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2008_「ユーロ08」・・でも、やっぱり最後はドイツが勝利をもぎ取った!?・・ドイツ対トルコ(3-2)・・(2008年6月26日、木曜日)

「サッカーは、22人がグラウンド上で闘うボールゲームだよな・・でもさ、そんな形式とか戦術とかに関係なく、とにかく最後に勝つのはドイツなんだよ・・」

 1990年イタリアワールドカップ準決勝。PK戦で敗退したイングランドのガリー・リネカーが(ウンザリした表情で!?)そんなニュアンスのことを言ったとか。フムフム・・

 「この試合も、そんなリネカーの発言がピタリと当てはまるゲーム内容だったよな・・次の決勝でもドイツが勝つ可能性は大きいと思う・・でも、それで、またドイツサッカーの評判が落ちるんだよ・・パンサー(戦車)サッカーとか揶揄されたりしてな・・とにかくこの試合では、トルコの方が断然良いサッカーをやったよ・・」

 試合後にドイツへ電話を入れ、親友のウリ・ノイシェーファーと話したときのことです。もちろん結果は喜んでいるけれど、サッカーの内容が伴っていなかったことで、その喜びも道半ばといったところでした。「2006年ドイツワールドカップのときは、サッカー内容でも相手を凌駕できたから(ドイツサッカーに対する揶揄に対しても!?)ホントに溜飲を下げられたのにな・・」

 そんなウリの話しを聞きながら、こんなことを思っていた。「そうそう・・ドイツのコーチ仲間のほとんどは、1972年ヨーロッパ選手権で圧倒的な内容で優勝したドイツ代表チームに郷愁を感じるんだよな・・ネッツァーとベッケンバウアーを中心に展開する素晴らしくクリエイティブなサッカーで優勝したスーパーチーム・・」

 ドイツサッカーの背景については、以前サッカー批評に発表したこの「長〜いコラム」を参照してください。その文章のなかにリンクボタンも張ってあるから、他のメディアで発表した「ドイツ関連記事」も読めます。懐かしいネ・・

 たしかにドイツの出来は(ポルトガル戦とは見違えるほど)悪かった。逆に、先発メンバーのほとんどをケガや出場停止で失ったトルコ代表は、まさに吹っ切れた勝負を挑んできた。そこでは、両チームの「ディフェンスの現象」に、ゲームの流れを左右した背景要素のすべてが集約されていたと言っても過言ではなかった。

 忠実に、ダイナミックに、そしてクリエイティブにドイツからボールを奪い返つづけるトルコ。守備の起点を作り出すチェイス&チェックと、その周りで繰り広げられる、マーキングやインターセプト狙い、はたまた協力プレス狙いなどのアクションが「有機的」に連動しつづけるのですよ。まさにそれは、ポルトガル戦でドイツが展開したダイナミックなディフェンスそのもの・・。

 対するドイツは、まさに「気抜け」としか表現できないような低次元のディフェンスに終始する。それには、トルコの陣容を甘く見たという心理的な背景があったに違いありません。何せ、先発のほとんどがサブ組なんだからね。

 とにかくチェイス&チェックが甘いから、トルコが、どんどんと攻撃の起点(ある程度フリーなボールホルダー=スペースの活用)を作り出し、そこから、次々と勝負ドリブルやスルーパスを繰り出していくのです。そしてドイツ守備ブロックが振り回されつづける。そりゃそうだ。何せ、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)のプレーを効果的に「抑制」できていないのだから・・

 特に前半は、ホントにフラストレーションが溜まりました。

 それでも、フリングスが復帰してきた後半は(ロルフェスに代わって登場)ドイツ代表のサッカーが好転する気配を見せはじめるのですよ。サスガにフリングス。いま何が必要かをしっかりと理解している。率先して汗かきのチェイス&チェックや忠実なカバーリング、はたまた必殺のスライディングからのボール奪取アタックを敢行しつづけるのです。

 そしてドイツの守備エネルギーが、徐々に回復基調に乗っていったというわけです。またフリングスは、攻撃でも、しっかりと後方からの(シンプルなタイミングの)組み立て役もこなす。やはり彼は、ドイツ代表にとって欠かせない存在だ。

