湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第15節(2004年11月28日、日曜日)

 

ゴールは入らなかったけれど、内容には素晴らしいコンテンツが詰め込まれていましたヨ(ヴェルディー対マリノス、0-0)・・そして、年間最多勝ち点、おめでとうレッズ(レッズ対サンフレッチェ、1-0)

 

レビュー

 

 結局この日は、ヴェルディー対マリノス戦を観にいくことにしました。何せ、大分と新潟は遠いですからネ。もちろん、チャンピオンシップを前にしたレッズが、たぶん守りを固めてくるサンフレッチェに対して(擬似マリノスに対して)どのようなサッカーを展開するのか・・このところ「個」に偏っていた攻めを「組織」方向に揺り戻せるのか・・なんていうテーマにも興味はありましたが、それよりも、怪我人続出という状態をマネージしなければならないマリノスと、格段に調子を上げているヴェルディーの対戦の方がコンテンツ豊富に違いないと、味の素スタジアムへ駆けつけた次第。そして、「やっぱり、コチラの試合を選んで正解だった!」なんてネ。

 予想していたとおり、両チームとも積極的に押し上げるエキサイティングな展開になったのですよ。マリノスは「年間最多勝ち点」を狙っているだろうし、ヴェルディーにしても、相手が相手だから(怪我人が続出とはいっても!)モティベーションも充実しているに違いないというわけです。

 たしかに両チームともにディフェンスが強いから、そんなに簡単にシュートチャンスは出来ないけれど、それでもそこに至る、チャレンジマインドが詰め込まれたプロセスには、見所コンテンツ満載でした。

 マリノスの布陣とポジショニングバランスはこうです。松田、中澤、那須というスリーバックに、田中隼磨とドゥトラが両サイドを固めるという強力な最終ライン。その前に、守備の起点としても、ボール奪取勝負のカナメとしても最も重要なタスクを担う守備的ハーフ、中西永輔と遠藤彰弘がコンビを組みます。そして、その守備ブロックの前に、ディフェンスにも積極的に参加してくる、奥、坂田、清水の「攻撃トライアングル」がいるというわけです。

 「この三試合、いろいろな選手と布陣を試してきた・・そして今、様々な視点で、チャンピオンシップへ向けたベストな(選手とポジショニングバランスの)組み合わせに対する確信が持てるようになってきた・・」。試合後の監督会見で、マリノスの「フォックス岡田武史」がそんなことを言っていました。ナルホド・・。

 前述したこの試合での布陣が、岡田監督の考えるベストチョイスなのか・・?? そんなことを「あのフォックス」が明言するはずがない。その代わりに、「チャンピオンシップに向けた秘策?? そんなものはないよ・・チームがそんなに短い期間で良くなれるはずもないしネ・・まあここまできたら怪我人がどうのこうのとか言っても仕方ない・・とにかくベストを尽くすしかないわけだし、本当に、今からチャンピオンシップが楽しみで仕方ないよ・・」なんてネ。

 この試合でのマリノスは、たしかに「個の突破能力」という視点では課題が見え隠れしていたものの、全体としては、攻撃と守備のバランスだけではなく、組織プレーと個人勝負プレーのバランスもうまく取れていました。そして何といっても、全員に深く浸透した「主体的な守備意識」が素晴らしい。誰一人としてサボらず、ボールを奪い返すという明確なイメージをベースに、汗かきのディフェンスプレーとボール奪取勝負プレーを有機的に連鎖させつづけるのです。チーム内に深く浸透した高質な戦術イメージを感じます(=誰が出てきてもチーム力が大きく減退することがない!)。やはりマリノスは強い。

 対するヴェルディー。この試合では、マリノス同様に多くのプレーヤーをケガで欠いていました。その点は非常に残念だったのですが、にもかかわらず彼らは、このところの好調なサッカーコンテンツをしっかりと発展させつづけていると感じさせてくれました。人とボールが、素早く、広く動きつづけるクリエイティブサッカー。良かったてよす。たしかに数週間前のジュビロ戦ほどではなかったにせよ(そのレポートはこちら!)、ボールなし、ボール絡みに関係なく、選手たちのプレーイメージは高質そのものでした。

 「トレーニングを見に来ている人ならば、いま我々が、コントロール&パス・コントロール&パスという練習しかしていないことを知っているはずだ・・世界の一流どころの潮流は、とにかく人とボールをしっかりと動かしつづけるサッカーだ・・この試合での我々も、そのコンセプトをベースに、しっかりと人とボールを動かしつづけながらシュートチャンスを作り出した・・たしかにボール支配率ではマリノスの方が上だったろうけれど、決定的なチャンスの数と質じゃ、ウチの方が上だったはずだ・・」。監督会見で、オジー・アルディレスが胸を張っていましたよ。まさにそのとおり。私も来シーズンは、ヴェルディーのトレーニングを観察しにいきますから・・。

