湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第18節(2012年7月14日、土曜日)

 

新監督を迎えた両チームのエキサイティングな仕掛け合い・・(ARvsVI、 2-2)

 

レビュー
 
 さて、何を、どのように書いていこうか・・

 両チームともに、新監督を迎え、それまでとは違った上昇機運を魅せている(ポジティブな雰囲気を放散している!?)からね、とてもエキサイティングな仕掛け合いになるのも道理ってな具合。

 もちろん、仕掛け合いとはいっても、両新監督ともに、最初はディフェンスの機能性アップから・・という絶対的なセオリーを実践しているわけだから、両チームともに、そう簡単に相手ディフェンスブロックを振り回して決定的スペースを攻略していけるというわけじゃない。

 それでも、攻撃に入ったときには、両チームともに、脇目も振らない「ボールがないところでの実効アクション」をブチかますから(要は、しっかりと人数を掛けていくから!)とても見応えのある攻防戦が展開された。

 そう・・ここで言う「仕掛け合い」には、攻撃だけじゃなく、(基本的には受け身にプレーせざるを得ない!)守備での仕掛けというニュアンスも内包されて いるんだよ。ディフェンスでも、忠実な迫力チェイス&チェックなど、相手ボールの動きを「追い込む」という意味合いでの「能動的な仕掛け」もあるわけだか らね。

 全体的なゲーム展開だけれど、ガンバの・・あっと間違い・・ヴィッセルの西野朗監督も言っていたように、両チームともに、ゲームの流れを掌握する時間帯 もあったし、しっかりとした守備(タイミングの良いボール奪取)をベースに、効果的なカウンターを仕掛けていくシーンもあった。

 ということで、とても興味深い(エキサイティングな)ゲーム展開ではあったのですが、逆に、目立ったテーマを絞り込むのも難しかったっちゅう体たらくだったんですよ。フ〜〜・・

 でも、まあ、(シーズン途中にもかかわらず!?)新監督を迎え、新たなチーム作り真っ最中の両チームのぶつかり合い・・っちゅう視点から書きはじめることにした次第。

 全体的なゲーム展開だけれど、前半はヴィッセルが、攻守にわたって、とても優れた組織サッカーを魅せてゲームのイニシアチブを握った。

 前回のヴィッセル・コラム(第16節の、アウェー、フロンターレ戦)では、西野朗が指導をはじめた彼らの守備が、とてもうまく機能しているという視点で書いたっけね。

 要は、最終シーンでの守備クオリティーがアップしたということ。まあ、「最後の半歩」が出るようになったっちゅうことかな。それも、西野朗が持つ「ストロングハンド」の一環だよね。

 要は、最後のギリギリの瞬間に起きている現象まで正確に「見えている」監督が「そこ」にいる・・ということです。だからこそ、チームの集中力がアップする。

 そんなバックボーンがあるから、ヴィッセルの守備は、とても強力だった。ボールがないところでフリーになるアルディージャ選手は、ほとんど出てこなかった。また、決定的なクロスやシュートが放たれる最後の瞬間には、必ず「誰かの足」が出てきた。

 そして今回は、そんな優れたディフェンスをベースに、攻撃でも、とてもポジティブなイメージを放散した。要は、汗かきハードワークの量と質がアップしたっちゅうことだよね。こんな蒸し暑い気候条件だったにもかかわらず・・

 だからこそ、人とボールが効果的に動きつづける高質な組織サッカーを体現できる。まだまだ理想イメージには遠いけれど、着実に「それ」を志向し、「そこ」へ近づいていると思う。

 西野朗は良い仕事をしている。

 わたしは、そんな「良い仕事」が結実したグラウンド上の現象として、この試合でヴィッセルが挙げた2つのゴールを取りあげたい。

 最初は、前半20分に、守備的ハーフの田中英雄がブチ込んだ先制ゴール。素晴らしいカウンターだった。

 超速ドリブルで持ち込み、相手守備の視点と意識を引きつけた小川慶治朗から、ベストタイミングのスルーパスが決定的スペースへ送りこまれた。そこには、これまた理想的なタイミングで決定的スペースへ抜け出した田中英雄がいた。

 田中英雄の、落ち着き払ったシュートも特筆だったけれど、そのカウンターシーンには、西野朗が描く理想イメージが内包されていたのだと思う。そう、守備的ハーフの田中英雄のオーバーラップ。誰でもチャンスを得た者は、まよわず最終シーンまで突っ込んでいく・・

 二つ目は、交替出場した田代有三のスーパーヘディング同点ゴール。後半29分のことだった。

 このシーンでも、左サイドバックの相馬崇人が、まさに後ろ髪を引かれることのないフッ切れたオーバーラップ&勝負ドリブルから、美しい軌跡を描くスーパークロスを送りこんだ。ここでの主役は、もちろん相馬崇人、そしてそのオーバーラップ(組織プレー)だった。

 だから、西野朗に聞いた。

 ・・ヴィッセルは、西野さんがテイクオーバーして、あまり時間が経っていないのに、とても良くなっていると思う・・質問は、今日のゲームとはあまり関係 ないのだが・・要は、チームが、本当の意味でのチームになるまでに、普通どのくらいの期間が必要か(?)ということです・・

 ・・本当のチームとは、全員が、誰の指図も受けず(監督による強烈な刺激なしに!?)、自分から攻守にわたる汗かきハードワークを「探す」という積極的 なアクション姿勢が深く定着している状態のことです・・まあ、ハイレベルな守備意識とか、相互信頼なんていうのも、本当のチームを表す大事な要素かもしれ ないけれど・・

 そんなニュアンスの質問に対し、例によって西野朗監督は、真摯に応えてくれた。曰く・・

 ・・まあ、一般的なことはケースバイケースだから定義するのは難しいけれど、ウチ(ヴィッセル)の場合は、ちょっと面白いんですよ・・とにかく選手たち は、よくコミュニケートする・・要は、よく話し合うっちゅうことなんだが、こちらが面食らうほど頻繁に、さまざまなテーマをディスカッションすることで理 解し、前へ進めようとする・・

 ・・これは、基本的に、とてもポジティブなことだよね・・選手たち自身が、常に考え、工夫しつづけているっちゅうことだから・・もちろん、そのディス カッションが、チームのコンセプトと相容れない場合は脅威になるケースもある・・だからオレも、そのディスカッション内容を、とても注意深く、正確に把握 するようにしている・・そして、何かが違う場合、すぐに修正作業に取りかかるというわけさ・・

 ・・でも、とにかく、ウチの場合は、(リーダーの野沢拓也を中心に!?)選手間のコミュニケーションが自然な環境になっているから、チーム内の共通理解を図る上で、とても仕事がはかどるし、そのことが良い結果につながっていると思うよ・・

 フムフム・・

 もちろん、チーム内コミュニケーションの「量と質」を司(つかさど)る絶対的バックボーンは、監督のインテリジェンスとパーソナリティーだし、それがしっかりしているからこそ、チーム内コミュニケーションも「より」活性化していくというわけだよね。

 スミマセン・・どうも疲れ気味・・ベルデニック監督に率いられ、サッカー内容も良くなっている新生アルディージャについては次回のテーマということで・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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