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2007_アジアカップ・・昨日のUAE戦についての補足(タメと爆発のメリハリ!)・・イビツァさんの「ブラーボ!」・・(2007年7月14日、土曜日)

鈴木啓太、中村憲剛、中村俊輔、そして遠藤ヤットによって構成される日本代表ミッドフィールドのダイナミック・カルテット。昨日は、そこから鈴木啓太を取り上げたけれど、もちろん他の三人も特筆のパフォーマンスを発揮していました。

 私が選手を評価するときは、もちろん総体的なプレー姿勢と内容に対する視点がベースです。サッカーは、ミスの積み重ねですからね。ミスをしない選手などいないからこそ、全体的な「プレー姿勢」と「プレー内容」、そしてケースバイケースで「結果」なども評価ファクターに据えるというわけです。もちろん局面でのミスの「内容」によっては(基本的なプレー姿勢がネガティブなど)、確実に批判の対象として取り上げなければならないのは言うまでもありませんがね・・。

 繰り返しになるけれど、チェイス&チェックが不十分だったり、ある瞬間だけ集中力が散漫になったことで相手へのマーキングが甘くなったり(もちろん、わざとマークの間合いを空けるというケースもあるけれど)、また、勇気をもってボール奪取アタックを仕掛けたけれど予測ミスで相手に抜き去られてしまったり、攻撃では、コントロールミスやパスミスなどで相手にボールを奪われたり・・。そんな、局面でのマイナス現象は、常に繰り返されるものなのです。サッカーはミスの積み重ね。だから、ミスばかりを重箱の隅を楊枝でほじくるように探したら、もちろんマイナス評価のオンパレードということになってしまうでしょ。それって、マスターベーション評論!? もちろんミスは減らさなければならないし、そのためにトレーニングを積むわけだけれど、サッカーは不確実な要素が満載されたボールゲームでもあるからネ。

 だからこそ私は、チームや選手の「発展・進化」に寄与するというポジティブな視点をもって「総体的・相対的」に評価するという基本的な姿勢で観戦しているつもりなのです。そこでは、プレーの絶対的バックボーンである意図と意志の内容(要は基本的なプレー姿勢!)に対する評価が絶対的なスタートラインであることは言うまでもありません。

 ちょっと難しい前提議論になってしまった。とにかく、その視点で「ダイナミック・カルテット」のプレー内容を観察すれば、守備においても、攻撃においても、それがホントに高い評価するに値するという私の意見にご賛同いただけるものと確信するのですよ。言葉を換えれば、こんな感じ・・。

 主体的に(守備の)仕事を探しつづけ、それを全力で実行していけるという高い守備意識が大前提になっているからこそ、相互の信頼関係が高揚しつづける・・そこには、互いに使い、使われるというメカニズムに対する深い理解もある・・だからこそ、「タメ」のイメージで素早くボールを動かしながら、「爆発」のチャンスとなったら、後ろ髪を引かれることなく(吹っ切れた心境で)攻撃の最終シーンへ全力で絡んでいける・・などなど。

 今日の昼頃、「スター・スポーツ」というチャンネルで昨日のゲーム(日本対UAE)を流していたので、もう一度、日本のプレーをしっかりと観察しました。もちろんミスはある。それでも、互いのカバーリングが素晴らしく機能しつづけている。また彼らは、たしかに「タメ」のイメージで効率的にボールを動かしながらチャンスの芽を探っている。そして勝負となったら、何らかのキッカケを合図に、人とボールが、まさに爆発的に動きはじめるのです。

 そんな、厳しい気候条件に適合した「メリハリサッカー」にもイビツァさんのウデを感じるわけだけれど、そこでの「ダイナミック・カルテット」の魅惑的な機能性には再び心を引かれていた筆者でした。

 鈴木啓太の忠実な「ベースメント(基盤)ディフェンス」は言うに及ばず、中村憲剛や遠藤ヤットが攻守にわたって展開する素晴らしい実効プレーにもアタマが下がる。特に、攻撃だけではなく、守備でのボール奪取勝負でも抜群の存在感を発揮しつづける中村憲剛のプレーは軽快です。これからは彼のことを「牛若丸」と呼ぶことにしましょう。どうですか、あの身体と軽快なプレーは、牛若丸のイメージにピッタリ合致するでしょ。それに対して、遠藤ヤット。彼には、クールな仕事人なんていうニックネームはいかが?

