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2007_アジアカップ・・究極の組織サッカーを展開するベトナム・・(ベトナム vsカタール、1-1)・・(2007年7月12日、木曜日)

「オレもドイツでライセンスを取ったサッカーコーチなんだ・・リードルさん、あなたは本当に良い仕事をしている・・同じ(ドイツ語圏に関わる!?)コーチ仲間として誇りに思うよ・・とにかく、おめでとうという言葉だけは掛けたかったから呼び止めさせてもらった・・最終戦ではオレたちの日本代表と闘うわけだけれど、お互いにベストを尽くそう・・」。「そうか・・どうもありがとう・・とにかく、また会うことになるよな・・じゃあ、そのとき・・」。

 記者会見の後、ベトナム代表を率いるオーストリア人プロコーチ、アルフレッド・リードルさんを呼び止めました。本当に、どうしても声を掛けたかった。「あの」素晴らしいベトナム代表チームを作ったコーチなんだからね。

 たしかに「個のチカラ」では明確な限界がある。それでも彼らは、労を惜しまずにしっかりと走り、忠実に組織ディフェンスを機能させることをベースに積極的に攻め上がりつづける。彼らは、攻守にわたって忠実な基本プレーを積み重ねていけば、おのずと良いサッカーになるし結果もついてくるということを如実に証明しつづけているのです。素晴らしい。

 「大会前、誰が、2試合終了した時点でベトナムが勝ち点4を取ると思っただろうか・・」。会見で、リードルさんが胸を張る。もっともっと胸を張っていいよ。本当にアンタは素晴らしい仕事をしているんだから。

 ベトナムが魅せつづける、攻守にわたる基本プレーの積み重ね。まず何といっても守備がすべてのスタートラインであることは言うまでもありません。彼らの守備は、まさに有機的なプレー連鎖の集合体。忠実で素早いチェイス&チェック(守備の起点の演出)を絶対的なベースに、次、その次と、何人もの仲間たちが、ボール絡みだけではなく、ボールがないところでもカタール選手へプレッシャーをかけつづけるのです。

 そんなだから、カタール選手は、誰一人として「余裕をもって」ボールをコントロールできない。だから展開は、まさに逃げパスのオンパレードということになってしまうのです。これでは、ベトナムの守備ブロックを崩せるはずがない。

 もちろんそれには、カタールが、例によって個人勝負をブツ切りに(それも消極的に)つなぎ合わせていくという低級サッカーのイメージしか持ち合わせていないということもあります。そのことについては、日本戦でのコラムで書いた通りだけれど、あれほどの個の能力を持ち合わせていながら、低級な「個人勝負のブツ切りサッカー」しかできないことについては、ちょっと奇異にも感じていました。ちょっと、あまりにも極端じゃないか?・・彼らには、3-4人が絡むコンビネーションという発想(イメージ)がまったくないんだろうか?・・もちろんベトナムの気候のせいもあるんだろうけれど・・それにしてもちょっと極端に過ぎるよな・・。

 そのテーマについてだけれど、本日の昼間に記者会見があり、そこで久しぶりに、UAE代表監督のブルーノ・メツと話したとき(2002年日韓ワールドカップで、セネガル監督として存在感を誇示したフランス人プロコーチ・・彼に関するコラムは「こちら」)、彼が、中東のなかで、特にオマーンのサッカーをものすごく高く評価していた(オマーンについてはこのコラムを参照)。その話しのなかでブルーノは、中東サッカーでは個人勝負が前面に押し出される傾向が強いことについて、「だから中東では組織プレーを浸透させることがメインテーマになるんだよ」と言う。その視点でオマーンは組織プレーにも秀でているというのです。でもそのときは、カタールの偏ったサッカーまでには話題が至らなかった。いま考えると、ちょっと残念。

 「それにしてもブルーノは英語がうまくなったよな。、当時はそんなに達者じゃなかったからコミュニケーションを取るのも大変だった。覚えている?」。「そうそう、そうだったよな」とブルーノ。やはり「直接コミュニケーション」は大事なのですよ。もちろん互いに完璧なイングリッシュじゃないにしてもですよ。

 ちょっと話題が逸れた。さて、ベトナム。リードルさんには、記者会見でこんな質問も飛んだ。「最後の20分くらいはカタールに攻め込まれた・・そこでは守備を固めるべきだったのではないか?」。それに対してリードルさんは、毅然として答えるのですよ。「そんな考えにはアグリーできない・・我々は、受け身に守るようなサッカーを目指しているわけではない・・積極的にボールを奪い返すことをベースに、攻撃では、前にスペースがあったら、そこへ飛び出していくような攻撃的なサッカーを目指すことこそが良いサッカーにつながるのだ・・」。

 なかなか良いじゃありませんか。そんな積極的なプレー姿勢を貫き、そして結果を残しているからこそ高く評価されるというわけです。

 とはいっても、質問にあったように、カタールが「高さを活かした攻め」を繰り出すようになってからのベトナムは、本当にタジタジになってしまった。同点ゴールを奪われた後も、何度か逆転ゴールのピンチにもさらされたしね。でもベトナムは、最後までしっかりと耐えた。この勝ち点「1」は、まさに正当に勝ち取ったものでした。

 強大なスピリチュアルエネルギーを放散する大観衆の後押しによって気力の充実したベトナム代表。彼らが、100%を大きく超越するチカラで展開する(攻守にわたる)基本に忠実な組織プレーは、観る者すべてに何らかの感動を与えるに違いありません。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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