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2007__「J2」・・両チームについて、色々とテーマをピックアップしました・・(ヴェルディ対サガン鳥栖、3-1)・・(2007年7月1日、土曜日)

久しぶりに「J2」もレポートすることにしました。何せ、ヴェルディの監督はラモス瑠偉だし、サガン鳥栖の監督は岸野靖之ですからね。二人とも、わたしが読売サッカークラブでトップチームのコーチを務めていた当時の選手だったのです。要は、互いに「恥部」を共有する戦友といったところ。

 ということで、ちょっと複雑な心境でもありました。プロにしてはナイーブに過ぎると言われそうだけれど、両人ともに頑張って欲しいという情緒的な心の動きがあることを感じていたのですよ。でも、内容からすれば順当なヴェルディの勝利でゲームの幕が下りたことで、まあ結果としてはロジカルに納得できたけれどね。

 サガン鳥栖の岸野監督が、記者会見でこんなことを言っていました。「前半のサッカー内容は悪すぎた・・パスミスが目立っただけではなく、安全プレーばかりだった・・選手たちはビビッていたということなのかもしれない・・もっとチャレンジしていかなければならないのに・・とはいっても、(その部分を修正できた)後半はダイナミックなサッカーを展開できたと思う・・ただ全体的には、まだまだトライする姿勢が弱い・・それではサガン鳥栖は決して強くなれない・・これからも、そのテーマを選手たちに自覚させることでチームとして発展をつづけたい・・」。

 岸野監督のコメントでは、しきりに「チャレンジ」というキーワードが飛び出していた。それほど、選手たちが安全プレーに「逃げ込んだ」ことに我慢ならなかったということなんだろうね。それでも、彼が言うように、リードされた後半はフッ切れた攻撃サッカーができていましたよね。ただし、昨日のコラムでも書いたように、様々な意味を内包する「バランス感覚」という視点では、本物の中盤のリーダーに欠けていたこともたしかな事実でした(だからヴェルディに、一発必中のカウンターチャンスを与えてしまった!)。

 私は、岸野さんは(まあ自分でも言っていたけれど)もっとヴェルディのディエゴとフッキをガチガチにマークしなければならなかったと思っていました(特別なゲーム戦術で試合に臨むべきだった!)。それも、まったくボールに触ることができないくらいに徹底したガチガチのマンマーク。この二人さえ「消し去って」しまえば、ヴェルディは、物理的にも心理的にも「死に体」になってしまうはずだからね。

 立ち上がりの15分くらいでも彼らを消し去れたら、確実にヴェルディはペースを乱し、そこから容易には立ち直れなかったに違いないと思うのですよ。要は、(足が止まってしまう)心理的な悪魔のサイクルに陥れるということ。でも結局は、そこまで「徹底」できていなかったことで、ヴェルディにペースを握られてしまったというわけです。ちょっと残念ではありました。

 私が言いたかったことは、マンマークで相手の「サッカーイメージ」を乱すことで、自分たちの攻撃が大きく活性化されるというサッカーの(心理的)メカニズムのことです。マンマークすることは、決して守備的なサッカーをするという意味ではなく、むしろその逆で、攻撃的なサッカーリズムを確立するために、まず徹底ディフェンスから入るという発想なのです。オシムさんも含め、世界中の優秀なコーチは、徹底マンマーカーに対して、ボールを奪い返したら、まず自分がシュートへ行くことをイメージしろ!」なんていう指示を出すのですよ。

 もちろん途中で変なカタチでボールを失わないことが前提だけれど、ガチガチのマンマーカーが、ビックリするようなビッグチャンスに恵まれるというケースは本当に多いのです。それこそが、サッカーでの隠された「シークレット・メカニズム」。古いハナシになるけれど、1974年ドイツワールドカップ決勝で、天才クライフを徹底マンマークしたベルティ・フォクツが、二度もフリーシュートチャンスを得たことはあまり知られていないよね。もちろん、彼のマークを嫌ったクライフが「下がってボールを受けようとした」ことで、そこでボールを奪ったフォクツにビックリするようなチャンスが巡ってきたというわけです。

