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2008_ナビスコ・・サッカーという「相対ボールゲーム」(レッズvs京都サンガ、1-1)・・(2008年4月16日、水曜日)

「先ほど加藤監督は、ほぼベストチームのアジアチャンピオンに対して、見劣りしないゲームを展開できたと言われた・・わたしも同感だし、全体的にはサンガの方が内容が良かったとも言える・・ここでシンプルに聞くが、その要因は、何だと思われるか・・」

 そんな私の質問に対し、京都サンガの加藤久監督が、素晴らしい内容のコメントをくれました。彼は、自分の考えをしっかりと伝えられるだけの表現力をもっている。それは、プロコーチとして非常に重要な資質です。

 「ゲーム内容が良かったのは、選手たちが、チームプレーを最優先に考えてプレーしたからだと思う・・一つは戦術的な意味での(チームプレーの)統一感があった・・もう一つは、精神的な部分での「団結力」や「気持ちのまとまり」もあった・・ここが大事なところなのだが、その二つのことを、選手が自分たち自身で見つけているということだ・・それは、選手個々の「意識」が高いことの証明なのだが、それがなければ、やはりチームは発展しない・・その意味で、私は選手たちを尊敬してもいる・・コーチは、目標へ向かうために、言葉だけではなく、いろいろな方法でメッセージを伝えながら選手をドライブしていく・・そのプロセスのなかで、選手は前向きな姿勢を表現できている・・それらのことが、良いゲームを展開できた要因だと思っている・・」

 プロコーチとして、立派なマネージメント姿勢です。加藤監督は、本当に良い仕事をしていると思いますよ。昨シーズンの「入れ替え戦」から、テレビ観戦も含めて、既にいくつかサンガのゲームを観ているけれど、どれも、組織としてしっかりとまとまっていた。もちろん、高い守備意識と、ディフェンスでの優れた戦術プレーを基盤にしてね。

 そんなサンガの加藤監督に対して、レッズのゲルト・エンゲルス監督の口からは、出来が良くなかったというニュアンスが、こぼれ出していた。

 「エンゲルス監督のコメントからは、全体的に出来が良くなかったというニュアンスが聞き取れるが、その要因は何だったと思われるか・・シンプルに答えていただければ幸いなのだが・・」

 「最初に、ダイレクトパスなどの素早いコンビネーションを盛り込みながらアグレッシブにプレーしたかったと言ったのだが、アナタの質問は、それが出来なかったのは何故か?ということですね(笑)・・そうだな〜・・アントラーズ戦の後に、うまくメンタル的な課題を克服できなかったということかもしれない・・まあ、アントラーズ戦と同様のテンションの高さを維持できなかったとも言えるかもしれない・・もちろん我々は、ゲームの最初から積極的にいくつもりだったのだが・・相手を甘く見ていた?・・まあ、そう言われても仕方ないかもしれない・・」

 ということで、この試合でのレッズの出来は良くありませんでした。その要因について、両監督のコメントを、対比できるようにならべたわけだけれど、私は、どちらかといったら、京都サンガの守備が素晴らしく、それがレッズのアクションを封じたと理解しています。

 サッカーは、イレギュラーするボールを足で扱うという不確実な要素が満載のボールゲームであり、同時に、その不確実な「攻守のプレー」が連続するボールゲームでもあります。ということで、相対ゲームという要素が、これほど入り組んだ団体スポーツは他に例を見ないと思うのですよ。

 ちょっと難しい表現になってしまったけれど、言いたかったことは、この試合でのレッズの出来が悪かったのは、京都サンガの攻守にわたる組織プレーがうまく機能しつづけたからだということです。もちろん、レッズの出来が悪かったことが京都サンガを勢いづけた・・という見方も出来るわけだけれど、私は、この試合についてその見方は正しくないと思っているわけなのですよ。

 サッカーが「相対ゲーム」であるということだけれど、それに因る典型的な現象には例えばこんなコトがある。

 チーム全員が、積極的に「前から勝負を仕掛けていく」ことでゲームの流れを支配してしまうという現象。要は、相手を、完全に、心理的な悪魔のサイクルに押し込めてしまうということです。

 そこでは、一人の例外もなく、全員が、高い位置から、忠実でダイナミックなチェイス&チェックを基盤にボール奪取勝負を仕掛けていくのです。それを繰り返された相手は、徐々に、「この流れはマズイぜ・・相手に押し込まれている・・いまオレ達はしっかりと守備をしなきゃいけない・・」と、全体的に、受け身に下がってしまう。そして万事休してしまうのです。受け身のプレー姿勢になってしまったことで押し込まれた相手は、足を止め、ボールを奪い返しても、誰も上がって行かなくなってしまうような消極プレーばかりになってしまう。

 要は、前から(ボール奪取勝負を)仕掛けていくことでボールを支配し、相手を「勘違い」させることでネガティブな心理状態に陥れてしまうということです。それこそが、「前から〜っ!!」という号令によって、全員が、まずディフェンスから積極的に仕掛けていくという「勝負の仕掛けの演出」という表現の意味するところなのです。

 もちろん、相手のチカラがかなり上の場合は、前から仕掛けていくことで、自ら墓穴を掘ってしまうケースもある。とはいっても、「J」や、アジアの代表チームクラスでは、そんなに大きなチカラの差はないから、意志が統一された「勝負の仕掛け」の流れは、非常に効果的なケースが多いのですよ。

 ちょっと、舌っ足らず・・。要は、いかにして、リスクチャレンジ(マインド)を有機的に連鎖させていくのかというテーマのことでした。良いサッカーをやるためには、チーム内の意志が統一されていること(そして実際に統一された積極勝負アクションが出てくること)ほど大事な要素はないということです。

とにかく、この試合では、サンガの積極的な「勝負の仕掛け」が殊の外うまく機能しつづけたということが言いたかったわけです。もちろんレッズの側から言えば、そんなネガティブなゲーム展開をうまく逆流させられなかったことは大きな反省材料だったと言えるわけです。

 まあ、たしかに後半は、梅崎や細貝、トゥーリオや(交替出場した)永井雄一郎の惜しいシュート場面があったわけだけれど、でも逆に、サンガにも、流れのなかから何度も決定的チャンスを作り出されたからね。まあ、たしかに互角の引き分けだったということだね。

 最後に、この試合では本来のリベロに入ったトゥーリオ。やっぱり、後方から、相手ディフェンスブロックにとっての「見慣れない顔」として、タイミングを見計らってスッと上がっていくのが効果的だよね。

 ゲルト・エンゲルス監督も、「彼はどのポジションでも使えるけれど、基本的には、ボランチか最終ラインで使うのがベストだと考えている」と言っていた。まあどちらにしても、鈴木啓太とか細貝萌とか、トゥーリオの攻撃参加をカゲでサポートする要員(バックアップ意識を徹底すること)が必要になることは言うに及ばない。このゲームでも、鈴木啓太とトゥーリオの、例によっての「あうんのポジションチェンジ」が光るシーンを何度も目撃した。とにかく、トゥーリオの「ポリヴァレント特性」が、レッズにとってプラスであることは、ある程度は証明されたと思いますよ。それは、ゲルト・エンゲルス監督が就任して最初の成果ということかな・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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