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2007_アジアカップ・・さて、オシム日本代表の「ブレイクスルー」が本格的に軌道に乗りはじめた!?・・(日本 vsUAE、3-1)・・(2007年7月13日、金曜日)

「相手に先制ゴールを奪われていたらどうなったか分からない・・逆にこちらが走らされていたかもしれない・・」。例によってイビツァさんが、シニカルな雰囲気を振りまきながらそんなことを言う。

 その発言を聞きながら、「イビツァさん・・そりゃないよ・・それこそ、まったく現実離れしたタラレバじゃありませんか・・あのプレーコンテンツだったら、日本守備ブロックがUAEに崩されることなんてあり得ないよ・・まあ、とはいっても交通事故みたいな失点の危険性は常につきまとうわけだけれどネ・・」なんて、ちょっと興ざめ気味にイビツァさんのコメントをメモしていましたよ。

 それほど、日本代表が魅せつづけたゲーム支配コンテンツは素晴らしい安定感だったのですよ。「立ち上がりの20分間は我々がゲームをコントロールした」。ブルーノ(UAEのメツ監督)が、そんなことを言っていたけれど、その発言にもアグリーじゃないね。たしかに立ち上がりのUAEは積極的に攻め上がってはいたけれど、日本代表のディフェンスブロックは、それを完璧な余裕で受け止めていたからね。

 組織プレーと個人勝負プレーが高度にバランスしている世界トップレベルのサッカー。そこでは、鋭いドリブル突破や、急激にスピードアップする素早く広いコンビネーションで(ボールがないところでのクリエイティブなムダ走りの積み重ねで!)相手ディフェンスブロックの背後に広がるスペースを攻略してくる。

 そんな「世界」と比べて、やはり「アジアのレベル」はかなり見劣りするのです。だから日本の最終守備ラインも、ほとんど「自分たちの眼前スペース」で、余裕をもってボール奪取勝負を展開できる。

 もちろん個人的なチカラでは、カタールにしてもUAEにしても、日本を上回る「部分」を持ってはいるけれど、彼らの場合、そんな個人的な高い能力が組織的にリンクされないのですよ。彼らの仕掛けでは、ウラの(決定的な)スペースをイメージしたコンビネーションなど、ほとんどといっていいほど見られない。だから、冒頭のイビツァさんの発言は、やっぱり現実味に欠けるタラレバに聞こえるっちゅうわけです。

 それでも、イビツァさんの「日本代表は、ボールをしっかりと走らせ、相手を疲れさせた・・」という発言については、大いにアグリーでした。それこそが、この試合でピックアップしなければならないメインテーマということになります。

 内的にタメられたダイナミズムを、タイミングを見計らって急激に「爆発」させる究極の高効率サッカー!? 何で難しい表現ばかりするのかネ・・もっと簡単に言えばいいじゃネ〜か・・なんていう文句が聞こえてくるようです。ハイッ!! それではリクエストに応えて、シンプル表現にチャレンジします。要は・・

 高温多湿という厳しい条件下での闘いだからこそ、いかに組織プレーを効率的なものにするのかというのがテーマになるということです。いつものように人とボールを動かすのではなく、足許パスでもいいから、とにかくしっかりとボールを動かしつづけるなかで、まさに爆発するように、「ある瞬間」に人のアクションを「集約」させるような仕掛けのことです。

 それは、ある仕掛けのアクションをキッカケに、急にボールがないところでの動き(フリーランニング)が繰り出されるという発想とも言える。大きなサイドチェンジなど、しっかりとボールを動かしつづけることで仕掛けゾーンをどんどん移動させながら、例えば、高原直泰の戻り気味のパスレシーブの動きと、その足許への鋭いタテパスを「爆発のスタートサイン」にするわけです。そして周りの二人目、三人目が、ウラのスペースへ飛び出していき、そこへ、高原と中村俊輔の間で交わされたショートパス交換から、最後は決定的スルーパスが(決定的スペースへ)送り込まれる・・といった具合。

 この試合では、そんなメリハリあるコンビネーションが随所に見られました。カタール戦では、「それ」が出てくるまでに時間がかかったけれど、このUAE戦では、立ち上がりから「意図と意志」がしっかりと表現されていたのです。

 右サイドでボールを動かしながら、タイミングを見計らったサイドチェンジによって、左サイドの駒野がまったくフリーで仕掛けていったり、高原直泰への鋭いタテパスをキッカケに、トントント〜ンというダイレクトパスの交換から、最後は三人目の中村憲剛がUAEのウラスペースを突いていったり・・。まあ、(イメージ)トレーニングの賜物といったところ。優れたサッカーは有機的なイメージ連鎖の集合体・・なのです。イビツァさんは良い仕事をしている。

 そうそう、もう一つテーマポイントがあった。それは、ある程度フリーでボールを持つ選手という意味の「仕掛けの起点」の演出。日本代表は、人の動きは(いつもより)少ないにもかかわらず、素早く広い(逃げの横パスなどではない)ボールの動きによって、しっかりと仕掛けの起点を演出できていたのです。

 要は、カタールにしてもUAEにしても、マーキングが甘いことで、ボールをしっかりと動かせば、かなりの確率で「攻撃の起点」を演出できていたということです。もちろん逆に、日本の守備が、その視点で、中東のチームよりも格段に優れたパフォーマンスを魅せつづけていたとも言えるわけです。

 そんな優れた守備パフォーマンスの絶対的なイメージリーダーは、言わずと知れた鈴木啓太。彼がどんどん発展しつづけていることは誰の目にも明らかな事実でしょう。それこそまさにインテリジェンスの証明といったところ。忠実なチェイス&チェック・・インターセプト狙い・・忠実な協力プレスアクション・・労を惜しまないカバーリング・・そして攻撃でのクリエイティブな「リンクマン振り」・・等々、ホントに素晴らしい。彼は、このチームには欠くことのできない選手です。

 そんな鈴木啓太が(イメージ的に)リードする中盤での「高い守備意識」だけれど、それは、このチームのダイナモ(発電器)である「ダイナミック・カルテット」の絶対的な評価基準でもあります。鈴木啓太、中村憲剛、中村俊輔、そして遠藤ヤット。彼らが魅せつづける、攻守にわたる実効あるダイナミズム(活力・迫力・力強さ)は、日本チームが目指す、美しさ(才能)と勝負強さ(戦術)が高い次元でバランスした優れたサッカーの絶対的ベースなのです。

 とにかく、前回のコラムでも書いたように、このチームは、大会を通じて本物の「ブレイクスルー」を果たすに違いありません。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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