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2008_ドイツ報告、その5・・さて、やっと「コーチ国際会議」の話題に入れます・・(2008年7月31日、木曜日)

「我々は、独立した国内コーチ連盟として世界最大規模の組織であることを誇りに思うとともに、ドイツサッカー協会やヨーロッパ各国コーチ協会同盟(AEFCA=Alliance of European Football Coaches' Associations)との密接な協力関係をベースに、これからもサッカー発展のために大いに貢献していかなければならない・・etc」

 2008年7月28日午前0900時。ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟のツィングラーフ会長が高らかに開会を宣言しました。開催地は、ドイツの空の玄関口であるフランクフルトの隣町で、ヘッセン州の州都でもあるヴィースバーデン。古代ローマ時代から質の高い「温泉」で知られる、緑に囲まれた閑静な保養地です。

 今回も、参会者は1000人を超えた。もちろん「コーチ」としてだけで生活する純粋のサッカープロばかりじゃなく、なかにはパートタイムでアマチュアチームを指導したり、学校で教鞭を執っているコーチもいます。ただし、全員が、私も持っている、Fuァball-Lehrerライセンス(最高峰のプロライセンス=UEFAプロライセンス)だけではなく、A級ライセンスを保持する強者ばかりなのですよ。そりゃ、壮観だ。

 参加者のなかには、1974年ワールドカップで世界の潮流を変えたオランダ代表チームのヤンセン選手や、元浦和レッズ監督のギド・ブッフヴァルト(もちろん、久しぶりの再会に旧交を温めました)、稲本潤一が所属するアイントラハト・フランクフルトのヘッドコーチで、元ハンブルガーSVのヘッドコーチも務めていたアルミン・ロイタースハーン(彼とも久しぶりの再会だから、ハグをしながら互いの情報を交換した)、旧友で、前出のヨーロッパ各国コーチ協会同盟で事務局長(ジェネラル・セクレタリー)を務めているカールハインツ・ラヴィオール、また元ジェフ千葉で、イビツァ・オシムの右腕を務めていた「ヤーン・シェツィーナ」も参加していました。

 「ヨ〜〜、久しぶり・・ヤーンはまだ日本に住んでいるんだろ?」

 「そう、まだ日本にいるよ。今回は、里帰りと、この国際会議へ参加するために一時帰国さ(彼はドイツとポーランドのハーフで、国籍はドイツです)」

 「イビツァとは連絡を取り合っているんだろ。それとアマルはどうだい?」

 「イビツァが元気になって本当によかった。ホッとしているよ。彼とは頻繁に電話で話しているけれど、とにかく声にも元気がみなぎるようになってきたからな。それと、アマルだけれど、ボスニア代表監督のハナシがあったんだよ。最後の二人というところまで残ったけれど、結局今回は年長のコーチに決まったらしい。まあ、まだ若いし、能力もあるから、これからだな・・」

 それ以外にも、言わずと知れたマティアス・ザマー、長谷部誠が所属するヴォルフスブルク監督のフェリックス・マガート、ラルフ・ラングニック、フォルカー・フィンケなどなど、そうそうたる強者連中もVIPとして参加しています。

 とにかく、このコーチ国際会議は、様々な(それも世界中の)サッカー人生の接点としても非常に効果的に機能しているわけです。さすが、人類史上で最大パワーを誇る「異文化接点」のサッカーじゃありませんか。あっと・・、アマル・オシムについては「The対談の記事」を参照してください。

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 また前段が長くなりかけた。さて国際会議。

 最初のテーマは、もちろん「EURO 2008」。ドイツサッカー協会のインストラクタースタッフが、スイスとオーストリアに分散し、テーマごとに分析をしました。コンピュータで作成した分析ページをスクリーンに映し出しながら説明を加えるという形式。その分析ページは、すべてデジカメで収録してあります。まあここでは、中心的なテーマだけを短くまとめることにしましょう。

