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2008_日本代表_・・日本代表は正しいベクトル上を進んでいる・・(日本代表vsコートジボワール、1-0)・・(2008年5月24日、土曜日)

「ハーフタイムに一人の選手が寄ってきたんだよ・・そして、こんなことを言うんだ・・後半にスタミナ切れになることを心配したから、ゲームの立ち上がりは、ゆっくりとゲームに入っていった・・」

 コートジボワールのハリルホジッチ監督が、記者会見でそんなことを暴露していた。その発言の真意は分かり難かったけれど、まあ、コートジボワールが鈍重な立ち上がりだったことの背景要因を説明しようとしたということなのかもしれないね。

 たしかに、二日前に横浜の三ツ沢で行われたパラグアイ戦では、最初の20分間に飛ばし過ぎたことで、その後は息が上がってしまったからね。だから、選手たちが、落ち着いて立ち上がろうというイメージでゲームに入っていったことは理解できる。

 でも、その「ゆっくりと落ち着いて・・」というマインドが、最初から飛ばしに飛ばす(その意識でゲームに臨んだ!)日本代表の勢いに火を付けたのですよ。そりゃ、そうだ。自分たちがイメージしたアグレッシブなプレッシングサッカーが面白いように機能しつづけたんだからね、日本選手のモティベーションがレベルを超えて高揚しつづけるのも当たり前。だから、決勝ゴールを陥れた前半21分までは、完全に日本代表がゲームを支配しつづけたというわけです。

 岡田武史監督のチーム戦術的なイメージ(要は、やろうとしているサッカーの基本的なイメージ)を簡単に表現したら、こんなことになるだろうかネ。チーム全体をコンパクトに保ちながら、なるべく高い位置から協力プレスを仕掛けてボールを奪い返し、サイドゾーンもうまく活用しながら、なるべく素早くシンプルに相手ゴールへと迫っていく。

 その基本的なアイデアのなかで、岡田監督は、特に、相手にボールを奪い返された次の瞬間が重要な意味をもつと強調する。

 要は、ボールを奪い返した相手は、次の瞬間には、ヨ〜シ!と、全員が次の攻撃へ向けて重心を移動していくから、そこがチャンスだということです。そんな状況で「再び」自分たちがボールを奪い返したら(相手が前へ重心が掛かっているからこそ=相手守備の組織が整っていないからこそ)それこそビッグチャンスになるのは自明の理。だからこそ岡田監督は、これまでの合宿で、特に「攻撃から守備への素早い切り替え」を要求しつづけていたというわけです。

 岡田監督が意図するところは、突き詰めれば、チーム全体の「守備意識」を高揚させ、それを高みで安定させるということだろうね。

 守備こそが全てのスタートラインという大原則。そこには、守備が、アクティブ(積極的)に、ダイナミックに、そしてクリエイティブ(創造的)に機能すれば、ボールを奪い返した後の攻撃も、自然とダイナミックな(迫力があり力強い)ものになるという、サッカーの歴史に裏打ちされた普遍的な考え方があるのです。

 優れた守備意識をしっかりとグラウンド上のプレーに反映できるようになれば、おのずと次の攻撃にも勢いが乗ってくる・・という発想。

 (個のチカラに劣ることで)組織的なシンプルプレーの積み重ねを標榜する日本代表の場合は、とにかく、出来る限り多く「数的に優位なカタチ」を演出しなければなりません。そのために、ボールがないところでの積極的な動き(味方の厚いサポート)が求められる。でも、ボールがないところで(前方のスペースへ!)押し上げるとき、次の守備を心配しながらでは、決して相手を圧倒する「勢い」を演出することなんて出来ない。だからこそ、優れた守備意識が(要は、次の守備に対する相互の信頼が)後ろ髪を引かれない「吹っ切れた勢い」の押し上げを後押しするということです。

 コートジボワールが「ゆっくりと寝ていた」前半の立ち上がり20分。日本代表は、素晴らしい協力ディフェンスを披露しつづけました。力強く忠実なチェイス&チェックと、相手ボールホルダーの動きを停滞された瞬間を狙って集結する「協力プレスの輪」。小気味よいことこの上ありませんでした。

 だから前半21分の決勝ゴールは、まさに主体的に勝ち取ったモノだったのですよ。素晴らしい長谷部のオーバーラップと(『一山』越える正確な)クロス。そして、ファーポストスペースへ忠実に走り抜けることで、そのクロスにピタリと合わせた玉田。素晴らしいコンビネーションでした。

 でも、その後の日本代表の攻撃は鳴かず飛ばず。結局は(実質的には)前半20分までに作り出した何本かのチャンスだけだったですかネ。たしかにコートジボワールの実力は確かなモノだった・・ということです。

 この試合での長谷部は、激しい上下動と、攻守にわたる「実効プレー」で存在感を誇示しつづけました。ブンデスリーガでの長谷部誠のプレーぶりについては、このコラムあのコラムを参照してください。

 長谷部誠は、タイプとして(より組織プレーが強調される!?)ブンデスリーガに「合って」いるのかもしれないね。攻守にわたるダイナミックで忠実な汗かきプレーと、シンプルな攻撃プレーの積み重ね・・等々。そんな長谷部誠の特長が、ブンデスリーガで揉まれることによって、「世界」へ向けた本物のブレイクスルーの段階に入ったということか。

