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2008_中村俊輔に、心からの祝福と賛辞を!・・またトゥーロンでのフランス戦についても・・(2008年5月23日、金曜日)

まずトゥーロンでのフランス戦から。

 オランダにしても、このフランスにしても、セカンドチームだということで、やはりレベルが低かった。チーム戦術的なレベルが満足できるものじゃなかったということだけれど、あれだけ高い「個の才能」を備えているのだから、もっともっと良いサッカーが出来るはずだと思うのですよ。

 現代サッカーでは、優れた個の才能が、汗かきプレーも含め、どのくらい効果的な守備ができるのか、また攻撃では、どのくらい実効ある「ボールなしのプレー」をつづけられるのか(いかに効果的にウラスペースを活用できているか!)というポイントがもっとも重要な評価基準になります。

 もちろん(攻守にわたって)いかに上手くポジショニングバランスを維持していくのかとか、いかに効果的にコンパクト陣形を維持するのかといったポイントも、良いサッカーをするための大前提であることは言うまでもありません。そう・・アーセナルしかり、バルサやレアルしかり、もちろんマンUやチェルシーにしても・・。

 その評価基準でみた場合、オランダにしてもフランスにしても、個の才能が秘める可能性に相応しいレベルまで「組織プレーの内容」が至っていないことは明白な事実だと思うのですよ。組織あってこそ、本当の意味で「個」が活かされる・・。

 オランダにしてもフランスにしても、たしかに個のチカラを前面に押し出すことでゲームのイニシアチブを握っているようには見えるけれど、ボール奪取やチャンスメイクの「量と質」は、そのボール支配率やシュート数に見合ったモノじゃないというのが実際のゲームの流れだったのですよ。局面勝負のブツ切りサッカー・・!? そのことは、高い学習機会を期待してトゥーロンまで足を伸ばした反町ジャパンとって誤算なのかもしれないね。あっと、あくまでも「ここまでのところは・・」という意味ですよ。

 とはいっても、(相手の個のチカラが優れていることで)局面での勝負シーンには多くの学習機会(≒自信と確信のレベルアップ機会!)が内包されているし、忠実なチェイス&チェック&プレッシングを最後までやりつづけられたという事実や、攻撃では、勇気をもったリスクチャレンジを繰り返していけた等々といった貴重な「自信リソース」を獲得できたというポジティブな側面もあった。

 とにかく(トゥーロン大会のここまでで)もっとも重要だったことは、何といっても両ゲームで「勝利をもぎ取った」ことでしょう。何せ、相手の優れた個のチカラは、局面勝負シーンでは危険そのものだからね。日本チームがチャンスを得点に結びつけることが出来ず、逆に、ハッという瞬間的な集中切れでゴールを奪われ負けてしまう・・なんてコトだって十分に起こり得たはずだと思うわけなのです。

 その視点でも、最後まで集中を切らさず勝ち切れたことは(決勝トーナメントに進出することで勝負マッチを積み重ねられるという意味も含めて)ものすごく大きな価値があったと思うのですよ。

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 さて、奇蹟の大逆転リーグ優勝を果たしてしまったグラスゴー・セルティックと中村俊輔。中村俊輔に対しては、本当に、心からの祝福と賛辞を惜しみません。

 結局レンジャーズは、結果としての見え方では「二兎を追う者は一兎をも得ず」ってなことになってしまった。要は、UEFAカップ優勝とスコティッシュプレミアリーグ優勝という「ダブル・タイトル」の可能性が大きかったわけだけれど、結局は一つも取れなかったということになってしまったということです。まあサッカーでは日常茶飯事ではあるけれど・・。

 もちろん彼らは、「二兎を追う」という心理ではなく(意識と意志が不安定に分散した心理状態ではなく)純粋に、可能性のあるタイトルを全力を尽くして(一つ一つのゲームに集中して)取りにいったという姿勢に徹していたはずだけれど・・。

