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2007_天皇杯決勝・・アントラーズの完勝・・ということで、その完勝の意味をちょっとだけ掘り下げてみました・・(2008年1月1日、火曜日)

後半のサンフレッチェはゴールを奪いにくるだろう・・ただ、攻め上がって我々のゾーンに入ってきたら、逆にスペースがなくなってくることは分かっていた・・また人数をかけることで(攻守の、人数的、ポジショニングバランス的な)バランスを崩すはず・・

 ・・我々はそれを狙い、しっかりと我慢しながら着実にチャンスを作り出した・・たしかにサンフレッチェもチャンスは作り出したが、それはクロスからの(アバウトな!?)仕掛けだった・・それに対して我々の仕掛けは、危険なモノだった・・選手交代については、「我慢」がキーワードだった・・

 我慢か・・。後藤健生さんの質問に答える、鹿島オリヴェイラ監督のコメントを聞きながら、ナルホドと考え込んでいました。実はわたしも、ラジオ文化放送での解説で、「我慢」というキーワードを使っていたのです。でも、アントラーズに対してではなく、サンフレッチェに対して。

 それは、前半8分にアントラーズ内田篤人が夢のような先制ゴールを叩き込んだ後のサンフレッチェが取るべきプレー姿勢のことでした。あの時点で、サンフレッチェが同点ゴールを狙って押し上げていたら、逆にアントラーズの才能連中に効果的なカウンターをブチかまされて追加ゴールを奪われていたに違いないと思っていたのですよ(実際に、何度か、危険なカウンターを喰らった!)。

 だから私は、「ここは、ゲーム前にプランした戦術イメージ通りに、我慢してディフェンスブロックを開かず、数少ないチャンスを待って『爆発』するのがいい・・とにかく、この時点での(一点を追う)サンフレッチェのキーワードは我慢しかない・・」と主張したのです。

 実際のゲーム展開は「こんな」経過になった・・。失点した後、ちょっと気持ちが高まった(!?)サンフレッチェは、より積極的に人数を掛けて押し上げていった。もちろん「その現象」の背景には、先制ゴールを入れたアントラーズが、ちょっと「落ち着き気味」にプレーしはじめたこともありました。まあそれは、アントラーズの狡猾なワナというのではなく、自然な流れだったと考えるのが正解でしょう。

 ただ私は、そんなゲームの変容を見ながら心配してました。これじゃ、サンフレッチェがコテンパンにやられてしまう・・。でも驚いたことに、その後のサンフレッチェのプレー振りが、私の願い通りに、立ち上がりの「落ち着いた雰囲気」に戻っていったのです。まあそれには、再びアントラーズがゲームを支配しはじめたという背景があったのかもしれないね。

 そして後半・・。そこでは、たしかにオリヴェイラ監督のコメントは、事実を正しく反映していた。そこでのアントラーズ選手のプレーイメージは、サンフレッチェの攻撃をしっかりと受け止め、(ボール奪取の状況に応じた!)カウンターを繰り出していくというものだったからね。アントラーズ選手は、忍耐強くディフェンスを実行しながらも、常に「次の蜂の一刺し」を狙っていた。だからこそ、カウンターへの、三人目、四人目の参加に「勢い」が乗っていたということです。そしてそれも、彼らの「勝負強さ」の重要なファクターなのです。

 ということで、またまた勝負強さについて質問したのですが、今回は、ちょっと趣向を変えてみました。「たしかにアントラーズは勝ち続け、天皇杯までも手中に収めた・・それには、オリヴェイラ監督が先日の記者会見で言っていた継続性というバックボーンがあったと思う・・私は、その継続性のコアは、組織的なディフェンスにあったと思っている・・とにかくアントラーズは、素晴らしく組織的なディフェンスを魅せつづけていたと思う・・そこで質問だが・・アントラーズが残した連勝という成果については、二つの見方があると思っている・・一つは、相手をネジ伏せて勝ちきった連勝という見方・・もう一つは、負けなかったという見方・・私は、どちらかといったら後者のニュアンスの方が強いと思っている・・来シーズンは、相手をねじ伏せて連勝するようなサッカーを魅せてくれるだろうか?」

 それに対してオリヴェイラ監督は、次のように真摯にコメントしてくれました。感謝・・。

 負けなかったのは、(相手にスペースを与えないという意味で=チェイス&チェックと次のボール奪取勝負がうまく機能していたという意味で)守備が安定していたからに他ならない・・Jリーグには攻撃的なチームが多いが、それに対して、どのように闘っていくのか・・わたしは、そこでのプライオリティーとして守備の意識を高めることを徹底させた・・守備を安定させることの意味を選手にしっかりと理解させた・・そして、そんな落ち着いたゲームをつづければ、相手が錯覚を起こすようなケースが増えてくる・・おれ達がゲームを牛耳っているゾ!・・もっと攻め込めるゾ!・・そんな「錯覚」は、相手チームのバランスが崩れることを意味する・・それに対して、ボールを奪い返した後に、素早くカウンター仕掛けていくという発想だ・・

 ・・そこでは、守備への実効ある参加を要求しつづけた・・そして、守備に就いているときから、次の攻撃の準備をするという姿勢も徹底させた・・そんなプレーイメージの土台を築き上げるというのが私の仕事の骨子だったし、それこそが成功のベースになった継続性の本当の意味合いだった・・たしかに守備は、チーム全体のコンビネーションという意味で組織的なものだ・・最終ラインだけではなく、中盤、最前線も参加する組織的ディフェンスがうまく機能した・・

 そうだね・・アントラーズ攻撃のコンセプトは、例えば「バランス良く攻める」とか、「機を見るに敏的な仕掛け」とか、そんなところになるのだろうか。とにかく、守備をしているときから次の鋭い「蜂の一刺しカウンター」を狙っていたり、攻めの流れが相手ディフェンスブロックを振り回しはじめたら、そのチャンスを逃さずに何人もの選手がオーバーラップしていったり(勝負を懸けたリスクチャレンジ!)とか、最小のリスクで最大の効果を狙う(もちろんセットプレーも含めて!)というのがキーワードになるのかもしれないね。たしかに、それこそが「勝負強さ」のバックボーンではあるけれど・・。でも美しさや魅力という視点ではネ・・。

 とにかく来シーズンのオリヴェイラ監督には、もっと積極的に前へ仕掛けていくような積極サッカーを期待したいですね。あれほど優れた「守備意識」がバックボーンにあれば、もっとリスクにチャレンジしていけるはずだからね。

 サッカーは、基本的には、常に(主体的に)バランスを崩していかなければならないボールゲーム・・だからこそ、次の守備で素早く「バランスを回復させる」ための優れた「守備意識」が絶対的に重要なファクターになるっちゅうわけです。

 ということで・・皆さんにとって「Year 2008」が良い年になりますように。そして・・今年もよろしくお願いします。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「五刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載りました。

 




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