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2008_高校サッカー準決勝・・監督さんたちの素晴らしいパーソナリティーを堪能しました・・(2008年1月6日、日曜日)

さて・・うまくまとめられるだろうか・・。

 第86回全国高校サッカー選手権大会の準決勝。両ゲームともに、個のチカラの単純総計プラスαというチーム総合力で明らかに格上のチームが決勝へ駒を進めました。流通経済大柏と藤枝東高校。決勝は、面白くなるゼ〜〜。

 両チームとも、互いのイメージが有機的に連鎖する組織ディフェンスと、人とボールがよく動く組織パスプレーをベースにしたハイレベルな攻撃で勝ち上がりました。もちろん彼らは、最終勝負シーンで、その存在意義をしっかりとアピールできる「優れた個のチカラ」も備えている。そんな「個の才能」が、攻守にわたって組織プレーにも精進しているからこそ、彼らが繰り出す「個の勝負」の実効レベルが高くなるということです。そこに、監督さんのウデを感じるわけだけれど、もちろん彼らにとっては、組織プレーにしても、個人プレーにしても、まだまだ課題が満載ということだろうけれどネ・・。

 ということで今回は、監督さんにスポットライトを当てたい。

 準決勝に残った4チームのなかでは、もっとも実質的なチーム総合力が充実していると思われる流通経済大柏の「本田裕一郎」監督。その柏に大敗はしたけれど、最後まで立派なプレー意志を高みで安定させつづけた津工業高校の「藤田一豊」監督。36年ぶりに決勝へ駒を進めた静岡県立藤枝東高校の「服部康雄」監督(彼が選手のとき以来のファイナル進出!)。そして、これまた最後まで粘り強く立派な闘いを魅せつづけてくれた高川学園の「白井三津雄」監督。

 四人とも、本当に素晴らしいパーソナリティーの持ち主です。えっ!? パーソナリティーの定義は何かって!? 難しいね。拙著(サッカー監督という仕事=新潮文庫)では「プロ選手達をチーム共通の目的・目標達成へ向けて最大限の力を発揮させることができる個性的な能力や人間的魅力」なんて書いたけれど・・。

 彼らは高校の先生だからね。ちょっとアレンジして、「選手たちに具体的な目標イメージを描写させ(目標イメージを与え)・・そこへ向けて進歩していくために、主体的に考え、リスクにチャレンジすることも含め、最大限の努力を惜しまないように(本当の意味での行動力が育つように)モティベートできる個性的な能力や人間的魅力」なんてことになるでしょうか。そこでは、主体的に考え、(リスクチャレンジも含め!=失敗を恐れず!)積極的に行動していくことが当たり前という心理環境を整備することが重要なテーマになります。

 またまた、ちょっと難しいハナシになりかけている。要は、先生方の記者会見での受け答え(発言内容だけではなく、抑揚も含むしゃべり方や表情の動き、はたまた目の表現コンテンツなどに代表される説得力!)に、素晴らしいパーソナリティーを感じていたということが言いたかったわけです。例えば、静岡県立藤枝東高校の「服部康雄」監督。

 「決勝で当たる流通経済大柏は強いチーム・・たしかに勝ちたいけれど、かといって姑息(こそく)なゲーム戦術を駆使したりすることは考えていない・・とにかく全力を出し切る正々堂々の闘いを挑んでいきたい・・」

 また、「いま監督は大事なキーワードをおっしゃいました・・静岡のレベルが下がったのではなく、全国のレベルが上がっていると・・そのもっとも重要なバックボーンは何だと思われますか?・・情報化とか、プロのJリーグが出来たとか、いろいろとあるとは思うのですが・・」という私の質問に対し、明快に、そして軽快に、「それは、熱く若い指導者が育っているからに他なりません・・私は、全国の大会に参加するたびに、そんな指導者の方々の情熱に触れ、頼もしく思ったものです・・」なんていう素晴らしいコメントを出してくれる。

 私は、その前にも、「確かに前半は素晴らしい出来だった・・チャンスも作り出した・・でもゴールは一点だけ・・後半は守る流れが多かった・・たしかに高川学園は、そう簡単にチャンスを作り出せなかったけれど、それでもサッカーだから交通事故的に失点を喰らう可能性は否定できない・・服部先生は、前半にチャンスを決められなかったことも含め、何かが起きてしまうかもしれないという心配はしなかったか?」なんていう質問を投げかけました。それに対して、「いや、試合の流れをしっかりと把握していたから、心配はしていなかった・・特に最後の10分間は、勝利を確信していた・・」と、これまた明快に、そして軽快に答えてくれました。いいね・・。

 また高川学園の白井三津雄先生のコメントも素晴らしいものだった。

 「我々は、多々良学園が民事更生法を申請した二年前に、まさにどん底を経験した・・もちろん選手たちも、自分たちが置かれている状況をしっかりと理解していた・・実は、彼らは、私がどうするのかを見ていたと思う・・当時、別の高校からのオファーもあったわけだから・・そんな状況で私は選手たちにこう言った・・オレは、最後の最後まで自分に与えられた責任を全うするってね・・そしてチームは(幸運なことに!?)高川学園へと変わり、そこで、どん底から皆で協力して這い上がった経験が、今回のベストフォー進出の礎(いしずえ)になったと思っている・・とはいっても、学校の理事長からは、白井君、ここからは勝ってナンボだよと言われた・・要は、学校の雰囲気が、ビジネスライクなモノへと変わったということ・・もちろん、それはそれでポジティブな面も多い・・」などなど。

 「流通経済大柏は、最後の数分間に、リラックスした選手たちが軽業師のようなプレーを魅せていた・・彼らの個人的な能力には素晴らしいモノがある・・本田先生は、そんな個の才能連中が、守備や組織プレーにも精進するように優れた指導力を発揮されたと思っているのだが・・」という私の質問に対して・・

