湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2011年5月29日、日曜日)

 

いや、ホント、ものすごくエキサイティングな勝負マッチだった・・また個人的な評価についても・・(FRvsGA, 2-1)

 

レビュー
 
 今日の朝方アップした「UCL決勝コラム」に書いた(期待していた)とおり、ものすごくエキサイティングな勝負マッチになった。

 両監督のインテリジェンスやパーソナリティー、そしてサッカー人としての矜持(きょうじ)といったバックボーンから、この試合は、「ゲーム戦術的なファクター」のウエイトが限りなく小さく抑え込まれるなかで、両チーム(両監督)の志向する攻撃サッカーがぶつかり合う、手に汗握るガチンコ勝負になるに違いない・・なんて確信していたのです。

 そして、まさに、期待通りの仕掛け合いになった。

 ・・前半立ち上がりの時間帯はフロンターレがペースを握り、その後はガンバが盛り返していく・・そんな流れのなかでガンバに与えられた(ちょっと不可解な!?)PKを、アドリアーノがキッチリと決め、ガンバがリードを奪う・・

 ・・そこから、失うモノがなくなったフロンターレが、ギアを二段シフトダウンして急加速していく・・素晴らしい組織ディフェンスを絶対的なベースに繰り出していくダイナミックな攻撃・・

 ・・ところで、フロンターレの守備・・それは、とても効果的にトレーニングされていると感じた・・チェイス&チェックと、それに連動する「次の」ボール奪取アクションが、組織ディフェンスの美しいハーモニーを奏でる!・・目に見えてアップしていく、ボールがないところでの動きの量と質・・そんな「意志のプレー」が有機的に連鎖しつづけるからこそ、次の攻撃の勢いもアップさせられる・・

 ・・そんな流れのなかで、フロンターレ中盤の王様、中村憲剛のスーパー(ミドル)シュートが右サイドネットに突き刺さる・・同点ゴ〜ル!!・・こうなったら、フロンターレの勢いが止まるはずがない・・なんたって、「そこ」は、フロンターレのホームピッチなんだから・・

 ・・後半も、多くの時間帯で、フロンターレが試合のイニシアチブを握りつづけていた・・だから、後半ロスタイムに飛び出した中村憲剛の決勝ゴール(スーパーフリーキックゴ〜ル!)は、まさに順当な、彼ら自身でつかみ取った大成果だった・・

 全体的なゲーム展開についてだけれど、ガンバの西野朗監督が、こんなニュアンスの言い回しをしていた。

 「今日のガンバのサッカー内容だが、我々の本来のスタイルから遠いと感じた・・攻撃でのリズムやテンポが、うまくコントロール出来ていない・・ボールの動きと人の動きが、うまく機能していない・・システムや選手を替えることで上昇のキッカケを掴もうとしたが、圧力不足を改善できなかった・・とにかく、ガンバらしい『圧力』をもっと増幅していかなければならない・・」

 そんなコメントのなかで西野朗監督が用いた『圧力』という表現。とても興味深い。人(プロ監督)それぞれに、様々に工夫された表現が用いられるわけだけれど、この『圧力』という言葉は、サッカー内容をイメージさせるのに、とても活きた表現だと感じた。もちろん、攻守にわたる『圧力』だよ・・。

 ところで後半のゲーム展開についてだけれど、西野監督は、フロンターレに完全にペースを奪われていたとは思っていないといった強気の内容をコメントしていた。

 そう・・たしかにガンバは、前掛かりになる(圧力を掛けつづける!?)フロンターレの虚を突いた危険なカウンターを、何度も成就させかけた。宇佐美貴史の爆発ドリブルからの正確なクロス攻撃・・アドリアーノの惜しい勝負・・等々。もちろん「・・タラ・・レバ」のレベルだけれど、勝負という視点じゃ、フロンターレがツキに「も」恵まれた・・というシーンは、少なくなかった。

 とにかく、総合力(サッカー内容)で「J」をリードしていくべき両チームの「強烈な意志」がぶつかり合う、本物のエキサイティングマッチ(強烈なドラマ)だった。ホントに、心から舌鼓を打っていた。

 ということで、ここからは「人」にフォーカスしていこうと思う。

 フロンターレでは、完璧なグレイトヒーローになった牛若丸(中村憲剛)、素晴らしいセンターハーフ(まあ・・ボランチ)に成長し、ザッケローニに初選出された柴崎晃誠、何度もビッグチャンスに恵まれたにもかかわらず、結局それを生かせなかった小林悠・・などなど。

