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2008_ドイツ報告、その2・・クリストフ・ダウムは「ハメる」つもりじゃなかったんだってサ・・(2008年7月27日、日曜日)

「何を考え違いしているんだよ・・アレは、オレの本心から湧き出してきた素直な行動だったんだぜ・・気付いたら、自然と身体が動いたんだよ・・たしかに後から考えたら、ちょっと派手だったかなとは思ったけれど・・」

 そんなクリストフに対し、こんな言葉を返していました。「オマエが記者会見の壇上から降りてきたときは、本当に、いい加減にしろヨ!って思ったんだヨ・・でも、ああなっちゃったら、もう誰にも止められない・・こうなったら、オマエよりも力を込めて抱きしめてやろうと思ったサ・・あははっ・・」

 「昨日のコラム」で書いたように、クリストフ・ダウムと「派手な」再会を果たしたわけですが、「力ずく」の抱擁の後で、しっかりと今日のトレーニングスケジュールを聞いておきました。「明日は、午前11時ころから軽くトレーニングする予定だよ」と、クリストフ。「そうか・・それじゃ、コーチ国際会議へ向けて出発する前に、1.FCケルンのクラブハウスに行くよ」と私。

 クリストフはものすごく忙しい男だから、私と話す時間が取れるかどうかは分からなかったけれど、とにかく約束したこともあって、キッカリ1030時には「ガイスボック・ハイム」と呼ばれる1.FCケルンのクラブハウス正面玄関の前に立っていました。そこへ最初に現れたのは、ヘッドコーチのローラント・コッホ。

 「クリストフにはオレから話しておくから、オマエは、二階のレストランのバルコニーでお茶でもしていろよ・・今日はボールを使ったトレーニングじゃなく、市の森のなかをジョギングするだけだから・・」

 そうか・・。ということで、新聞を二種類ほど買い込み(ケルンのエクスプレス紙とシュタットアンツァイガー紙)クラブハウスに内設された瀟洒なレストランのバルコニーで二時間ほどお茶をしていたという次第。

 素晴らしい晴天に恵まれたから、気持ちよいことこの上ありません。クラブハウスの写真も撮ってくればよかった。1.FCケルンのクラブハウスは、ケルンの市の森(市街地を取り囲むグリーンベルト)のなかにあります。そこに、クラブハウスに隣接するように、5面ほどの自然芝と人工芝のピッチがある(また2000人ほど収容できるフランツ・クレーマー・スタジアムもある)。そんなだから、バルコニーからは、まさにグリーン三昧の素晴らしい雰囲気を楽しめるというわけです。

 そこに、またまたローラント・コッホが軽やかに登場するのです。「待たせたな・・クリストフがクラブハウスで待っているよ・・」

 今日は、ローラントは時間がないということで、私とクリストフを残して先に帰りました。まあ彼とは、国際会議が終了してから(たぶん次の水曜日か木曜日にでも)ケルンで夕食をともにしながら語り合うことになるでしょう。「オレも楽しみにしているよ・・とにかく電話をくれよな・・」と、ローラント。

 そんなこんなで、クラブハウスの監督室で二人だけになった私とクリストフ。まず私が口火を切りました。「昨日のハグは派手だったよな・・オレは、パーソナリティーのアピールとか、オマエが、メディアに対する何らかのデモンストレーションを意図していたと思っていたんだけれど・・」

 そんな私の言葉に、クリストフが、冒頭のように強く主張したというわけです。

 そうか・・。まあ、実際にクリストフが言うような経緯だったのかもしれないけれど、今日クラブハウスに行ったときには、何人もの「ケルンの番記者」から、色々な質問を受けましたよ。もちろん彼らも、昨日の記者会見に同席していたというわけです。

 「アンタは誰?」「いったいダウムとは、どんな関係?」「あんなに嬉しそうなダウムを見るのは久しぶりだった」「それにしても、友情を大事にするのは良いことだし、アナタ達の抱擁を見ていて暖かい気持ちにさせられた」などなど・・

 そんな質問に対し、ひとしきり自分のことを説明した後、逆に質問してみた。「あのときのクリストフの行動をどう感じましたか?」「何らかの意図的なモノは感じませんでしたか?」