 「私は、技術が絶対的なベースだと思っている・・ただし、技術だけでは、必ず行き詰まってしまうだろう・・私は、午前中のトレーニングでは、個人技だけをやらせ、逆に、午後のトレーニングでは、ワンタッチ(ダイレクト)のプレーをやらせるようにしている・・一方では個の技術を徹底してトレーニングし、もう一方では、ワンタッチプレーを徹底させる・・私は、ワンタッチ(ダイレクト)のプレーには、ホンモノの技術が必要だと思っている・・」

 要は、「個」と「組織」を、しっかりと並行してレベルアップさせているということ。素早く広い組織プレーを絶対的なベースに、そこへ個の才能プレーを効果的にミックスしていくという基本的な発想のことです。まさに、先制ゴールがそれでした。右サイドで素早くボールを動かし、最後は、逆サイドにポジションを取っていた大前へ正確なパスを送り込む。相手守備ブロックを引きつけ、薄くなった逆サイドへ決定的な展開をする。素晴らしい。もちろん大前は、相手が一人ということで、迷わずドリブル勝負を仕掛けてシュートを打ったというわけです(先制ゴール!!)。

 本田先生がつづけます。「試合前には、ミニゲームばかりやらせる・・そこでのテーマは、ワンタッチの多用・・ワンタッチプレーは難しい・・選手は、ボールが来る前に状況をしっかりと把握し、次のプレーのイメージを構築しておかなければならない・・そんな素早いワンタッチプレーのリズムを選手のアタマのなかに浸透させるのが良い準備だと思っている・・タッチ数が少ないサッカーを目指している・・理想型は、相手との体の接触がゼロのサッカーだ・・」。フムフム、素晴らしい。

 最後になりましたが、その流通経済大柏に大敗を喫した津工業高校の藤田監督。高校のシステムについて素晴らしくクリエイティブな主張を持っています。

 「高校生にとって大事なことは、出来る限り多く、勝負のかかった試合を経験するということだと思う・・そのためには、リーグ戦を組織するしかない・・一発トーナメントで負けたらオシマイというシステムはおかしい・・そのことについて、先生は良いアイデアをお持ちのように感じたが・・」という私の質問に対し、藤田先生が、真摯に答えてくれました。

 「我々の場合は、とにかく試合数が多すぎるんですよ・・帰ったら、まず新人戦が待っている・・それに今シーズンからはプリンスリーグにも参加できることになった・・夏の高校総体があるし、この正月大会もある・・それじゃ、選手がイソガシ過ぎる・・私も自分がバスを運転して試合にいくけれど、それにも限界がある・・このままでは、どこかの大会をキャンセルしなければとまで考える・・何とか、システムとして、選手たちが、良いリズムで継続的に勝負のゲームを経験できるように出来ないものか・・とはいってもウチも高体連に所属しているから・・一番良いのは、そこが主体になり、一つの県を、9つくらいの地域に分け、そこに三部制のリーグを組織するのがいいとは思うのだが・・要は、結果だけが大事なのではないという理解が広く行きわたることだ・・そのためにも、何度でもやり直すことができるリーグ制がいい・・」

 まさに、そういうことです。トーナメントでは、結果「だけ」をイメージしたサッカーにならざるを得ないからね。まあ、語り尽くされたテーマだけれど・・。

 それにしても、こんなに試合後の監督会見を楽しめたのは久しぶりだった。それもこれも、4人全員が、様々なタイプの「優れたパーソナリティー」を備えていたからに他なりません。本当にインプレッシブでした。

 最後になりましたが、会見後、そのことについて、隣に座っていたフリーライターの「安藤隆人」さんと話しました。彼は、知る人ぞ知る、高校&ユースサッカーのコア・エキスパートです。

 彼曰く。「湯浅さん・・たしかに彼らは素晴らしいパーソナリティーですが、それは彼らだけじゃありませんよ。県レベルでも、本当に多くのグッドコーチがいるのですよ。先ほど、藤枝東高校の服部康雄先生が言っていたように、日本には、熱気にあふれたヤングコーチが台頭してきているということなんでしょうね」

 本当に、高校やユースのコーチの方々と(もっと頻繁に)交流したいと思いはじめました。そういえば、かなり以前のことになるけれど、私の母校である神奈川県立湘南高校の教諭で、これまた素晴らしいパーソナリティーの持ち主である清水好郎さんとも「こんな対談」をしたっけ。そうか、清水さんからも色々と情報を仕入れよう・・。

 ところで前出のフリーライター、安藤隆人さんが、素晴らしい本を刊行されました。タイトルは「高校サッカー&Jユース(強豪・有力チーム徹底ガイド)」。内容的には、タイトルにあるテーマだけではなく、「多様化するユース世代のサッカーとその行方」とか「JFAアカデミー福島の育成システムを探る!」といった興味深いテーマもあります。是非ご一読アレ。

 その安藤さんが、こんなことも言っていた。「選手を型にはめるようなコーチングは愚の骨頂ですよね・・そんなトレーニングの形式や形骸化したテーマではなく、やはりコーチの柔軟なパーソナリティーこそが選手を発展させる最も重要なファクターだと思うんですよ・・高校やユースサッカーには、この四人だけじゃなく、まだまだ多くのグッドパーソナリティーがいますよ・・湯浅さんなら、いくらでもご紹介さしあげますから・・」

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載りました。そしてもう一つ。ホントに面白い「ブックナビ」というサイト。そのアドレスは「こちら」ですが、そこでは、ナビ担当の方と司会の女性との掛け合いを「聞くこと」が出来るのですよ。いま聞き終わったところ。ホント、楽しみました。余談でした。

 




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