湯浅健二の「J」ワンポイント


2017年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第19節(2017年7月30日、日曜日)

 

様々な視点で、ポジティブなテーマがテンコ盛りのエキサイティングマッチだった・・(FC東京vsアルビレックス、1-1)

 

レビュー
 
ホントに、とても広範な意味を内包するコノテーション(言外に含蓄される意味)にあふれたエキサイティングマッチではありました。

そのエキサイトメントのトップは、何といっても、呂比須ワグネルになってからのアルビレックスの進化だね。

その発展の内実は、ハーフタイムで呂比須監督が述べていたように、しっかりとボールを動かせるようになっていることに象徴されている。

でも・・

そう、そのポジティブな側面を確認できたのは、キックオフから、アルビレックスが先制ゴールを挙げた前半12分までと、FC東京のピーター・ウタカに同点ゴールをブチ込まれてからの(後半21分からの!)時間帯に限られていたのが残念だった。

彼らがボールを動かせるようになったのは、言うまでもなく、ボールを奪い返す「連動アクション守備」が進化し、しっかりと選手たちのイメージがシンクロしているから。

だから、次の攻撃でも、「そこから」しっかりと人数を掛けて、組織的に演出できるんだよ。

人数をかけることで、パスレシーバーがどんどんスペースを埋めてくれるから、自然とパスに活力が乗り、しっかりとボールが動く。

そして、もちろん、次、その次のボールがないところでの「人の動き」も活性化することで、人とボールがスムーズに動きつづけるっちゅうわけだ。

そんな、とても魅力的な(ダイナミックな)アルビレックスを観るのは久しぶりだ。

でも、逆に・・

そう、先制ゴールを奪ってからのディフェンスには、課題が満載だったんだよ。

それが二つ目の注目テーマかな。

要は、個と組織が、とても素敵なハーモニーを奏でるFC東京の攻めに、アルビレックス守備ブロックが、振り回されるシーンが目立ち過ぎていたんだ。

そして、何度も、何度も、決定的ピンチを迎えてしまう。

ホント、「なんで、アレがゴールにならないの・・??」っちゅう大ピンチが続出だった。

それは、ボール絡みだけじゃく、ボールがないところでの一つひとつの守備プレーが、とても低次元だったから。

要は、局面デュエルやマーキング、またカバーリングや協力プレッシングといった連動守備に対する「イメージング」が、なってない・・っちゅうことだね。

ピーター・ウタカに同点ゴールをブチ込まれるまで、少なくとも「三つ」は、完璧な失点ピンチがあったよね。

簡単に、パス&ムーブで複数のアルビレックス選手が置き去りされちゃったり、ボールを見た瞬間に、その「視線の動き」の逆を取られて、マーク相手にウラの決定的スペースへ走り込まれたり。

また、相手の(特に中島翔哉)必殺ドリブルに翻弄されちゃったり。

それは、普通だったら、「ざる守備」って呼ばれても文句を言えないような低次元のディフェンスシーンだったんだよ。

だからこそ、同点にされてからのアルビレックスの、攻守にわたる、とても「立派なサッカー」が目立ちに目立ってしまったっちゅうわけさ。

そして最後のポイントが・・

そんな(全体としては!)素晴らしい仕掛けを演じたFC東京の篠田善之監督が、いみじくも語っていたように、個人勝負プレーと組織プレーが、うまく噛み合っていなかった・・というテーマ。

私の眼には、中島翔哉の突破ドリブル&シュートに代表される個のドリブル勝負が、とても効果的に組織サッカーとコラボしていたと映っていたのですが、テーマをもって観察していた篠田善之さんには、不満の残る内容だったということらしい。

・・ドリブル勝負はいいけれど、シュートまで行くと決めてしまうと、それ以外のオプションが眼に入らなくなってしまう・・

・・味方が、逆サイドの決定的スペースへ走り込んでいるのに、結局はパスが出ない・・

・・また逆に、ここはドリブル勝負・・という場面で、横パスを出してしまったりする・・

・・とにかく私の眼には、エゴ先行のシーンが目立ち過ぎていたんですよ・・

・・それに、あれだけのチャンスを創りだしながら、結局は、ピーター・ウタカの一点止まりだったという、ゴールまでが遠いという課題もありますからね・・

フムフム・・

たしかに、それは、全てのコーチにとって、永遠のテーマかもしれないね。

組織と個のバランスという難しいテーマ・・

でも、個の勝負を抑え過ぎたら、「詩を忘れたカナリア」になっちゃうし、組織パスだけで決定的スペースを突いていくのにも限界がある。

コーチは、「個人プレー」と「組織プレー」のバランスを追求するわけだけれど、そのマネージメントが、ホントに難しいんだ。

またシュートをゴールに結びつける・・というグラウンド上の現象。

そこでの決定的な要素は、「体感を積み重ねたイメージング能力」ということなんだろうね。

場数を積み重ねつづけたら、チャンスの一瞬に、見えてきたり、感じられたりする「決定的な何か」がアタマに描写される!?

ドイツのレジェンドストライカー、ゲルト・ミュラーは、私に、こんな表現をしたことがあった。

「そうさ・・オレには、決定的なパスや次のシュート場面、また、ゴールに転がりこむボールまでも、明確に(アタマのなかの映像として!?)見えていたのさ・・」

このテーマについては、「The Core Column」で発表した「このコラム」を参照してください。

とにかく、この試合は、様々な意味合いでポジティブなテーマがテンコ盛りでした。

心から堪能させてもらった。

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。

一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。

もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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