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2006_ワールドカップ日記・・サッカー好きだからこそのテレビ中継テクニック・・また小林敏明さんとの再会・・(NHKデータ放送&同HP連載コラムから)・・(2006年7月26日、水曜日)

好きこそものの上手なれ。

 今日のテーマは、自分たちが見たいからこそ、サッカーの一番面白いシーンをしっかりと画面に捉えつづけるヨーロッパのテレビ中継チームについて書いたコラムです。まさに「ボールがないところで勝負が決まる」という普遍的なテーマを地でいく中継チーム。私も、メディアセンターでテレビ中継を見ながら、「上手いな〜」と感嘆の声を上げたものです。

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 「あれっ!? ボールが画面から外れてしまったよ」。私の近くでテレビ中継を見ていた日本のメディア関係者が頓狂な声を上げた。そのとき私は、「いや、これでいいんだよ。カメラマンもサッカーが大好きだということさ」と、心の中でつぶやいていた。

 我々ジャーナリストは、スタジアムでの観戦よりも、メディアセンターに設置されている大画面フラットTVで観戦することの方が多い(もちろんホテルでのテレビ観戦という優雅な人たちもいるだろうけれど・・)。何せ、ドイツ全土で3時間ごとにキックオフされるのだから、それも当然だ。スタンドのメディア席へ入る前とか、ゲーム後にテレビ観戦するのである。まあこれからは、同時に行われる試合も増えてくるから、全てのゲームをカバーするというわけにはいかなくなるけれど。

 さて、テレビ。とにかく、その映像の「作り方」が心地よい。私が観たいと思うゾーンをうまく画面がカバーしてくれるのである。それは、ボールがないところで攻撃側と守備側が展開する、パスを受けるためのスペースをめぐるギリギリのせめぎ合いだ。

 サッカーの基本は、パスゲーム。ボールは選手よりも速いのである。だから、パスを出す選手と、それを受けるチームメイトとの「勝負イメージ」がうまく重なり合うことが決定的に重要になる。それが合致したとき、人々を「オーッ!」とうならせるスーパーコンビネーションが生まれるというわけだ。

 私は、ボールがないところでのプレーにこそ本物のドラマがあると思っている。勝負はボールがないところで決まる・・のである。

 だからこそ、テレビの映像作りにおける究極の目標は、ボールを出す選手だけではなくそこから離れたところで、相手マークとせめぎ合いながらスペースで効果的にパスを受けようとする選手の「ボールがないところでのアクション」も同時に観られるというポイントにあるべきだと思うのである。スタジアム観戦ではしっかりとしたイメージと広い視野さえあれば、その全てが見えるというわけだ。

 今回のワールドカップでテレビ映像を制作しているのはヨーロッパのチーム。彼らは、カメラマンだけではなく、ディレクターも含め、サッカー大好き人間に違いない。だからこそ、自分たちが観たいところもしっかりと押さえた映像を作ることに腐心するのである。

 彼らは、カメラアングルを引き気味」にし、ボールの位置を、常に画面の端に置く。そして我々は、ボールがないところでの本物のドラマを堪能するというわけだ。冒頭の画面からボールが外れてしまったシーンは、そんな彼らの意志が高じた結果だろう。
「どうせパスは、ここにしか来ないさ」。カメラマンの自信がうかがえる。確かにそのときも、次の瞬間にはカメラアングルのなかにボールが飛び込んできたものだ。わたしは、そんなカメラマンの姿勢に舌鼓を打っていた。

 もちろんマラドーナのような天才がプレーするときには、カメラアングルのマネージメントはちょっと変わる。カメラは、アップで、天才選手のボール絡みのプレーに注目するのである。そこでも、映像を作るカメラマンとディレクターが主役だ。彼らもまた、天賦の才が織りなす「魔法」をしっかりと目に焼き付けたいに違いない。

 好きだからこそ、とことん楽しんで仕事ができる。まさに「好きこそものの上手なれ」ではないか。

 今回のワールドカップは、NHKが、ヨーロッパチームの制作した全試合の映像を放送している。皆さんにも、ボールを視野の「端っこ」に置きその先で起きているギリギリの攻守のせめぎ合いに目を凝らすことをお勧めする。最初は難しいけれど、そんな見方に慣れてくれば、サッカー観戦が何倍も楽しいものになること請け合いだ。(了)

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 日本では、「J」の優勝争いが盛り上がっているようですね。レッズが二連勝・・素晴らしい守備的ハーフコンビ(中村と谷口)を擁するフロンターレがガンバに勝利してリーグトップに躍り出る・・等々。

 ちょっと残念ではあるけれど、やはりここは、深く潜行して充電期間に当てることが肝心だと思っている湯浅なのです。サッカー関係者と対話するだけではなく、サッカーとは関係のない人たちとも様々な視点でディベートをつづけている毎日です。

 そうそう、先日「The 対談」でインタビューした哲学者、小林敏明さんとも、再び話す機会がありました(対談記事については、その第一部第二部を参照してください)。

 ドイツ、ライプツィヒ大学教授である小林さんとの今回の会話では、「逸脱」「差異化」などのキーワードがどんどん飛び出す興味深いものになりました。様々なフレームワーク(社会規範とか枠組みとか)を超越する変化の想像と創造・・。そして、自分自身も含む様々な「抵抗」を乗り越えながら(行動を)継続することで自然発生してくるエネルギーを体感することの大事さ・・。舌っ足らずになるから、ここで止めよう。
 



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