 それに対して、ほとんどの記者の方々は、「いや、そんなことはありませんよ・・」「古くからの友人を、心から迎えたという自然な雰囲気だったから、非常に爽やかな印象が残りましたよ・・」などと言っていた。

 フ〜〜ン・・。ちょっと考え過ぎだったということなんだろうか・・。でも、にもかかわらず私は、あの行動からは、クリストフの人間味あふれる(ポジティブな)パーソナリティーが強烈にデモンストレーションされたことだけは確かな事実だったと思っています。訓練された者だけが出来る、違和感を伴わない強烈なアピール。自然な行動が、ポジティブな雰囲気をかもし出すといったところですかネ。まあそれも、監督のウデの一種だということだね。

 監督の能力は、「パーソナリティー」という、つかみ所のないバックボーンに「全て」が収斂されるのですよ。

 ということで、そこからは、時間を忘れ、クリストフと様々なテーマについて話し合いました。

 まず私が口火を切る。「オレが考えつづけている永遠のテーマは、良いサッカーコーチという表現のコノテーション(言外に含蓄される意味)なんだ・・それについて、オマエと、とことんディスカッションを重ねたいよな・・そう、1990年代に、オマエがシュツットガルトやレーバークーゼンを率いていた頃のようにね・・」

 「そうだな・・あの当時は、本当にいろいろなことを話し合ったよな・・まあ、おれ達も歳を取って様々な経験を積んだから、これからの方がより深いディベートができるはずだよ・・それにしても、偶発的とはいえ、オマエと、再びこんなに自然に近づけるようになって本当にハッピーだぜ・・」

 そんなクリストフの言葉に、こちらも心底アグリーでした。「多分おれ達は、コーチングというテーマについて、かなり深いレベルまで共通の言語をもっていると思うよ・・もちろんローラントも含めてネ・・これからの日本サッカーにとって最も重要なテーマは、何といっても、優秀なコーチの育成なんだよ・・ただし、日本の社会体質は、まだまだスクウェアだ(四角張っている)・・コーチ連中が、もっと柔軟に本音のディベートができるようにならなければ、選手たちを解放させられるばすがないよな・・」

 「社会的な体質についてはドイツも同じさ・・要は、優れたコーチは、その体質の意味をしっかりと自分なりに理解し、自分に与えられた具体的な目標を達成するために、何をどのように為すべきかという具体的な方策が見えているかどうかというのが大事なポイントなんだよ・・もちろん、否定するばかりじゃなく、その社会体質をうまく活用するという発想も含めてネ・・」と、クリストフ。

 「まあ、そういうことなんだけれど、それでも、日本の場合は、地政学的にも、社会文化的にもかなり特殊だからな・・社会的には素晴らしく勝ちのあるメンタリティーでも、サッカーにとってはマイナスに昨日するだけとかネ・・だから、個のチカラを、本当の意味で発展させるためには、かなりの努力が必要なんだよ・・選手の心を、本当の意味で解放することは難しい・・自由を得るためには、それなりの義務を果たさなければならないわけだけれど、日本人のなかには、自由なんて欲しくないって思っている人たちもいるからな・・そう、彼らは、より楽に、ストレスなく生活したいというわけさ・・そんな野心のない連中は、組織に属していれば責任を共有できるって安心しているわけだ・・寄らば大樹ってなことかもしれないけれど、個人事業主のグループであるプロでは、そんな考え方はマイナス以外の何ものでもないからナ・・」と、わたし。

 そんな会話が延々とつづきました。もちろん時間は、アッという間に過ぎてしまう。

 このコラムで、クリストフと対談した内容を具体的に表現しようとは思いません。ここでは、彼との会話は、様々な意味で「本質」に近づいていくための正しいベクトルに乗っているということが言いたかったわけです。クリストフも、様々な保守的な発想を、前向きに否定することで正しい方向性を探ろうとするタイプだからね。要は、彼は、本物のリスクチャレンジャーなのですよ。だからこそ面白いし、ためにもなる。

 いま、コーチ国際会議が開催される(ヴィースバーデン市の)市立文化ホールの隣にあるドリントホテルでこの原稿を書いているのだけれど、1930分から、ヴィースバーデン市長ご招待の歓迎会があるということで、スーツに着替えなければなりません。

 このコラムは「ここまで」で一応掲載するけれど、後から書き足すことになるはずです。また昨日のコラムで約束した、5年前の「雑誌ナンバーの記事」については、明日、私のHP用として処理してから掲載するつもりです。

