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2008_CWC・・ガンバの攻撃サッカーが、ゲームを有意義なエキサイティングマッチへと昇華させた!・・(マンUvsガンバ, 5-3)・・(2008年12月18日、木曜日)

「この記者会見ルームへ来るまでに、何人もの関係者から、面白いゲームだったと言われたんですよ・・でも、ちっとも嬉しくなかったし、面白いっちゅうニュアンスとはちょっと違うとも思いましたね・・」

 もちろんホンネでは、「なかなかよくチャレンジできたじゃないか・・」とは思っていたはずだけれど、やはり日本を代表するクラブの指揮官としては、負けてしまった結果に対しては、それなりの課題の抽出と分析をしなければならかったということだね。

 「ガンバのサッカー」を、世界に対して、見事にお披露目した西野朗監督。わたしは心の底から感謝していましたよ。一つは、エキサイティングなサッカーに対して。そしてもう一つが、日本サッカーを、世界にポジティブにアピールしてくれたことに対して。

 わたしは、今日のガンバが、長いサッカーの歴史のなかで培われ浸透していった一つの発想である『リスクチャレンジのないところに進歩もない・・』というコンセプトを見事に体現してくれたと思っています。わたしは彼らが、この試合のなかで大きな「ブレイクスルー(何らかの脱皮)」を果たしたに違いないと思っているのです。そして、そんなガンバを誇りにさえ感じていました。いや・・ホントに。

 そして西野監督の口からは、ホンネがどんどん迸(ほとばし)る。

 「遠藤が中心になって、しっかりとボールを動かしながら攻めることができた・・(受け身に)守りに入らず(攻守にわたって)しっかりと積極的に仕掛けていけていたと思う・・我々は、決して怖がったりせず、ガンバ本来のプレッシングサッカーを仕掛けていけたと思っている・・ポゼッションも率に大きな差があったわけじゃないし・・」

 そう・・このゲームでもっとも重要だったテーマは、ガンバが、守りの意識にとらわれ過ぎるのではなく、彼ら本来の、攻撃的なプレッシング&(人とボールがよく動く)パスサッカーを、臆することなく(そう・・この吹っ切れた心理というのも大事なポイント!)最後まで仕掛けつづけたということです。

 だからこそガンバは、何度も決定的なチャンスを作り出すことが出来た・・だからこそ(マンUを、心底本気になるまで挑発できたことで!?)ゲームがエキサイティングに発展していった・・だからこそガンバは、これ以上ないほどの、自信と確信の心理ベースになるような「イメージ資産」を手に入れることが出来た・・だからこそ・・

 いや、ホントに素晴らしかった。もちろんガンバは、様々なタイプの「カウンターパンチ」も浴びたよ。

 前半では、何本も繰り出された、鋭く正確な、一発カウンターのロングタテパスや、ベストタイミングのサイドチェンジパス。要は、マンUが、組織的にボールを動かすなかで、最前線で(相手守備のカバーリング人数が足りない!)スペースへ入り込んだ「天才たち」に、ドリブル勝負を仕掛けていき易いような状況を作り出しつづけたということです。そして、クリスティアーノ・ロナウドが、テベスが、はたまたナニや(彼と左サイドでコンビを組んだ左サイドバックの)エブラが、薄くなったガンバの守備ゾーンをドリブルで切り裂いていく・・。

 また後半には、山崎の、「2-1」となる追い掛けゴールが決まった直後に、「これがマンUの底力か〜〜」と感嘆させられてしまう3連続ゴールを叩き込まれてしまうのですよ。交替出場したルーニーの速さとしたたかさ、エブラの「爆発的なスピードドリブル」からのクロス、ベテランの味を感じさせるボールキープから見事なラストパスをルーニーへつないだギグス・・などなど。

 それ以外にも、同じように、左サイドの(ナニとエブラ)のコンビが魅せた、まさに爆発的という表現がピタリと当てはまる「ものすごいスピード」のコンビネーション&突破ドリブルもあった。それは、マンUにとって完璧な追加ゴールチャンスだった。