 インストラクタースタッフは、わたしのHPで既に何度も登場しているエーリッヒ・ルーテメラー、日本との関係も深いベルント・ストェーバー(右の写真の方)、フランク・エンゲル、そして今年から(実質的には昨年から!?)ドイツサッカー協会のコーチ養成コース総責任者という役割を、前任者の(定年で退役した)エーリッヒ・ルーテメラーから受け継いだ、フランク・ヴォアムート。一人ひとり、なかなかのパーソナリティーとインテリジェンスです。さすがに中央組織のレプレゼンタティーブ(代表)ではあります。

 そんな強者連中が、システム&ポジション&機能分析、守備分析、攻撃分析、そして傾向分析というふうにテーマを分けてプレゼンテーションしたわけです。なかなか面白かったですよ。

 ということで、内容の骨子を短くまとめます。

 ・・数字で表されるシステムについては、その背景の意味に問題はあるにしても、観ている方に分かりやすいという視点では注意深く活用することはできる・・ただし、システムで勝つのではなく、あくまでも個人やグループのプレーの質が決定的ファクターだ・・

 ・・今回の大会での主流は「4-2-3-1」・・もちろんゲーム戦術的に、「4-1-4-1」にしたりツートップにすることはあった・・ただ、ワントップを基盤に、中盤の選手たちが、攻守にわたってより多くの仕事をこなすというトレンドには変わりはない・・スペインは、ワントップ&ワンシャドー(フェルナンド・トーレスとビジャ)というのが基本だった・・

 ・・守備では、フラット(チェーン)フォーがメインストリーム(主流)・・呼び方は色々だし、チームによっては(相手のトップ選手に対する対処によっては)フラット(チェーン)の意味合いが少し変わることもあった・・

 ・・中盤の「底」のコンビだが、一人は、アンカーとして中盤ディフェンスを締め、もう一人は、守備ではユーティリティーに機能しながら、攻撃となったら、後方と前戦をつなぐリンクマンとして機能する・・

 ・・アンカーとしては、何といってもスペインの「セナ」に対する評価が絶大だった・・ドイツではフリングス、クロアチアのニコ・コバチに対する評価も高かった・・またリンクマンとしては、スペインのシャビは当然として、バラック(ドイツ)やモドリッチ(クロアチア)に対する評価も高かった・・

 ・・サイドゾーンというテーマ・・そこに「基本的な役割イメージ」として「二人を配置する」という発想が主流になっている・・サイドを二人で崩していくというイメージ作りをするということ・・

 ・・攻撃選手のタイプとして、サイドからドリブルで崩すというスペシャリスト(ロッベン、ファン・ペルジーなど)、ストライカータイプ(ポドルスキー、ロナウド、スナイデル)、アシストタイプ(イニエスタ、ラキティッチ)などが挙げられた・・

 ・・スペインの「ワントップ&ワンシャドー」による仕掛けや、ロシアの最前線センタートリオによる仕掛けなどが、戦術的なイメージとして確立していた(互いのイメージシンクロが上手く機能していた)という指摘もあった・・最終勝負シーンでの「仕掛けイメージのパートナーシップ」については、トーレス&ビジャ、オリッチ&ペトリッチ(クロアチア)、ファン・ニステルローイ&ファン・デル・ファールト、バラック&クローゼといった組み合わせが上手く機能していたという分析があった・・

 ・・前述したが、決してシステムなどではなく、チームパフォーマンスの基盤は、何といっても、テクニックの完成度、戦術的な柔軟性、アクションの素早さ(正確さ)、そして勝者のメンタリティーによって形作られている・・(湯浅の注釈:この勝者のメンタリティーについては、会議の内容でも、コーチ仲間との『行間ディスカッション』でも大きな話題を放散していた!)

 ・・プレッシング(ボールの状態に対応する積極ボール奪取アクション)は、もちろん90分間つづけられるものではない・・それと「ディープ守備ブロック」という安定ディフェンスを、いかにうまく組み合わせていくのかというがテーマ・・

 ・・ただし、最初から「ディープな守備ブロックを基盤にしたカウンターサッカー」という戦い方は希だった・・

 ・・(湯浅の注釈)このテーマについては、会議の合間に、多くのコーチ連中と議論するなかで(まあ、クリストフ・ダウムとの会話が重要だったわけですが・・)ある表現が浮かんできた・・それは、いかに「チームが一体となって」プレッシングと安定ディープ守備ブロックを「切り替えるか」ということ・・それは、チームのリーダーというテーマにもつながる・・現代サッカーの「現場」では、それこそが重要なテーマ・・フムフム・・