 あっと・・クリストフ・ダウムについては、日本語のウィキペディアでも紹介されているから、キーワード「クリストフ・ダウム」で探してください。

 また、最後の二枚の写真は、これまでの彼の軌跡を記した「手書きノート」のほんの一部です。ファイルは数百に及び、その一つ一つに、彼の手書きの「ノウハウ」が満載されている。さて、これからは「それ」も(我々日本のコーチ連中にも!)公開してもらうことにしましょう。ということで、後でまた・・。

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 さて、歓迎会から帰還しました。ちょっと酔っぱらっている。だから文章がハチャメチャになるかもしれない。ご容赦アレ・・

 クリストフとの会話で、二つだけ大事なものがあった。最初が「創造性」というテーマ。クリストフは、それを「トレーニングの賜物だ」と表現するのです。

 「観ている方は、素晴らしいフェイントとか、魅惑的なボールコントロールを見せつけられたら、それは、その選手が天賦の才に恵まれているからに違いないと思うだろうな。でもそれは本当のところじゃないんだよ。たしかに才能は大事だけれど、それにしても、磨かなければ決して光り輝くことはないんだ。いまオレのチームには、数人のドリブラーがいる。本当に優れた才能に恵まれた連中だ。だからこそオレは、ヤツらのドリブルの才能が、本当の意味で大きく開花するように、注意深くマネージしなければならないと思っているんだよ。そうでなければ、確実に、ヤツらの才能が、周りに潰されてしまうからな・・」

 「やはり才能を本当の意味で開花させるためには、コーチには、大いなる我慢が強いられるということだな?」

 「そう・・まさに、そういうことだ・・良いコーチは、個の才能をしっかりと開花させられるもの何だよ・・それもまた、ヴァイスヴァイラーから学んだことだ・・」

 「でも・・マラドーナは、トレーニングする必要はないよな・・」

 「そう・・マラドーナはトレーニングの必要はない・・だからこそ、ヤツは、モノが分かったコーチにとって大いなるチャレンジの対象なんだよ・・そのことは、当時のアルゼンチンの伝説的な名コーチ、ルイス・セザール・メノッティーも、オレに個人的に語っていたサ・・コーチの本物の能力は、レベルを超えた才能が出てきたときに、本当の意味で証明される・・ってね」

 いや、本当にコーチという職業は奥深いネ。

 「ところで、バイエルン・ミュンヘンは、来週の木曜日に、浦和レッズと練習試合をやるよな・・そのことについて、昨日の記者会見にユルゲン・クリンズマンが同席していたら、こんな質問を投げかけるつもりだったんだよ・・日本では、バイエルンは、観光気分で日本に来るに違いないってネ・・クリストフは、それについて、どう思う?」

 「何いってんだ・・バイエルンは、日本でも、フルパワーのサッカーを展開するはずだよ・・とにかくいま選手たちは、ライバルに打ち勝つために必死なんだ・・そのために、ユルゲン・クリンズマンに対してアピールしなければならない・・浦和レッズとのフレンドリーマッチにしても、選手にとっては、掛け替えのないアピール機会なんだ・・とにかく、バイエルンは闘うはずだ・・そして優れたサッカーを展開するはずだよ・・ポドルスキーにしてもシュヴァインシュタイガーにしても、フィリップ・ラームしても、ライバルが目白押しだからな・・とにかくヤツらは闘うしかないんだよ・・その意味じゃ、浦和のファンは、エキサイティングな勝負マッチを堪能できるはずだ・・そのことを、しっかりと書いてくれよな・・」

 もちろん、しっかりと書くよ。とにかく、クリストフの考え方は正しいと思いますよ。今のバイエルンで、自分のポジションが安泰なのは、最終ラインのルシオ、中盤のファン・ボメルとリベリー、そして最前線のミロスラフ・クローゼと(イタリア代表の)ルカ・トーニだけだからね。後は、ヤジロベエのイスに座っている選手ばかり。昨日のゲーム内容もそうだけれど、来週の木曜日に埼玉スタジアムで行われる「レッズ対バイエルン・ミュンヘン戦」はエキサイティングな勝負マッチになること請け合いです。わたしは観られない。ちょっと残念ではあります。

 ということで、明日また・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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