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2008_CWC_決勝・・堪能しました、マンチェスター・ユナイテッド・・(マンUvsキト, 1-0)・・(2008年12月21日、日曜日)

「前半のマンチェスター・ユナイテッドは、素晴らしいチャンスを繰りかえし作り出した・・でも決められない・・後半も貴方のチームがゲームを支配している状況は変わらなかったけれど、相変わらずゴールを奪えない・・そんな重苦しい展開のなかで、ビディッチが退場になるという事件が起きた・・そのとき私には、強く、良いサッカーを展開している方のチームが、相手の一発カウンターに沈んでしまうという神様のドラマがはじまったように感じられたのだが、ファーガソン監督の脳裏には、そんなネガティブなストーリーは沸いてこなかったでしょうか・・」

 そんな質問をしてみた。表情をまったく変えないファーガソン監督。そして、ネガティブストーリーのイメージが湧いたかどうかという私が聞きたかった質問は完全に無視し、こんなニュアンスのコメントを出してくれた。

 「忍耐強くプレーすることで失点をしなければ、絶対にゴールを奪うチャンスが訪れると確信していた(まあ都合よく解釈すれば、サー・ファーガソンは、神様のドラマなどはまったく考えなかったということですね)・・そこでは、ルーニーやクリスティアーノ・ロナウドが何かをやってくれると思っていたんだ・・」

 わたしの目をしっかり見ながら、そう語りかけるファーガソン監督。もちろん、指揮官としては当たり前のストイックな態度だけれど、ちょっとはコメントに「遊び」があってもいいんじゃないですかネ。神様ドラマのスクリプトを書いているのは、彼のゴーストライターであるオレなんだぜ・・とかサ・・あははっ。

 でもこのやり取りをきっかけに、ファーガソン監督のコメントから、マンチェスター・ユナイテッドが展開したスーパーサッカーの「バックボーンの一端」が垣間見えるようになっていったのですよ。サー・ファーガソンが、別の質問に対して、こんなニュアンスのコメントを出したのです。

 「クリスティアーノ・ロナウドを最前線のセンタートップに置いたのは、ルーニーとパク・チソンをサイドで(中盤で)仕事させたかったからだ・・(パク・チソンは当然として!?)ルーニーには、中盤でのディフェンスでも大いに期待できるんだよ・・だから(守備に期待できない!?)クリスティアーノ・ロナウドが(必然的に!?)ワントップになったというわけだ・・」

 やはりファーガソン監督も、天才の集合体であるからこそ、チーム作りの絶対的ベースとして、守備意識(ハードワーク)というファクターを重視している。もちろん選手たちに、ライバルとの競争を勝ち抜くための重要な評価基準として意識させているということです。

 テベスにしてもルーニーにしても、パク・チソンにしても、守備でも、しっかりと汗かきが出来るからね。それに対してクリスティアーノ・ロナウドの場合は、ある程度は「守備を免除」されているということなんだろうね。

 そんな「例外」を作ってもチームのモラルが地に落ちない背景には、クリスティアーノ・ロナウドの「実効あるプレー内容」がチームメイトを納得させていることと、サー・ファーガソンの巧妙な心理マネージメントがあるはずです。

 とにかく、優れた守備意識に支えられているからこそ、マンUの(攻撃での)組織プレーも光り輝きつづけるということが言いたかった筆者なのですよ。

 彼らの組織的なパスサッカーでは、スキルフルなトラップ&コントロールと、正確で素早く強いパスもさることながら(彼らの局面でのボール扱いの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいモノがある!)ボールがないところでの忠実な「人の動き」もものすごく大事な要素だと感じますよ。三人目、四人目の動きと、最終勝負への実効ある「絡み」・・

 とにかく彼らの場合は、パス&ムーブが徹底しているよね。パスを出したら、少しでもいいから動く。もちろん、それがシュートにつながるチャンスシーンだったら、「ワンのパス」を出し、間髪を入れずにタテのスペースへ全力ダッシュをスタートする。そして「そこ」へ、正確な「ツーのパス」が送り込まれるという具合です。そんな「動き」のなかに、三人目や四人目のフリーランニングが絡み、それらが「ダイレクトパス交換」によってリンクされる。痛快そのものじゃありませんか、彼らの組織パスプレーは。