 ・・最終ラインの中央ゾーンの「密度」を高くする傾向がある(要は人数を多くするというイメージ)・・最後は中央ゾーン・・だから、前戦から戻ってくることも含め、そのゾーンを強化するという傾向・・

 ・・また、ディープ守備ブロックで対応するとき、ファールをしないという意識が非常に高まっていることも大事なポイント・・それによってフリーキックが減り、結果としてセットプレーゴールも減少傾向にあった・・

 ・・攻撃では、ボールを奪い返したときの「相手の状態」によって二つの攻撃スタートタイプがある・・一つは、言わずと知れたカウンター・・相手のディフェンス組織が整っていないことを素早く判断して守備から攻撃へ転換し、なるべく早く相手ゴールへ迫る・・もう一つが、組織された相手守備ブロックに対して、しっかりと組み立て(中盤でのこぼれ球を拾うだけではなく、ロングシュートやクロスなどでこぼれた)セカンドボールを狙ったり、サイドやセンターゾーンをコンビネーションによって崩していく(スペースを攻略していく)という発想・・

 ・・組み立てでは、とにかく「深さのあるタテパス」を効果的に活用するというイメージを持たなければならない・・リスクのないところに成果もなし・・そこでは、効果的にポジションチェンジを繰り返すことも必要・・それでも、全体的なバランスが崩れない・・そこまでしっかりとイメージトレーニングを繰り返す・・

 ・・すべてのゴールの35パーセントはカウンターから・・流れのなかでのボール奪取からのカウンター・・相手セットプレーからのカウンター・・GKの素早いフィールディングからのカウンター・・

 ・・トップチームでは「セカンドボール」を具体的にターゲットにするチームはない・・

 ・・サイドからの仕掛け・・クラシックな「ゴールラインまで持ち込んだクロス」というシーンは少なくなっている・・逆に、タッチラインとペナルティエリアの延長線の間のゾーンから(要は、サイドのちょっと後方から)フラットで鋭くカーブするクロスを送り込むターゲットプレーが増えている・・要は、トラバースクロス・・サイドゾーンを攻略するためのコンビネーションやドリブル勝負が増えている・・サイドチェンジが増えている・・

 ・・センターゾーンから仕掛け・・「三人目」をうまく活用したコンビネーションが増えている・・ドリブルシュートやドリブルからのラストパスといったシーンが減少している半面、急激なテンポアップをイメージしたコンビネーションをスタートするための準備としての「タメの演出」という仕掛けシーンは増えている・・重要なことは、ゴールへ向かって「斜めのフリーランニング」を繰り返すことが重要・・

 ・・攻撃の質を上げるための前提条件・・ボールコントロールに優れた(キープ力のある)中盤によるショートパス・・素早く正確なボールの動きの繰り返し・・ボール扱いに長けた、パワフルなストライカー(ワントップ)の存在・・ポジションチェンジとトライアングル・・などなど・・(湯浅:当たり前じゃネ〜か)

 ・・とにかく、スペインの評価が素晴らしく高い・・守備と攻撃の完璧なバランス・・魅力と効果の理想的なバランス・・完璧なショート&ロングのリズム変化・・ダイレクト&ツータッチによる素早く正確なコンビネーション・・若手とベテランの理想的な混成チーム・・長いトーナメントを勝ち抜けるだけのバランスの取れた選手構成・・そして質実剛健のチームスピリット・・等々・・

 ・・まとめ・・現代サッカーにおけるスターとは、チームワーク(汗かきプレー)を確実に意識し、常に実行しつづけられる優れたパーソナリティーを備えている・・

 ・・これからのドイツの(選ばれた)若手の育成における重要ポイント・・育成プロセスを、それぞれの個人に適応させる・・プレッシャーの中でのテクニック(スキル)の向上・・攻撃への積極性・・フィットネス・・パーソナリティー・・そして勝者のメンタリティー・・

 ということで、今日はこんなところでした。フ〜〜・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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