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2008_高校サッカー決勝・・組織と個の高質なバランスという正しい(発展の)方向性・・(流経大柏vs藤枝、4-0)(2008年1月14日、月曜日)

「勝つことに対する執着心が出てきたんですよ・・」

 「本田先生が手掛けていたテーマで、もっとも大事だったのは、(記者会見での)先生の発言を聞くまでもなく、やはり、組織プレーと個人プレーを、いかにハイレベルにバランスさせていくのかということだったと思います・・そのテーマを見事に開花させたわけですが、ここに至るまで、もっとも大変だったこと、もっとも大事に考えていたことを、二つか三つのキーワードで表現していただけませんか?」

 そんな私の質問に対し、流通経済大付属柏高校の本田先生が、その一つのキーワードとして、冒頭のように答えてくれたというわけです。もちろん「勝つことへの執着心」とは、様々なコノテーション(言外に含蓄される意味)を内包する単なるキーワード。決して、勝つこと「だけ」にこだわるような、ガチガチの戦術サッカーを展開したっちゅうわけではありません。そこには、本当の意味で選手たちが「発展」できるための唯一のリソースであるリスクチャレンジをコアとする創造性コンテンツも、しっかりと盛り込まれていたのです。

 本田先生は、そのキーワードのバックボーンとして、「個人の能力を組織的に活かし切る」という、サブ・キーワードも呈示してくれました。このテーマについて、準決勝後の記者会見も含め、本田先生からは、様々な興味深い発言がつづきました。それらを、わたしの独断と偏見でまとめてみると・・

 ・・午前中は、極端に個人プレーに執着するような練習に時間を割いた・・ただし午後のトレーニングでは、ダイレクトパスを中心にした組織プレーを強調する・・選手は、そんな方針に矛盾を感じていたようだが、彼らも、私の性格を理解したようで(諦めて!?)その方針をフォローしてくれるようになった・・

 ・・テーマは、個の能力をベースに、それでどんなサッカーができるのかということ・・技術がなければ何もはじめることができない・・ただ、それが有りすぎても(偏った使い方をすれば)持て余してしまう・・私は、選手たちに、ボールのこねくり回しは、たしかに楽しいだろうが、チームのためにはマイナスになることの方が多い・・もしボールを持ってタテへ突っ掛けていくならば、オレは何も文句は言わない・・それこそが望まれるプレー姿勢だ・・

 ・・そんなことを選手に言いつづけてきた・・要は、子供のマインドから大人のマインドへ脱皮させるプロセスで、彼らを手助けしたということだと思っている・・選手たちは、ドリブルを中心に、自分たちのアイデアでサッカーをやりたいと思っていただろう・・ただ、それでは限界が見えている・・その個の能力を、何としても(効果的に)組織プレーへ振り向けていかなければならないという信念があった・・だから、勝つことに対する執着につづく二つめのキーワードは、(チーム戦術的なコンセプトの!)方向性を整えるということだった・・

 (ついでに、本田先生の心理マネージメントに対するウデの一端がかいま見える、こんなエピソードも紹介しましょう)・・選手たちに、試合前に自分たちの考えをまとめるようにメモを取らせている・・要は、このようにすれば勝てる・・逆に、こんなことをやったら負ける・・というテーマに対してメモを取らせたということ・・その内容を読んで、まあ、これだったら大丈夫だろうと思っていた・・

 なかなかのものです、本田監督。本当に優秀な(プロ)コーチじゃありませんか。彼も様々な「歴史」を背負っていると聞きます。そのなかには、選手やチームを「潰した」経験も含まれているに違いありません。彼は、そこから学び、主体的に発展できるだけのインテリジェンスとパーソナリティーを備えていたということです。

 わたしは、「本当の意味」で強く、正しい発展ベクトルを示唆できるイメージリーダーとして、今年の流通経済大付属柏のサッカーを強く支持します。一発勝負の高校選手権だからね、そこで、(観る者、やる者にとってのモティベーションとしての美しさというニュアンスも含む)内容で秀でるだけではなく、しっかりと勝ち切ったことには、非常に大きな意義があると思うのです。

 それにしても、2点目を奪い取ってからの柏のサッカーは、本当に「解放」されたよね。そこからは、藤枝東を、まさに圧倒した。サンフレッチェユースと闘ったプリンスリーグ決勝の再現を観るようだった。

 要は「個の要素」がより前面に押し出され、実効あるカタチで組織プレーに盛り込まれるようになったということだけれど、それでも「無為なこねくり回し」などほとんど見られず、しっかりとタテへ、リスクチャレンジを繰り返していた。それも、ボールがないところでの組織プレー(フリーランニング)をふんだんに盛り込んだハイレベルな組織パスプレーを前面に押し出してネ。そんなプレーを観ながら、やっぱり発展の唯一のリソースは、主体的なリスクチャレンジ(そのマインドと実践エネルギーの高揚)だと再認識していた筆者だったのです。

 正しく健康的な(あるべき!)サッカーの発展プロセスを明確に呈示してくれた流通経済大学付属柏高校のサッカーに乾杯!!

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(右記事のように、二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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