 あっと・・。ここでオジーが言った「コントロール&パス・コントロール&パス」というのは、しっかりとしたパスレシーブの動きをベースに、素早くボールをコントロールし、これまた素早く効果的パスを繰り出して次のパスレシーブの動きに移る・・という連続的なアクション連鎖のことを言っているのでしょう。

 個々の選手についてですが、たしかに小林大悟とか玉乃淳とか、トップで潰れ役に徹した飯尾とか、ヴェルディー若手の出来は(前回同様に)インプレッシブだったのですが、この試合では、特に、小林慶行を取り上げたいと思います。何せ、久しぶりに彼の「本当の意味での良いプレー」が見られたんですからネ。

 攻守にわたる、ボールがないところも含めたアクティブプレーがスムーズに連続しつづける。そんな爽快なプレーを見ながら、「そうだろっ! アナタのような素晴らしい才能だったら、ボールがないところでのプレーに忠実さとメリハリ(動きの量と質の向上!)さえ伴ってくれば、必ず全体的なパフォーマンスは、それに輪をかけて格段にアップするはずだよな・・」なんてことを思っていました。

 この試合での小林は、後方からのゲームメイカーだけではなく、どんどんと押し上げながら、二列目のチャンスメイカーとしても抜群の機能性を魅せつづけていました(ガンガンと危険なシュートまで放ってしまう!)。ボール絡みのプレーでは、以前のようにボールをこねくり回すこともないし、シンプルにパスをつなぎ、すぐに「全力でのパス&ムーブ」アクションへ移っていくのですよ。もちろん、ココゾの勝負場面では、勇気をもって個人勝負を仕掛けていく! まさにイメチェンじゃありませんか。もしそれが、オジーの言う、コントロール&パス(&ムーブ!)トレーニングのタマモノだとしたら・・。本当に、今度はトレーニングを観察しにいきます。

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 この試合を見ながらは、私の視線は、既に来期に飛んでいました。マリノスやレッズ、アントラーズやジュビロ(?!)だけじゃなく、ヴェルディーやFC東京、ガンバ、グランパス、ジェフなどなど、数え上げたら切りがない「実力チーム」がしのぎを削る「年間を通したシーズン」を楽しむことができる・・。今から楽しみじゃありませんか。

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 さて、ネネが一発退場になったにもかかわらず、トゥーリオのゴールでサンフレッチェに競り勝ったレッズ。これで、年間の「勝ち点チャンピオン」の称号まで手に入れました。素晴らしい。ということで、この試合で気付いたところだけを簡単に・・

 この試合では、山田を右サイドへ戻し、田中、エメルソン、永井雄一郎によるスリートップで試合に臨みました。その布陣は、ネネが退場させられたことでフォーバックにした後も変わりません。ちょっとポジティブな驚きは、ネネ退場の後も、終始レッズがイニシアチブを握りつづけたことです。力の差を見せつけたレッズというわけです。

 スリートップの場合、前に何度も書いたように、相手守備に抑えられることで、彼らが「最前線のフタ」になってしまう危険性も高まります。しかしこの試合では、永井雄一郎の臨機応変のフレキシブルプレーが冴えに冴え、まったく「フタ」を心配する必要はありませんでした。永井の急速な発展に乾杯じゃありませんか。それもまた、永井の「守備意識の発展」の為せるワザだということです。

 また「個の勝負」に偏りがちだったレッズの仕掛けにも、再び「組織の匂い」が戻って来つつあるとも感じていました。それは、先日のグランパス戦の前半でも明確に見られたことです(そのレポートを参照してください)。最前線も含め、全員が積極的に守備に参加すること、そしてボールを奪い返したら、まずシンプルに(素早いリズムで!)ボールを動かすことで選手たちの足を刺激する・・そして人とボールの動きを活性化することで、組織パスプレーと単独ドリブル勝負をハイレベルにバランスさせる・・。チャンピオンシップへ向けて、選手たちのイメージトレーニングという視点でも、なかなか良い準備が出来ているじゃありませんか。

 もちろん相手は「あの」マリノスだから、レッズのトップ選手たちが「フタ」にされてしまう危険性は常につきまとう。でもレッズには、「次の複数のオプション」を持っているという強みがある。そう山田の二列目や、エメルソンのチャンスメイカー等々。いや、ホント、そんな視点でも興味が尽きないじゃありませんか。

 第一戦は、ネネが出場停止だし(坪井の復帰が見られるのか?!)、中盤ディフェンスのリーダー鈴木啓太も、何か「ヒザ」に問題を抱えているような・・(あの痛がり方は、もしかしたら半月板?!)。レッズにとっては、ちょっと不安な要素ではありますが、選手のケガでは、マリノスの方がヒドイ状態にありますからネ。とにかく最後は、両チームの、チームコンセプト浸透度のせめぎ合いということになると思っている湯浅なのです。

 



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