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 さて次はヴェルディ。シーズン立ち上がりは抜群のスタートダッシュを魅せたけれど、その後は勢いが減退し、一時はラモス監督の更迭話が飛び交うところまで低迷してしまった。それが、ここにきて再び上昇機運に乗りはじめました。正直ホッとしていた湯浅です。ここまできたら、もっと吹っ切れた采配を振るえよカリオカ!ってな具合。

 ヴェルディが取り組まなければならないテーマのうち、ここでは、代表的なところを二つだけピックアップすることにしました。まず、最前線の「諸刃の剣」。もちろんディエゴとフッキのことです。

 前述したように、この二人がマンマークで「消し去られた」場合、ヴェルディは非常に厳しい闘いを強いられることになると思います。これまでも、何度かそんなゲーム展開を目撃しているしね(スタジアム観戦やテレビ観戦など、ある程度はヴェルディを追い掛けているつもりの湯浅です)。そのことについては、前述したとおりです。

 まあ私が言うまでもないことだけれど、そのことが原因で「心理的な悪魔のサイクル」に陥ったときこそが、彼らにとって、ものすごく貴重な学習機会なのです。そんな状況を想定して心の準備をしておくこと(厳しい状況を想定したイメージトレーニング!)には大いなる価値があるはずです。

 まず何といっても我慢、そして、我慢するなかでも積極的な仕掛け(リスクチャレンジ)の感覚を鋭くキープすることで針の穴を通すようなチャンスを狙いつづける集中力を高みで維持しつづけることです。簡単なことではありません。だからこそ、名波に代表される中盤のリーダーが重要な意味をもってくるのです。

 二つめのテーマは、その中盤のリーダーというテーマにも関わることなのですが、どんなタイプのボランチが必要なのかという視点。ラモス監督は、クリエイティブな「リンクマン」を熱望しているはずです。要は、本物の「ボランチ」。要は、自身が現役でプレーしていたときのイメージということです。

 守備でも(チェイス&チェックなどの汗かきも含め!)抜群の実効プレーができるし、攻撃でも、自分がセンターになってゲームメイクできる。要は、守備ブロックと前線を効果的に(クリエイティブに)つなぎ合わせることができる本物のリンクマン(ボランチ=チームのハンドル!)。

 でも、そんなプレーヤーはいないよ。攻撃ではいい仕事はするけれど、守備の実効レベルが低いとか(特に汗かきプレーができないとか・・)、逆に、守備はいいけれど、攻撃での創造性に欠けるとか・・。

 だからこそ、二人で組む中盤の底のプレーヤータイプをうまく組み合わせることが重要なテーマになってくると思うわけです。一人は汗かきタイプの守備的ハーフ。一人は、攻守のリンクマン(本物のボランチ)になれる創造性の高い選手。彼らを、うまく組み合わせ、チーム戦術的な「機能バランス」を高みで安定させるということです。

 この試合では、服部年宏が「守備的ハーフ」をこなし、大野敏隆がリンクマン的な役割をこなしていた。まあまあの「選手タイプの組み合わせ」だったと思っています。服部については、そこからサイドチェンジや「ロング・ラストパス」などの決定的仕掛けパスも期待できるからね。

 また「この二人」については、ディエゴとフッキが「消えてしまう状況」を想定したイメージトレーニングも重ねておかなければなりません。彼らは、我慢しながら鋭い仕掛けの感性を高みで維持し、そして、ディエゴとフッキに対して刺激を与えながら(心理的にサポートしながら)、彼らの攻撃マインドを活性化しつづけるという役割を担わなければならないのですよ。

 ギリギリまで追い詰められたラモス・ヴェルディ。だからこそ本物の強さを再発見できるはず。これからも、彼らの闘いをしっかりとフォローしていくつもりです。

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 さて私は、今週の木曜日(7月5日)から「アジアカップ」へ出かけます。まず、バンコクで開幕の二試合を観戦し(タイ、オーストラリア、イラク、オマーン)、7月9日の早朝にハノイへ飛んで「日本対カタール」を観戦するという立ち上がりスケジュール。

 そこでは、昨年のドイツワールドカップのように、「日記」的に毎日コラムをアップしようかなとも思っています。さて、どうなることやら・・。

 最後に、7月11日に、本当に久しぶりの書き下ろしを出版することになりました。その情報について「こちら」を参照してください。それでは、次はバンコクから・・。

 




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