 ガンバでは、コンディションアップに伴って、今後の活躍が期待されるアドリアーノ、言わずと知れた完璧なチームリーダー遠藤保仁、チームの誰からもレスペクトされる「カゲの必殺仕事人」明神智和、そして、まだまだ「光と影」のコントラストが強烈な宇佐美貴史・・などなど。

 ところで、絶対的チャンスを外しまくった、フロンターレの小林悠。プレー全体では、攻守にわたる全力汗かきプレーなど、高く評価できる優れたプレーを魅せていたと思う。それでも、肝心のシュートが・・。

 実は、記者会見がはじまる前、小林悠について、相馬直樹監督に、こんな質問をぶつけてみようと思っていた。

 「小林悠だが、この試合では、信じられないシュートミスを繰り返した・・もちろんツキに見放されたシーンもあったわけだが、集中力を欠いたミスも多かった・・そんな小林でも、相馬監督は、最後まで交代させずに使いつづけた・・そこでは、彼に対する期待だけではなく、ミスをしたからこそ、(素晴らしい組織的な汗かきプレーに全力を尽くしていたことも含めて!)チャンスを奪わずに使いつづけるという前向きのコーチング哲学も感じられた・・それは、大変な忍耐だったと思う・・そんな監督の忍耐は、選手たちがもっとも敏感に体感している・・だからこそ、そんなマネージメント姿勢は、チーム内での監督に対する信頼を深めていくハズ・・相馬さんは、そのことも意識して采配していたと思うのだが・・??」

 でもその前に、小林悠について、ミスをしたことで彼を交替させる気は起きなかったか・・という質問が飛んでしまった。まあ・・残念だったね。

 ということで、西野朗監督に対して、宇佐美貴史について質問することにした。

 「宇佐美貴史が日本代表に選ばれた・・それも、ザッケローニの注釈付きで・・その注釈は・・宇佐美のリーグ戦のパフォーマンスでは、普通だったら代表に選ぶことはないだろう・・ただ今回は、彼の将来性に期待して選ぶことにした・・というものだった・・そのことについてコメントをいただけないか?」

 「そんなことは、ザッケローニに聞いて下さい・・わたしは、コメントしたくない・・」と、ニベもない。それで、「宇佐美が代表に選ばれたこと自体について、コメントをいただけないか?」と質問を変えたけれど、やっぱりつれない返事。

 これは、ザッケローニの注釈を質問に入れたことがいけなかったのかな・・!? たしかに、ちょっと無神経ではありました。申し訳ありませんでした・・西野さん・・。

 それでも、他のジャーナリストの方が、同様に、宇佐美貴史について、別の視点の質問をしたとき、ビックリする事態になった。

 「このことは、湯浅さんの質問意図にも通ずるとは思うが・・宇佐美は、もちろん、まだまだ多くの課題を抱えている・・宇佐美のストロングポイントは、言わずもがなだが、そのドリブル突破力にあります・・この試合では、そのストロングポイントを引き出すために、システムや基本ポジションとタスクの変更にもトライした(たしかに、その変更がうまく機能するシーンもあった!)・・」

 「ボールがないところでの動きとか、彼はまだまだ多くの課題を抱えている・・別な表現をすれば、彼の何を評価してポジションを与えるのかというテーマになるということだ・・彼のプレーが(彼の持ち味が!?)流れのなかで十分に機能しているとは、まだ思えない・・シャドー的なポジションの方が、より効果的に機能するのか??・・たしかに彼の場合、サイドでもセンターでも『シャドウ・ストライカー』としては、それなりの価値を魅せている・・ただ、その頻度(価値を感じさせるプレーの量と質!?)はまだまだ十分とは言えない・・また、もっと、流れのなかで(組織的に!?)機能しなければならないし、ボールを持ったときの強さも欲しい・・この結果(フロンターレに対する、1-2の敗戦!)になって、宇佐美のプレー内容を振り返ると、マイナス面のウエイトの方が強かったという捉え方だって出来るかもしれない・・」

 ホント、ビックリしましたよ。西野朗・・。

 湯浅健二の、ちょっと無神経な質問を無視し、他のジャーナリストの質問をうまく「流用」して、私が聞きたかった内容を、上記の(そんなニュアンスの!)コメントに込めてくれた。

 粋な心遣いでした。本当に、感謝します。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。