 そのスピーディーな仕掛けシーンを見ながら、「こりゃ、誰にも止められないよナ・・」などと、ちょっとサジを投げ出したくなった。そして「このまま5-1でゲームが終わってしまったら、リスクチャレンジこそ発展の唯一の糧・・なんてこと書いても、説得力に欠けるだろうな・・」などと思いはじめてしまった。

 それまでは、ガンバが魅せつづけた「勇気ある」ダイナミックチャレンジサッカーをコアのテーマにしようと思っていたのだけれど、マンUの底力で横っ面を張り飛ばされたことで、その気が萎えはじめてしまったのですよ。

 でも、その直後に、遠藤が「コロコロPK」を決め、ルーカスからのスルーパスを受けた橋本英郎が、見事なダイレクトシュートを決めるのです。そして、今回のコラムのストーリーがやっと固まったという次第でした。

 まあ、その後も、二度ほど、いまのガンバでは対応が不可能に近いようなスーパーな仕掛けをブチかまされはしたけれどネ。西野監督も、セットプレーだけではなく、シンプルなリズムの応酬になった場合にも、(今のガンバでは)対応できないような「どうしようもない部分」が見え隠れしてくると吐露していたっけ。

 ガンバについては、アレックス・ファーガソン監督も絶賛していた。もちろん外交辞令もあっただろうし、マンUの「気合いがちょっと抜けた」プレーに対する怒りも、そこに内包されていたんだろうけれどね。でも、部分的にはホンネだったのは確かなこと。それは、皆さんが観られたとおりです。だからこそ、ガンバに乾杯!!

 ところで、マンチェスター・ユナイテッドの強さの本質というテーマ。さて・・?

 この試合で、彼ら本来の「破壊的なコンビネーション」が出てきたのは、テベスに代わってウェイン・ルーニーが、スコールズに代わってフレッチャーが出てきてからだったね。それまでは、どうも個人勝負ばかりが目立っていた。コンビネーションのプロセスでタイミングが合わずにミスパスになったり(本当に無駄な)空走りになったり、クロスが(中の選手が寄らなかったことで)ガンバ選手にカットされたり・・とかネ。

 それでも、交替したフレッチャーとルーニーによって、最前線と後方が一つのユニットとして機能するような「組織的コンビネーションサポート」が抜群にスムーズに機能するようになったと思うのです。

 そのことで、左サイドで抜群の存在感を発揮しつづけていたナニ&エブラのコンビネーションの危険度が倍加したり、クリスティアーノ・ロナウドの勝負ドリブルやギグスの「枯れた(もちろん効果的な)チャンスメイク」が何倍にも光り輝くようになったと思うのですよ。

 そんな、マンU必殺の仕掛けを見ながら、やっぱり、組織プレーを絶対的なベースに、そこへ効果的な個人勝負プレーを散りばめていくという発想を深く浸透させることがチーム作りでのキーポイントなんだよな・・なんて思い返していた。まあ、いつも書いているように、組織プレーと個人勝負プレーのハイレベルなバランス。

 そこでサー・ファーガソン監督に聞いてみた。「マンUの強さは、天才たちが、しっかりと守備をやり、ボールのないところでもしっかりと走ることで支えられていると思う・・そのことについてコメントを頂けないか?」と聞いたら、「それは、毎日のハードワークトレーニングの積み重ねの成果だ・・」と簡単に受け流されてしまった。まあ私は、彼が「そういうことだ・・」と答えてくれたと解釈していましたがネ。

 ヘネス・ヴァイスヴァイラーにしても、リヌス・ミケルスにしても、異口同音に、良いコーチは、天才にハードワークさせられるものなんだよ・・と言っていたっけ。

 とにかく、あれだけの才能連中(個人事業主たち)が、攻守にわたって、あれだけのハードワークをこなしつづけるのだからネ。もちろん、ポジションごとのハードなライバル環境も整備されているだろうし、そこでは心理療法士も付いて心理的なトリートメントが行われていることでしょう。でも、彼らの目標イメージは、常に、チームが成果を挙げるためという方向を向いていなければならないわけだから、そのマネージメントは簡単じゃない。

 そんな部分でも、様々な思惑を超えてチームを一つにまとめられるだけの強烈なパワーを秘めた『唯一のベクトル』として「クラブの頂点」に君臨するサー・ファーガソン監督への賞賛を惜しまない筆者なのです。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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