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2008_日本代表・・優れた守備意識こそが(日本的な)組織サッカーの絶対的ベース・・(日本vsウズベキスタン、1-1)・・(2008年10月15日、水曜日)

「結果が出なかったからといって、コンセプト(志向するチーム戦術)が悪いということではない・・我々がやろうとしていることは間違っていないと思っているし、それをつづけていくことが大事なのだ・・」

 結果が出てこそのコンセプトだと思うが・・という質問に対し、岡田監督が、例によってポーカーフェイスでそう答えていました(その質問に対しては、ちょっと語気が強まったですかネ!?)。

 そう、まさにおっしゃる通り。たしかに前半の立ち上がりは積極性が高揚していかなかったけれど、日本代表のサッカーは、全体的には決して悪いものではなかったし、勝ち切れるだけのチャンスも十分に作り出した。だからこそ(またウズベキスタンの時間稼ぎに対するフラストレーションもあって)タイムアップのホイッスルを聞いた瞬間は、悔しさがこみ上げてきたものです。

 とはいっても、二試合を消化した時点で「勝ち点4」だからネ、まあ「順調」というニュアンスの範囲内ということです。

 それにしても、先制ゴールを奪われるまでの日本代表は、まさに心理的な悪魔のサイクルに捉まってしまっていたとしか言いようがなかった。それは、ウズベキスタンが、予想以上にアグレッシブなサッカーを展開してきたからに他なりません。アグレッシブ・・。もちろん守備のことですよ。

 前戦から中盤にかけて、組織的なプレッシングを掛けつづけるウズベキスタン。そんな「意外な展開」に、ちょっと受け身の心理にはまり込み、タテへ仕掛けていくのがままならない日本代表。もちろんそれは、ボールがないところでのサポートの動きが消極的だったからに他なりません。だから、タテのポジションチェンジも出てこない(要は、遠藤保仁と長谷部誠の守備的ハーフコンビの演出によるタテのポジションチェンジがまったくといっていいほど出てこなかったということ・・)。その時間帯の日本代表は、まさに「前後分断サッカー」に陥っていたのですよ。

 ウズベキスタン守備にとっては、自分たちの眼前で「足許パス」ばかりが回されるんだからまったく怖くないだろうし、「次のボール奪取勝負」にしても明確にイメージすることが出来るでしょ。

 そんな展開だったから、日本代表が、高い位置で簡単にボールを奪われて危険なカウンターを喰らうのも道理だったのですよ。そして実際に、カウンター気味の流れから右サイドを突破され、そこから見事なラストクロス(ラスト・トラバース・クロス)を決められて先制ゴールを奪われてしまう・・。

 そのウズベキスタンの先制ゴールシーンを見ながら、日本代表が、このままサッカーを高揚させられなかったら大変なことになる・・と、心底心配になったものです。でも・・

 日本代表が、その失点によって覚醒したのですよ。そして、やっと本来の、素早く広い「人とボールの動き」によってスペースを突いていくという軽快な組織サッカーが見られるようになっていく。やはり、ゴールに優る「刺激」はないということだね。

 そんな活発な組織サッカーの流れのなかで、遠藤ヤットや香川真司がチャンスを迎えます。それまでには、チャンスらしいチャンスなど、まったくと言っていいほど作り出せなかったわけだから、それが「心理的なシナジー(相乗効果)」を生み出し、心理的な善循環へと高揚していくのも道理なのですよ。そして、そんなポジティブな流れのなかから、まさに順当といえる同点ゴールが生まれるわけです。

 いや、本当に見事でした、その同点ゴールを演出した中村俊輔の素早く正確なボールコントロールと、ファーポストゾーンでフリーになっていた大久保嘉人への決定的な「ラスト」サイドチェンジ・クロス。ボールがないところでの汗かきも含め、全身全霊のディフェンス「も」魅せつづけていた中村俊輔だったからこそ、その決定的なチャンスメイクプレーを見たときの感激はひとしおでした。

 そしてその同点ゴールを境に、長谷部誠が右サイドのタテスペースへ飛び出して決定的チャンスを演出したり、トゥーリオが「流れのなか」で最前線まで飛び出していったりと、タテのポジションチェンジが格段に活性化していったのです。やはり攻撃の変化にとって、タテのポジションチェンジは必須だよね。