 そして中村俊輔。後半に魅せたスーパーな個人勝負についてはコメントの必要はないよね。ただ全体的にみた場合、ちょっと「個の才能を表現するプレー」に物足りなさも感じる。

 組織プレーを大前提にするイビツァさんのマインドを過度に意識している!? そうだね、そんな傾向があるのかもしれないよね。彼には、もっともっとスペースへ抜け出して(そこでパスを受け)個人勝負にもチャレンジしてもらいたいよね。

 イビツァさんがイメージする最終ターゲットは、組織コンビネーションによる(パスでの)シュートチャンスの演出と、(組織パスプレーがうまく機能しているからこその!)効果的な個人勝負チャレンジを、高いレベルでバランスさせることだからね。相手ディフェンダーの薄いゾーンでパスを受けた「日本の才能」が、しっかりと個人勝負にも挑んでいく。俊輔は、そのイメージリーダーになってもらいたい。

 いまの中村俊輔は、攻守にわたる素晴らしい組織プレーができている。だからこそ、その基盤に乗って、もっと積極的に個人勝負を仕掛けていって欲しいのですよ。いまの彼だったら、組織プレーと個人プレーが最高潮のバランスを魅せるはずです。

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 ちょっと長くなってしまうけれど、今日も、サブ組に対する課せられた厳しいトレーニングについても簡単に報告しておきましょう。テーマは、例によって爆発的な仕掛けスタートでの有機的なイメージ連鎖。仕掛けのトレーニングだけれど、そこでは「タメ」ではなく、爆発的なテンポアップだけをピックアップしたということです。

 最初は、攻撃が3人に対して守備側が2人。次が「4対3」。そして最後が、羽生が「フリーマン」になった「5対4」。つまり、オフェンス側がボールをもったときは「6人」で攻め、守備がボールを奪い返したら、守備チームは(裏切り者の羽生が守備側に荷担するから)5人で、ハーフウェイラインまでボールを運ぶという形式です。

 イビツァさんが、ジェスチャーをミックスしながら、攻撃側に対して、いかに相手守備ブロックのウラスペースを突いていくべきかといった具体的なイメージを与える・・前後に動くことは大前提だけれど、そこでは、常に相手ディフェンダーの視線を盗むというクレバーさも持ち合わせていなければならない・・そのために、動きを一瞬止めるような工夫も必要・・そしてディフェンダーが自分から目を外した瞬間に決定的スペースへ飛び出していく・・そこへパスが出なかったら、もちろんボールホルダーの責任・・また、サイドチェンジや縦方向のダイレクトパス交換など、常にパスのコースを状況に応じて変化させなければならない・・などなど、とにかく充実したトレーニングです。

 とはいっても、あまりうまく攻めが機能しない。そんな、ちょっとネガティブな雰囲気のなかで、コンビネーションプレーに鋭い視線を投げつづけるイビツァさん。彼は、「ブラーボ」という賞賛の言葉を投げかけられるタイミングを(成功プレーを)待ち望んでいるはず。そう、高低差の激しいイビツァさん独特のモティベーションテクニック。でも結局は、その言葉を発揮できず仕舞いでした(少なくとも、スタンドで観戦していた私の耳には聞こえてこなかった)。

 ちょっと残念だったけれど、イビツァさんのトレーニングには、常に何らかの発見があるから、これからもしっかりと観察し、気付いたところを(私のメモという意味も含めて)コラムで書くことにしますので・・。今日は疲れたからここまでということにします。ちょっと舌っ足らずのところもあった。ご容赦。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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