 まさに、人とボールが有機的に連鎖してよく動く「超・組織プレー」ってな表現がピタリとハマる。だからこそ、ものすごく効果的にスペースを活用できる。とにかく、こんなにスムーズで力強く、迫力のあるスペース攻略プロセスを観たのは久しぶりでした。

 もちろん彼らは、そんな組織プレーの「あちらこちら」に世界トップに君臨する個人勝負プレーも散りばめてしまう。

 ・・鋭いダイレクトパスをクルクルと回しながら、相手守備の薄いゾーンでボールをもったクリスティアーノ・ロナウドが、間髪を入れずに勝負ドリブルを仕掛けていく・・それに対応しようとカバーリングも含めて何人もの相手守備選手が寄せるけれど、そんな守備の集中をあざ笑うかのように、クリスティアーノ・ロナウドとルーニーが、チョン・チョンと軽くダイレクトパスを交換し、一瞬のうちに別のゾーンへボールを運んでしまう・・等々

 そんな、組織と個が最高のバランスを魅せるコンビネーションだけじゃなく、後方からの(主にキャリックからの)一発・仕掛けロングパスも効果的で、魅力的。例えば、こんな感じ・・

 ・・後方でパス交換から最後にキャリックがボールをもつ・・その直前のタイミングで、最前線のウェイン・ルーニーが、サイドのスペースへ向けて全力ダッシュをスタートする・・キャリックは、ルーニーが狙うゾーンへ向けて、正確なロングパスを送り込む・・ルーニーは、相手マークを引き連れているけれど、そんなプレッシャーなど、どこ吹く風・・夢のようなテクニックで、ピタリとボールを止め、マークする相手を挑発するように、ツン、ツンとボールをさらしながら、最後は、回り込んできたロナウドへのスルーパスを決めてしまう・・

 それにしてもルーニーは足が速い。相手のディフェンダーも遅くはないけれど、一瞬のスタートダッシュでルーニーが身体一つ抜け出してしまう。すごい迫力だね、ホントに。

 とにかく、皆さん観られた通り、内容的には、順当という表現がピタリと当てはまる、マンチェスター・ユナイテッドの勝利ゲームでした。まあ、前半のチャンスをしっかりと決めていれば、まさに楽勝・・ということになったはずだけれどネ。

 ということで、最後に「決定力」というテーマ。

 あれだけのチャンスを決め切れなかったマンチェスター・ユナイテッドだから・・ということでピックアップしたテーマだけれど、そこでハッと気が付いた。それは日本で使われる「決定力」とは、まったく性格を異にする・・。

 日本じゃ、責任感をもって積極的にシュートへチャレンジしていく姿勢が十分でないだけではなく、シュートを打つにしても、確信レベルが十分ではないことで、枠に飛ばなかったり、シュートミスになってしまったりする。

 それに対し、この試合でのマンチェスター・ユナイテッドのチャンスでは、クリスティアーノ・ロナウドやウェイン・ルーニー、はたまたパク・チソンやテベス等が放ったシュートのほとんどはゴールに飛んでいた(良いコースへ飛んだ枠内シュート!)。それが、相手GKのスーパーセーブで、ことごとく防がれてしまったのです。

 またキトにしても、後半の最後の時間帯には、二度ほど、惜しい「枠内シュート」をブチかましたっけ。そしてそれを、マンUのGKファン・デルサールが、横っ飛びのスーパーセービングでボールをはじき出したことで事なきを得たんだよな。素晴らしくエキサイティングな攻防。まさに、シュートを打つ方の「決定力」と、受けて立つGKの「防御力」とのギリギリのせめぎ合い。フムフム・・

 要は、世界トップクラスのサッカーでは、質の高いシュートと相手GKセービングとのハイレベルなせめぎ合いこそが「決定力」というテーマでディスカッションされるということです。それに対して日本では、実際のシュートまで行ってないのに(!?)チャンスになりそうな仕掛けプロセスでも(シュートさえ打てなかったにもかかわらず!?)決定力というテーマが議論の俎上に上るケースが多いということです。

 どうも思考が停止してきている。もう限界だ。ということで今日はここまで。ビデオを見直し、新しく気付いたポイントが出てきたら、また書くことにします。

 それでは、次は天皇杯ですね。例によって、元旦の決勝戦は、ラジオ文化放送で解説します。では、オヤスミナサイ・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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