 ということで、それまでウズベキスタンの勢いに、基本的なゲーム戦術(=基本的なタスクとポジション)に「逃げ込んで」いた日本代表の選手たちが(岡田監督は、臆病になっていたという表現を使っていた)ようやく、クリエイティブなルール破り(≒リスキープレー)にもチャレンジしはじめた・・。

 後半の日本代表は、本来のチカラの差をまざまざと見せつけてくれた。ゲームを支配するなかで、玉田や俊輔のミドルシュート、トゥーリオのヘディングシュートなど、何度か決定的なチャンスを作り出した。とはいっても、何度かウズベキスタンに危険なカウンターを仕掛けられ、危ないシュートを浴びたことも確かな事実。そのピンチシーンについては、後でビデオで見直してイメージトレーニングする必要があるかもしれないね。

 さて、ということで最後になりましたが、選手についても短くコメントしておきます。素晴らしいゲームメイカー&チャンスメイカー&攻守にわたる汗かきプレイヤーぶり「も」発揮した中村俊輔については必要ないだろうから、ここでは大久保嘉人と中村憲剛についてだけ、思うところを書きます。

 大久保嘉人だけれど、たしかにシュート感覚には良いモノを持っているし、全体的なスキルも悪くない。だから岡田監督の期待も分からないではない。でも、攻守にわたる組織プレーへの本当の意味での貢献度が高くないことも確かな事実です(場合によっては大きなブレーキになっている!?)。

 特に目立つのは、攻守にわたって、肝心なところで走らない(汗かきマインドの欠如!?)というポイント。それについては、攻守にわたって、ボールがないところでは自分が主役になれる状況でしか走らないとも表現できるかもしれない。

 自分がスペースでボールを持てるパスレシーブ状況とか、自分がボールを奪い返せるディフェンス状況とかネ。組織プレーの本質は、互いに使い・使われるメカニズムに対する深い理解にあり・・なのだけれど、常に自分が主役になろうとするのでは、必ず、行動が「歪んで」くるものなのですよ。

 また、ボールを持っても、玉田のようにドリブル突破(リスキープレー)にチャレンジするのではなく、無為にキープするシーンが目立つ(オレはパサーだ・・という歪んだ心理!?)。そのことで、組織的な仕掛けの流れを停滞させてしまったり、不正確なパスでチャンスを潰してしまったりと、どうも実効レベルが低すぎる。

 そこで中村憲剛。わたしが常に書いているように、いまの日本代表では、中村俊輔、中村憲剛、そして遠藤保仁の「中盤トライアングル」は欠かせないと思っているのですよ。この試合では、大久保嘉人ではなく、はじめから中村憲剛を出場させていたら、確実にサッカーの流れが良くなっていたと思う。

 中村憲剛は、守備的ハーフ「も」できるけれど、基本的には「ポリヴァレント」なミッドフィールダーなのですよ。要は、高い守備意識に支えられた「実効プレイヤー」ということです。

 「トライアングル」の三人は、すべからく高い守備意識をベースにしているからこそ、互いに深い信頼で結ばれている・・だからこそ(特に日本代表では)攻撃の変化に欠かせない縦横無尽のポジションチェンジもスムーズに出てくる・・。何せ、その後のディフェンスに対して不安を持つ必要が無くなるわけだからネ。その意味じゃ、長谷部誠も十分にポリヴァレントと言える・・。

 たしかに、中盤の底には、前気味リベロ的な意味合いも含め、チェイス&チェックなどの汗かき(守備の起点プレー!)も十二分にこなせるような「アンカータイプの守備的ハーフ」は必要だよね。例えば、鈴木啓太・・。

 そしてその周りを(組織サッカーにとって最も重要なファクターである!)優れた守備意識をベースにしたクリエイティブタイプの選手で固める・・。それがあって初めて「ゼロトップ」が機能するようになると思うのです。そう、誰でもチャンスのある者が臨機応変に最前線センターへ飛び出し、そこへの「くさびパス」を受けて効果的なポストプレーを展開してしまうような「ゼロトップ」・・。

 「スキルフル」な選手に「ハードワーク」させることが、現代(&未来)サッカーのコーチに課せられた最も大事なタスクの一つであることは言うまでもないけれど、でもそこは代表チームだからね、「歌を忘れたカナリヤ」に再教育を施す時間はないよな〜〜。さて・・ 

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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