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2008_日本代表・・ちょっと角度を変えて「組織と個のバランス」というテーマを深掘りしてみよう・・(日本代表vsバーレーン、1-0)・・(2008年6月22日、日曜日)

「選手は、自主的に考え、実行できるようになっている・・選手は、自分が勝ちたいからボールを全力で追いかける・・勝ちたいから仲間に(より良いプレーを)要求する・・そんな(主体的な)雰囲気がチームのなかで出てきている・・それが、一つのチームになってきたという表現の大事なポイントだ・・」

 「一つのチームになってきた・・」という岡田監督の表現に対し、その具体的な内容について質問した私の問いかけに対し、冒頭のように、力を込めて、それも間髪をいれずにコメントした岡田監督。やはり優秀なプロコーチです。

 私は、この試合の内容に関して、岡田監督と同様に、納得していました。だからこそ「あのラッキーゴール」を心から喜んでいた。岡田監督も、「上手くスマートな選手たちが、あんな泥臭いゴールを決めて勝ち切ったことが嬉しい」と素直に喜びを表現していた。内容と結果が一致しないのは日常茶飯事とはいえ、あのまま引き分けじゃ、あまりにも悔しすぎるからね。

 それほど日本は、良いサッカーを展開し、そしてしっかりとチャンスも作り出していたのですよ。シュート数のことではありません。あくまでも、組織的なプレッシング守備の優れた機能性と、相手のディフェンスブロックを崩した(要は、しっかりとウラスペースも活用した)組織的なチャンスメイクの量と質のこと。

 ここでは、繰り返し決定機を演出したセットプレーは除き、あまくでも流れのなかでの組織プレーベースの崩しプロセスを取り上げます。それにしても、遠藤ヤットのスーパーフリーキックから生まれた「あの」本田圭佑の絶対的チャンスは、中村俊輔のPKや、ファーポストゾーンでのトゥーリオのヘディングシュートと同様、決めなければいけないチャンスでした(タラレバ・・スミマセン!)。

 とにかく、ケンゴから佐藤寿人へのスルーパス(PK!)、中村俊輔から玉田への決定的スルーパス、本田圭佑の「大外フリーランニング」へのスルーパスが決まり、そこから決定的折り返しで玉田がチャンスを迎えたプレー・・等々、優れた組織プレーというポイントで、このゲームでの日本代表は(前半と、選手交代がうまく機能した後半の半ば過ぎからの時間帯!)立派なサッカーを展開したと思っているのです。

 ポイントは、組織と個のバランス。人とボールが、素早く、そして広く動きつづける組織コンビネーションがしっかりと機能していたからこそ、バーレーン守備ブロックの「予想を超えた」スペースで仕掛けの起点(ある程度フリーでボールを持つ選手)を演出できたし、そのプロセスで確信レベルが高揚させられていたからこそ、チャンスとなったら、吹っ切れた積極性でドリブル勝負も仕掛けていけた。

 組織的な仕掛けプロセスがうまく機能していたからこそ(そのことに対する確信レベルが高揚していたからこそ)、玉田圭司や本田圭佑、また両サイドバック(安田理大や内田篤人)や中村俊輔、はたまた後方から飛び出してきた中村憲剛や遠藤ヤットが、組織コンビネーションを基調にしながら、チャンスとなったら、自信をもって個人勝負にもチャレンジしていけたということです。

 これには「選手タイプのバランス」という視点もある。もし先発メンバーの「個の才能レベル」が高くなった場合(スキルフルな上手い選手や天才的ドリブラータイプが増えた場合)それに伴って局面での「個の感覚プレー」が増えるだろうし、そうなったら、この試合のようにスペースを攻略するコンビネーションパスよりも、局面での効果的な「個の感覚プレー」によって別なゾーンでフリーになった味方への「足許パス」を送るシーンも増えたはず。

 もちろん、そんな仕掛けプロセスでも、攻撃の目的が達成できればまったく問題ない。

 攻撃の目的はシュートを打つこと。そして、そこに至るまでの「当面の目標イメージ」は、ある程度フリーなボールホルダーを作り出すこと(要はスペース活用)。その目標イメージを達成するために、スペースパスを使ってもいいし、ドリブルで相手を抜き去ってもいい、はたまた「タメ」から(相手ディフェンダーを引きつけて)別のゾーンでフリーになった味方への鋭い足許パスを決めてもいいっちゅうわけです。

 ただこの試合では、上手くスマートな選手が多かったことで(岡田監督の表現!)、より組織コンビネーションが強調されたということです。まあ、いまの代表チームでの「個の感覚プレー」の象徴は、何といっても松井大輔だろうね。この試合では松井が不在だったから(ちょっと中途半端だったけれど)本田圭佑が「個の感覚プレイヤー」だったのかな・・。

 岡田監督は、一人は、個人勝負を前面に押し出すタイプを入れたいと考えている「らしい」。私はそのことについて岡田監督に確かめたことがないけれど、効くところによると、そんなニュアンスのことを言ったことがあるとか・・。とはいっても、ケースバスケースで、その表現ニュアンスも大きく変わってくるから何とも言えないわけです。まあ、その「個のタイプ」が、中村俊輔のような、攻守にわたって(また組織プレーと個人プレーについて)総合的に高いバランス感覚とプレーイメージを備えている場合は問題ないわけだけれどネ。

 要は、攻撃に何らかの「変化」を起こせる天賦の才・・。もちろん、そんな才能を入れた場合、局面でボールの動きが停滞してしまうリスクが比較的大きくなるわけだけれどネ・・。だからこそ、世界中のトップチームを率いるプロコーチの具体的なミッションが、天賦の才に、守備と(攻撃での)ボールがないところでのプレーに精進させることに集約されてきているというわけです。

 ところで後半。日本の組織プレーに慣れてきた(!?)バーレーンがゲームをコントロールする時間帯が増えてきました。岡田監督は、「中盤に攻撃的な選手を並べたことで、後半は、ボールが奪えなくなった・・」と表現したけれど、そんなゲーム展開に対して、しっかりと選手交代で対応した。まあたしかに、安田の負傷交替(今野泰幸の登場)という偶発要素もあったけれど、後半も半ばを過ぎたあたりから、再び「仕掛けのリズム」が高揚したと思う。

 とにかく、このゲームでの『スマートな組織プレーをより強くイメージした(!?)』サッカー内容は、日本代表が(岡田武史監督が)どこまで、またどのようなカタチで「個」を重用するのか・・「個」にどこまで「組織」を要求するのか・・(試合の性格によって)どのような選手タイプの組み合わせを選択するか・・などといった興味深いテーマを(学習機会を)与えてくれたと理解している筆者なのです。

 いまこのコラムを電車のなかで仕上げました。これからちょっと寝てから、スペイン対イタリアの勝負マッチ。フ〜〜ッ(でも好きだからやってんだろって?・・そう、その通りなのです・・だから疲れなんて吹き飛んでしまう!)

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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