 またそこには、最後の数試合のスケジュールがあまりにもハード過ぎたという厳しい要因もあった(5月に入ってからのUEFAカップ決勝も含めた7試合は、本当に、2-3日おきに行われた!)。その意味でも、(彼らが優れたダイナミックサッカーを展開していたことも含めて!)正直、レンジャーズには気の毒だったと感じる面もあります。まあ、仕方ない・・。

 さてリーグ最終戦。レンジャーズは、アウェーでアバディーンと対戦し「0-2」という敗戦を喫した。対するセルティックは、これまたアウェーでダンディー・ユナイテッドと対戦し、「0-1」の勝利を収めた。

 まず前回のレポート(最後のグラスゴーダービー=オールドファームダービーと呼ばれる)に目を通してもらいましょうか。そのコラムで書いた骨子は、一つはセルティックの大逆転リーグ優勝の可能性が大きくなったということ、そしてもう一つが、中村俊輔の「個のアピール」という視点でした。

 ということで、俊輔の「個のアピール」。極度のテンション(緊張感)が支配する雰囲気のなか、この試合での中村俊輔も、豊富な運動量をベースに、着実なディフェンスからゲームに入っていきました。そしてボールを持つたびに(相手に取り囲まれるというリスキーな状況であるにもかかわらず!)しっかりとした自信あふれるボールキープから、大きなサイドチェンジを決めたり(相手守備の薄いゾーンへボールを運ぶ創造的プレー!)、狙いをすましたラストパスを決めたり。

 特に、前半12分に魅せた、右サイドでの軽快なボールコントロールとドリブルから、逆サイドでフリーになっていたマクギーディーへ「ラスト・スルー・サイドチェンジパス」を決めたシーンは、まさに天才的だった。

 またその2分後に魅せた、右サイドでの「魔法」にも鳥肌が立った。ロブソンとの素早いパス交換から(素晴らしいダイレクトパスの応酬!)右サイドのコーナーフラッグゾーンでボールを持った中村俊輔。相手二人を翻弄し、中央ゾーンに上がっていたロブソンにピタリと合うクロスボールを送り込んだのですよ。ロブソンのヘディングシュートは、バーを直撃してしまったけれど、そんな続けざまの「個の決定的な仕事」を見せつけられ、私の脳内にある期待値メーターの針が振り切れそうになったものです。

 その後も、シンプルなタイミングの(ゲームメイキング)パスだけではなく、リスキーなタメや相手を振り回すフェイント&ボール運びを「入れ」ながら、ズバッという決定的なクロスを入れたり(彼のクロスは、本当に正確に、もっとも危険なスポットに飛んでいく!)ウラのスペースを狙った危険なスルーパスを通したり。フムフム。

 それにしても、後半4分に起きた、俊輔に対するシミュレーション判定&イエローカードは残念だった(その直前には、勇気という強烈な意志を込めた惜しいシュートチャレンジもあったから余計・・)。まあ、スローモーション映像が、明確に俊輔の足が引っかけられていたことを映し出していたから、後から「シミュレーションの汚名」は晴れるだろうけれど・・。

 その後は、ダンディー・ユナイテッドの勢いが増幅しはじめたことで、徐々にフィジカル要素が前面に押し出されるゲーム展開へと流れが変容していった。まあ、そのこともあって(またイエローをもらっていたこともあって!?)俊輔と(フィジカルと守備に強い)ブラウンが交替することになったわけだけれど、まだ「両ゲームともに」0-0という状況を考えれば(レンジャーズの試合も、その時点ではまだ0-0だった!)俊輔にとっては(優勝が決まるかもしれないゲームで最後までプレーできないことも含め)納得できる交替ではなかったに違いありません。まあ、それにしても、自分の気持ち次第で、様々な意味を内包する有意義な経験として「昇華」できるはずです。

 とにかく、もう一度、中村俊輔に対する、心からの祝福と賛辞を・・。本当に、お疲れ様でした。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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