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2009_思うところがあって、中村俊輔についてコラムをアップすることにしました・・(2009年11月2日、月曜日)

「最初のころは、一度でもボールを離したら、もう二度とオレのところに戻ってこなかったんだぜ・・それほどヤツらのレベルは低かったんだよ・・」

 もう二昔(ふたむかし)も前のことになりますが、まだ現役でプレーをしていたドイツサッカー界のレジェンド(伝説的存在)フランツ・ベツケンバウアーが、そんな内容のことをメディアに吐露したことがあります。

 ヤツらとは、もちろんブンデスリーガ(ドイツ・プロ一部リーグ)のことではなく、一時期プレーしていたアメリカのプロリーグの雄、ニューヨーク・コスモスのことです。その言葉は、当時のアメリカサッカーのレベルやその進歩のプロセスについて質問されたときに出た表現でした。

 ハナシはがガラリと変わって、現在。昨日のリーガエスパニョーラ、ホームでのバリャドリード戦で、中村俊輔は結局出番なしに終わりました。フムフム・・

 ここ数日、中村俊輔が、メディアに対して、「結果に直結するように、もっともっと自己をアピールしなければならない・・ときにはエゴを前面に押し出すプレーもしなければならない(!?)・・オフサイドを気にしてタテパスを出さなかったり、局面での個人勝負を避けたり・・たしかに、確率の高い安定プレーも大事だけれど、もっと積極的にリスクへもチャレンジしていかなければ(チーム内でのポジショニングを確立できない!?)・・」等といったニュアンスの発言をしているそうな。

 シーズン立ち上がりの数試合では、味方からの大きなサイドチェンジパスを、逆サイドのペナルティーエリア角ゾーンで、例によっての「魔法トラップ」でピタリとコントロールし、そこから決定的なクロスを送り込んだり、勝負ドリブルで切れ込み、シュートや最終コンビネーションにチャレンジしたりと、とても目立っていた中村俊輔。そのことについては、何度かコラムに書いたとおです。

 ただここにきて、チームにとって大きな価値がある、彼の本来的な才能プレー(=シュンスケの魔法)を、うまくアピールできていないと感じるようになってきたのです。

 もちろん、たまには、彼にしか出来ないベストタイミングとコース、種類の、とても効果的で目の覚めるような勝負の中距離タテパスやサイドチェンジパスを出したり、ボールがないところでの爆発ダッシュで、自らダイレクトシュートへチャレンジしていくようなエキサイティングシーンは魅せるけれど、逆に、ボールを持っても、相手のプレッシャーから逃げるように、安全確実なつなぎパスを送る「だけ」のプレー「も」目立つのですよ。

 もちろん日本代表では、一旦ボールを離しても、トントント〜ンという軽快なリズムで、(忠実なパス&ムーブで次のスペースへ動いた!)中村俊輔のところにボールが戻ってくるよね。そう・・中盤のダイナミック・カルテットで確立している「あうんのイメージシンクロ組織プレー」ね。中盤のダイナミックカルテットとは、中村俊輔、遠藤ヤット、牛若丸(中村憲剛)、長谷部誠のことだよ。でも・・

 ということで、冒頭のフランツ・ベツケンバウアーの言葉に戻っていくわけです。一度でもボールを離したら二度と自分のところに戻ってこない・・

 もちろん当時のニューヨーク・コスモスの場合は、選手の技術が低かったことで効果的にボールを動かせなかったわけだから、いまのエスパニョールと(その視点で)比べるのは不自然だよネ。ということで、ここでは、「自分のところにボールが戻ってこない・・」という現象(=戦術的な表現)を使うために、ベッケンバウアー先生の言葉をコラムの導入部に使用してしまった・・っちゅうことでした。悪しからず・・

 ということで、中村俊輔にとっての、「自分のところにボールが戻されてこない・・」という現象。

 要は、中村俊輔から安全&確実な展開パスを受けたら、その味方選手が余裕をもってボールを持てることで、そこから次の「仕掛けフロー」がスタートしてしまうケースが多いということです。もちろん、そんなケースのほとんどで、中村俊輔は、その仕掛けフローに乗り切れずに遅れてしまうっちゅうことになってしまう。

 中村俊輔が、このところ発言している表現のニュアンスは、もっと自分が中心になった「仕掛けプロセス」を演出していかなければならない・・ということでしょう。組織コンビネーションにしても、個人勝負を主体にした仕掛けフローにしても。

 もちろん、これからトライしていくべき「プレーイメージ」としては、その発想は正しいよね。

 いくら、事前にミスの可能性を感じていたとしても(!)もっとリスクを冒さなければ、チーム内の『ヒエラルキー的な』ポジションを向上させることはできないからね。中村俊輔に期待されているタスクからすれば、攻撃では、チャンス演出のプロセスでの「貢献内容」が、彼に対する評価の明確な基準になるということなのです。

 何せ、「そこ」は、リーガエスパニョーラなんだからね。やはり、正しい自己主張(自らリスクを冒して仕掛けていくプレー姿勢)が、とても大事なのです。

 ただし、そのチャレンジには大きなリスクも伴ってくる。だから私は、いまの中村俊輔が、常に、脳裏に刻み込んでおかなければならないキーワードとして、『優れたバランス感覚』を挙げたい。

 いままで通り、守備でも、しっかりと汗かきプレーが出来る・・攻撃でも、ボールがないところで、目立たない汗かきのプレーができる・・ただ、一度ボールをもったら、周りがビックリする(チームメイトが頼りにする)ようなリスクチャレンジ才能プレー『も』爆発させることができる・・

 才能プレーの爆発・・。それを、いつ、どのような状況で繰り出していくのか・・。まさにそのポイントにおいて、『優れたバランス感覚』が問われてくるわけです。

 日本代表でのバランス感覚では、いまのエスパニョーラで効果的に存在感をアップさせていくのは、チト難しい。だからこそ、いまの中村俊輔の脳内イメージにあるバランス感覚を、少しだけ、エゴ(自己主張)方向へ振ることで、より積極的にリスクチャレンジプレーにもトライしていくのですよ。

 ただし、日本代表にもどってきたら、逆に、いままでの組織イメージに「戻して」プレーする。

 フ〜〜・・難しいね。

 とにかく「やり過ぎ」はダメだよね。決して良い結果は得られない。でも日本人の場合、蛮勇はダメよとか、やり過ぎはノーと言った次の瞬間には、それをアリバイ(=自分自身に対する言い訳)にしてリスクチャレンジを回避してしまうという事実は見逃せない。サッカーの場合は、ミスの危険を『人知れず』回避するのは、そんなに難しいことじゃないからネ。

 だからこそ、監督・コーチの仕事の本質は、人間の弱さとの闘い・・なのです。

 ということで、私がここで「優れたバランス感覚」という表現を使ったことの絶対的な哲学的・心理学的バックボーンは、中村俊輔のサッカー的な(!)文化コンテンツ&ニュアンスが、日本的なモノから、あくまでもサッカー的に(!)解放されているはずだという私の評価バックボーンに起因するということになるわけです。たぶん中村俊輔の場合は、大丈夫でしょう。

 最後に、誤解を避けるために・・。

 わたしは、誠実さ、謙虚さも含む日本的な社会文化コンテンツ&ニュアンスを、とても優れたモノだと思っています。世界に誇れる社会文化だと思っているのです。でも、だまし合いとフィジカルな闘いがベースの(狩猟民族スポーツである!?)サッカーの場合は、そんな文化バックボーンが、マイナスに作用してしまうケースも多い・・!? さて・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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