 ゲームの実質的な流れだけれど、冒頭でハリルホジッチ監督が言っていたように、ゴールを入れられてからは、やっとコートジボワール選手も目を覚まし、彼らの実力見合った、しっかりとした実力サッカーを展開するようになりました。特に後半のコートジボワールは、互角以上のサッカーを展開したと思います。

 とはいっても、(岡田監督が胸を張っていたように)日本代表の守備ブロックも素晴らしい機能性を魅せつづけ、最後の勝負所では、コートジボワールの仕掛けをしっかりと受け止められていました。もちろん、忠実でダイナミックなチェイス&チェックを基盤にした組織ディフェンス。見応え十分でした。

 ところで、岡田監督のコメントに、こんなキーワード(重要な発言)があった。「コートジボワールの身体能力とスキルは高いレベルにある・・彼らは簡単にミスはしない・・いまの状況では我々にとって最高の相手だと思う・・そんな強敵に対して、守備でやろうとしていることを最後まで積極的にトライしつづけられた・・」

 そして岡田監督は、コートジボワールは身体能力とスキルが高く(日本がプレスを掛けても)あまりミスをしない・・というコメントを出したことへの私の質問に対して、こうつづけた。「もちろん一回でボールを奪い返せるとは思っていなかった・・何度もプレスを外されるに違いない・・だからこそ、粘り強くプレスを掛けつづけることを、しっかりと意識付けした・・」。そう、まさにその通りだった。

 わたしは、岡田武史監督の、守備から入っていくというチーム戦術的なアプローチ(チーム戦術的なマネージメント)にアグリーです。そして、選手が描くべき具体的なプレーイメージを、適度な刺激とともに脳裏に刻み込むことで、グラウンド上の複数のプレーを有機的に連鎖させる・・。

 最後に、何人かの選手をピックアップしましょう。まず何といっても、左サイドバックとして、攻守にわたって抜群のパフォーマンスを披露した長友佑都。本当に素晴らしいタレントです。

 前述のように、前半立ち上がりの20分間は日本が圧倒したわけだけれど、そこでの「表」の主役は、何といっても長友佑都でした。素晴らしいスピード。素晴らしいボールコントロールとドリブル。素晴らしい勇気と決断力・・などなど。まあ、これからゆっくりと、彼のプレーを的確に表現できる形容詞を考えることにしましょう。

 そんな長友に対して、「裏」の主役は、何といっても今野泰幸でした。素晴らしい「守備の起点プレー」を披露しただけではなく、局面でのボール奪取勝負でも強いし、攻撃では、正確な展開パスだけではなく、チャンスと見たら、自身も最前線へスッと抜け出して決定的な仕事をしてしまう(例によっての、クリエイティブな消えるプレー)。やっと今野泰幸も、もっとも相応しいタスクを与えられ、それを十二分にこなすことでチームでの存在感をアップさせはじめた。

 そして、その「表と裏の主役」を結びつけていたのが(リンクマン的な役割をこなしていた)長谷部誠だったというわけです。

 これで、中盤において、攻守にわたって「汗かき」からクリエイティブな勝負プレーまで、様々な役割を「ポリヴァレント」にこなせる選手が揃ってきた(健全なライバル環境が整ってきた!)。鈴木啓太、阿部勇樹、今野泰幸、山瀬功治、長谷部誠、遠藤保仁、そして「牛若丸」中村憲剛・・。期待がふくらむじゃありませんか。

 また、トゥーリオと中澤祐二のセンターバックコンビについても簡単に。良かったと思いますよ。非常に安定していた。まあセンターバックは(以前に何度も書いたように)この二人で決まりでしょう。もちろん、この二人が効果的に機能した背景には、ポリヴァレントな中盤の仲間による忠実な汗かきプレーがあったことは言うまでもありません。守備こそ、「有機的なプレー連鎖の集合体」でなければならないのです。

 ここまで書いたら、やっぱりフォワードまで・・。玉田が魅せた、攻守にわたって切れのある献身プレーには満足しています。それに対して、大久保嘉人と松井大輔のプレーには、まだまだ「光と影」のギャップがあり過ぎると感じていました。要するに彼らは、互いに使い・使われるという「組織メカニズム」に対する深い理解と、主体的に(攻守にわたる汗かきの)仕事を探すという視点で、まだまだ甘いということです。要は、持てる才能をまだまだ十分に使い切れていないということだけれど、このポイントについては、また機会を改めて書くことにします。

 あっと、ここまできたら、やっぱり楢崎正剛についてもコメントしなくちゃ。「あのゴールキーパーは素晴らしい・・ヨーロッパでも十分にやっていける・・」。2004年12月に来日して日本代表とフレンドリーマッチを戦ったドイツ代表のキャプテン、ミヒャエル・バラックが、帰国してから、ドイツのサッカー関係者にそう語っていたそうな。

 さもありなん。皆さんもご存じのように、私は、2002年当時から、楢崎正剛の総合力を高く評価していました。特に高いボールの扱いや、中距離シュートに対する処理などでは抜群の安定感を魅せる。ここでも、正しいライバル環境がアクティベイトされ(活性化され)つつある。良いことだ。

 ちょっと疲れた。もう寝ます。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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