 そしてゲームが、ダイナミックに均衡しはじめる。

 前半は完全にトルコがゲームの流れを牛耳っていたけれど、後半は、かなり拮抗してきたのです。それは、守備コンテンツが互角になってきたからに他ならないわけだけれど、攻撃の実質的な内容では、相変わらずトルコが微妙に主導権を握っているという情勢には大きな変化はありません。

 トルコは、個のチカラを、しっかりと組織ベースで表現できているのです。シンプルに人とボールを動かしながら、相手守備の「薄い部分」へとスマートにボールを運び、そこからドリブル勝負や鋭いショート・コンビネーションを仕掛けていくトルコ。クロスボールにしても、ドイツが優位な「高さ」の逆を取るような、鋭いグランダークロスやファーポストスペース狙いなどを魅せつづけます。

 それに対し、基本的にはカウンターからしか良いチャンスを作り出せないドイツ。それには、ミヒャエル・バラックが完璧にマークされていたこともあります。彼がマークされ、グラウンドから消し去られてしまったときのドイツは、うまく攻撃を組み立てられないという弱点を露呈してしまう。

 まあ、その代わりに、もっともっと、シュヴァインシュタイガーやポドルスキー、ラームといった若手が仕掛けのイニシアチブを握らなければならないわけだけれど、この試合には、その視点で、ドイツ代表の「微妙な変化」が見えてきたとい意味合いもありそう。何せ、ゴールを奪った主役は、まさに彼ら若手だったわけだからネ。

 同点ゴールは、ポドルスキーから(最後の瞬間にニアポストスペースへ飛び込んだ)シュヴァインシュタイガーがキッチリと決めたものだったし、逆転ゴールは、ラームの正確なクロスからクローゼが決め、決勝ゴールは、そのラームが、ヒッツェルシュペルガーとの「大きなワンツー」から抜け出して決めたモノだったからネ。

 ところでラーム。この試合では、功罪が相半ばしていた。守備ではトルコ選手の上手いドリブルに翻弄されるシーンが目立っていたけれど(2-2の同点ゴールを決められたシーンでも彼が置き去りにされた守備のミスが原因だった!)前述したように、攻撃ではヒーローになった。まあ、守備でチンチンにやられたことが、彼の攻撃プレーに火を点けたと言えるかもしれないネ。

 ドイツは、良いゲームと悪いゲームを積み重ねることで、チームが成長をつづけている(≒選手の組み合わせがうまく収斂されてきている!?)ように感じます。決勝の先発メンバーは、後半立ち上がりの構成になるに違いありません。たしかに、まだまだ鈍重だったとはいえ、内容的にも「ウイニング・チーム」と呼べるメンバーだったからネ。

 最終ラインは、フリードリッヒ、メッツェルダー、メルテザッカー、そしてラーム。守備的ハーフコンビは、フリングスとヒッツルシュペルガー。その前の三人は、ポドルスキー、バラック、シュヴァインシュタイガー。そしてワントップを張るのは、言わずと知れた(スピードと高さを誇る)クローゼ。まあ個人的には、ハンブルクのトロホフスキーを観たいという願望はあるのですがネ・・。

 それにしても、サッカーは難しい。ドイツにしても、前半の立ち上がりのゲーム展開を体感しながら、「こりゃマズい・・トルコは、ガンガン仕掛けてきている・・おれ達もベースを上げていかなきゃ・・」と思っていたはず。でも結局は、ペースアップすることがままならなかった。要は(前述したように)中盤ディフェンスの機能性をアップさせられなかったということです。

 それには、バラックの不調(ガチガチのマークに遭っていたとはいえ!?)という、リーダーシップの機能不全もあったでしょう。だからこそ、フリングスなのですよ。中盤の前方と後方に、イメージの違う「二つのリーダーシップ」を持つドイツ。それこそが、2006ドイツワールドカップでの素晴らしい成果の絶対的ベースだったのです。

 さて、決勝が楽しみになってきた。ドイツ代表には、是非、内容でも誇れる優勝を目指して欲しいモノです。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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