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2008_「ユーロ08」・・重厚であり、ある意味ダイナミックでもあった「緊迫マッチ」・・イタリア対スペイン(0-0、PK2-4)・・(2008年6月23日、月曜日)

イタリアにとっては得意な流れだよな〜〜・・でもこの試合じゃ、蜂の一刺しを繰り出していく絶対的な主役が不在だしな〜〜・・

 スペインがゲームのイニシアチブを握る展開を観ながら、そんなことを考えていました。要は、イタリアの絶対的なゲーム&チャンス(&危険なカウンターの)演出家であるピルロが出場停止であるという事実が、どのようなグラウンド上の現象を引き出すのかというポイントに集中していたということです。

 守備を固め、相手の守備ブロック全体を「前へ誘い出し」ながら、狡猾に、そのウラを狙う。要は、薄くなったスペイン守備ブロックのスペースを、ボール奪取からの「一発テンポアップ&直線的カウンター」で攻略するというイメージを虎視眈々と温めるイタリアという構図。さて・・

 ゲームは、本当に重苦しい展開で推移する。たしかにスペインが「より長く」ボールを保持してはいるけれど、ゲームをコントロールしているというワケじゃ決してない。逆に、イタリアにコントロールされているとも言えそうな展開なのですよ。

 そして、そんな展開から、たまに、フェルナンド・トーレスがドリブル突破にトライしたり、一発の「抜け出し」に、後方からのスルーパスを要求したり。もちろん、そんな「既定」のチャレンジなどは、イタリア守備ブロックにとってまったく怖くない。すぐに二重のカバーリング網がチャンスの芽を摘んでしまうのです。

 でもゲームが進んでいくなかで、スペインの「個のドリブルシュート勝負」に徐々に勢いが乗りはじめるのです。そしてフェルナンド・トーレスやダビド・ビジャの中距離シュートが危険な臭いを放つようになっていく。フムフム・・

 対するイタリアも、全体的に押し上げる「組み立てプロセス」では、決してリスクを冒すことなく、横パスをつなぎながら、あくまでもバランスを崩さずに押し上げ、最後は、アバウトなクロスやスルーパストライなどで最終勝負を仕掛けたりする。

 たまにクロスボールが、後方から飛び込んできた味方に合ったり、ワントップのトーニのアタマに合ったりする。また、スペインのミスやイタリアのインターセプト狙いがツボにはまって高い位置でボールを奪い返せたケースで危険な一発カウンターが繰り出されたりする。そんなときは「ハッ」とはさせられるけれど、結局は、すぐにまた重苦しい「均衡」状態に戻っていくのです。フムフム・・

 もちろん「こうなったら」セットプレーが注目だよね。最初の惜しいチャンスは、前半22分のスペインのフリーキックシーン。ダビド・ビジャが、イタリアの「壁」が飛び上がることを想定し、鋭い弾道のグラウンダーシュートを放った。でもイタリアの天才GKブッフォンは、しっかりとイメージしていたから、問題なくキャッチできた。フムフム・・

 両チームともに、まさに「ワンチャンス」を狙っているのですよ。そこでは「臭いを嗅ぎ分ける能力」がモノを言う。要は、「ここぞ!」というチャンスがめぐってくるかもしれない「芽」の段階で、しっかりと勝負所に顔を出していけるかどうかということ。

 日本で行われた「2010予選」の対オマーン戦で日本が挙げた二点目シーン。最後尾のトゥーリオが「スルスル」と最前線まで飛び出していったわけですが(そして中村俊輔からのスーパーロング縦パスをヘディングで正角に落とし、それを大久保がダイレクトで決めた!)、そこでのトゥーリオには「何かが匂った」ということなんだろうね。

 まあ、単純に、自分の置かれた状況が、自然と彼を前へ「押し出した」だけだったのかもしれないけれど・・。また、1996年のアトランタオリンピック。そのブラジル戦で決勝ゴールを挙げた伊東輝悦にしても、何かが起きる予感があった(何かが匂った)と言っていたらしい。

 世界トップネーションが激突した、これ以上ないというほど緊迫した「拮抗状態」だからこそ、そんな「何かの臭い」を嗅ぎ分けるチカラがモノを言う。後半15分にイタリアが作り出した絶対的チャンスも、そんなシーンだったのかもしれない。

 左サイドをカッサーノがドリブルで上がり、スペイン守備の重鎮プジョルと対峙する。そこでプジョルのプレッシャーをかわしたカッサーノが、中央に上がってきたデ・ロッシへの横パスを出したのだけれど(その後デ・ロッシが中距離シュートを放つ!)その状況で、既にスペインゴール前ゾーンには3人のイタリア人選手が入り込んでいたのですよ。

 要は、カッサーノがドリブルで持ち上がっていた状況で、ワントップのトーニだけではなく、その後方から二人のイタリア人選手がスペインゴール前ゾーンまで入り込んできていたということです。

 また、デ・ロッシのシュートが、スペイン人選手に当たってはね返った瞬間では、その人数が(カッサーノも含めて)五人にまで膨れ上がっていました。そして何度かのボールをめぐる「ストラグル」の後、交替出場したばかりのカモラネージが決定的なシュートを放つのです。そのとき、スペインの(これまた天才GK)カシージャスは、ゴールマウスを飛び出して「ストラグル」に参加していたけれど、最後の瞬間にゴールマウスに戻り、カモラネージの決定的シュートを足ではじき出す。フムフム・・フ〜〜・・

 それは、まさに「イタリアのツボ」とも呼べそうなワンチャンスでした。どうしてイタリアのチャンスを取り上げたかって? それは、試合全体を見渡せば、やはりスペインに分があったからです。シュート数ではスペインが完全にイタリアを凌駕していたからです。あっと・・。シュート数だけじゃなく、ゴールチャンスの量と質という視点でも、スペインに軍配が上がる。でも「勝負の流れ」という視点では、イタリアの数少ないチャンスの内容も、まさに「勝利に値する」ものだったことも確かな事実だったのですよ。

 結局スペインが、この「激烈な」心理的消耗戦に勝利を収めた。それは全体的なゲーム内容(戦術)ロジックからすれば「正当」なものだったかもしれない。ただ「サッカー的な勝負の綾」という視点からすれば、また違った見方もできるということです。

 それにしても、本当に面白かった。眠気を吹き飛ばされ、最後の最後まで、ジッと縮こまってテレビ画面を食い入るように見つめていましたよ。これで準決勝は、ロシア対スペインという予選D組の開幕試合の再現ということになった。フ〜〜・・

 あっと・・ところでPK戦。そこでの主役は、何といっても「二人の天才GK」だったよね。スペインのカシージャスと、イタリアのブッフォン。高い確率で「正しく」反応し、そしてドラマチックにシュートを阻止する。本当に絵になる二人だった。

 ちょっと寝不足でした。これで一息入れられる。フ〜〜

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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