷲掴み(わしづかみ)にすることに長けているんだ。

私は、かれこれ40年来のつきあいになるけれど、彼が率いた「1.FC.ケルン」や「VfBシュツットガルト」、また「バイヤー・レーバークーゼン」でも、その優れた心理マネージャークオリティーに、何度も感嘆させられたモノだった。

ということで、彼の講演と実技デモでのメインテーマ(≒攻守の切り替え)だけれど、実は・・

そう、そこに隠されているのは「ゲーゲンプレッシング」なんだよ。あっ、そのことについては、もう書いたよね。

要は、フォアチェッキングとも呼ばれる、ボールを失った瞬間にスイッチが入る、最前線からの協力プレスのこと。でも・・

そう、クリストフは、そのグラウンド上の現象について、とても突き詰めて考えている。

要は、タテへの「勝負パス」を出した状況こそが、ボール奪取とショートカウンターの大チャンスだ・・という発想。

そう、ヤツは、タテへのリスキーな勝負パスが、相手に奪われること「も」イメージしながら、次のディフェンス(ハイプレス)に「も」備えるシーンまで意識させるんだよ。

そして実際に、何度もこんなシーンを目撃するというわけさ。

それは、相手にボールを奪われた次の瞬間には、ものすごい勢いで、ボールを奪った相手ボールホルダーに対して協力プレスの輪が襲いかかるんだよ。

そう、だからこそ、「ショートカウンター」のビッグチャンス。

ボールを奪い返した相手は、「そこ」からの素早い切り替えからカウンターを仕掛けていこうと、前方へチームの重心を移動させるはず。

そんな瞬間に、再び相手にボールを奪われたら、そりゃ大ピンチに陥ってしまうのも道理。

クリストフは、そんな「次のゲーゲンプレッシングのチャンス」について、チーム共通のイメージを定着させることを、素早い「切り替え」という表現に込めているんだ。

でも、「それ」だけじゃない。

そう、前述したプレッシングサッカーの申し子コーチたちも含めは、彼らは、それ以上の思惑で、タテへの仕掛けパスを送り込むコトにだってトライするんだよ。

要は、わざと、相手に奪われるような、リスキーに過ぎるタテパスを出したり、はじめから、相手ディフェンダーがいないタテのスペースへ、緩いパスを送り込むということだ。

そして、相手ディフェンダーだけではなく、その「緩いパス」の意図を理解しているチームメイトたちが、そのゾーンに殺到し、そのままボールを奪ってゴールへ向かっていったりするんだよ。

サッカーは「だまし合い」のボールゲームだから、そんな「戦術」は、昔からあった。

でも、「それ」を実践するほど「勇気」があるプロコーチがいなかっただけなんだよ。

でも、そんな強烈なプレッシングサッカーが主流になってい今では、そんな狡猾なワナに対しても、ほとんどのケースで十分に対応されるようになっているんだ。

ホント、サッカーの進歩は、どんどん加速しているよね。

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あっと、実技デモがはじまった。

これまた、私が、国際会議で経験したなかでは、別格のデモンストレーションだった。

何せ、予定の時間を過ぎていたにもかかわらず(この夜は、参加者全員が無料で参加できるビッグパーティーが予定されているのに・・)、そのデモンストレーションが終わったとき、参加者のなかから、万雷の拍手とともに、「アンコール」の声だって響きわたったんだよ。

そんなコトは、これまでの20年間で、経験したことがなかった。

ホントに、素晴らしいデモンストレーションだった。

ここでは、その方法に入り込むのではなく、クリストフの、トレーニング指揮官としての素晴らしさを表現したい。

もちろん、動き方、協力プレスの動きなど、的確な戦術指示がほとんどだけれど、なかには、こんな、選手たちのやる気を喚起する素敵な「叫び声」もあったね。例えば・・

・・よ〜しっ・・素晴らしいゾ・・ホントに、歴史に残るようなスーパープレーじゃないか〜っ・・

・・ダメだ〜・・もっとダイナミックに、素早く、攻守を切り替えろ〜っ・・

・・そこだよっ!!・・もっと素早くチェイスしなきゃ(寄せなきゃ)ダメだろ〜・・

・・そうだ、その勢いだ〜・・いまの協力プレスのアクションも、素晴らしかったゾ〜〜っ・・

・・まだまだ、切り替えの勢いが足りないぞ〜・・考えるのじゃなくて、身体が自然と動くようにならなきゃいけないんだよ・・

・・オレは、切り替えろって言っているんだ・・知らんぷりしろとは言ってないぞ〜っ・・

注釈:クリストフの叫びで、観ている参加者全員が腹をかかえたことがあった・・ドイツ語の表現としては、ウムシャルテン(切り替え)と、アップシャルテン(知らんぷり)の違い・・何か、語呂 が、うまくつながったことで、スタジアム全体の笑いを誘ったんだよ・・観ている参加者だけじゃなく、選手たちも口を開けて笑いながら走っていたっけ・・グッドな心理マネージメントだった・・

ピンマイクを付け、まさに間断なく、様々な指示やモティベーションソースを飛ばすクリストフ。

その指示が的を射ていることは、選手たち自身が、ビンビン体感している。

だから選手たちが、面白いほどに踊る、踊る・・。

まあ、それには、クリストフ・ダウムという、ドイツが誇る、超有名な名将コーチが指揮するトレーニングということもあったんだろうね。

選手たちは、疲れ切っていたにもかかわらず、デモンストレーションが終わったときには、笑いながらブッ倒れる者もいたね。

それは、ホントに、ものすごくインプレッシブなデモンストレーションだった。

改めて、クリストフが備える「ストロングハンド」の素晴らしさを体感させられた。

ルーマニア代表でも、頑張って欲しい。そう、心から願う。


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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。

一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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