湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第16節(2012年6月30日、土曜日)

 

興味深いテーマが山積みだった・・(FRvsVI、 0-1)

 

レビュー
 
 フロンターレの風間八宏監督が、記者会見の冒頭で、こんなニュアンスの内容をコメントした。曰く・・

 ・・技術が足りないことを再認識させられたゲームだった・・(パスを正確に!)止めるチカラが足りない・・何度か、ウラのスペースは攻略できたのに、最 後のところで足許パスをしっかり止められなかったことでビッグチャンスを潰したシーンがあった・・とにかく我々は、もっと技術を磨かなければならないと思 う・・必要な技術が改善されていけば、おのずと、コンビネーションも効果的に決められるようになるはずだ・・

 ちょっとアタマにきてたね、風間八宏。

 そりゃ、そうだ。ゲームのイニシアチブを握り、決定的チャンスも作り出したのに(チャンスの量と質では明らかにフロンターレに軍配!)、それ を決め切れず、逆にヴィッセルの都倉賢にキャノンシュート(決勝ゴール)をブチ込まれてしまった。それだけじゃなく、その都倉に「バロテッリ・ポーズ」ま で決められちゃったりして・・

 もちろん、ユニフォームを脱ぎ捨てて「ムキムキ・ポーズ」を決めた都倉賢にはイエローカードが出されたけれど、それでも決勝ゴールだからネ、チームからの「おとがめ」はないでしょ。

 それでも、フロンターレのサッカーは良くなっていますよ。

 前回は、正確なトラップと、ボールを動かすリズム・・について質問したから、今回はちょっと視点を変え、こんなテーマを話題にした(風間八宏監督に質問を投げた)。

 「風間さんが志向するサッカーを体現するためには、正確なトラップや、チーム内でパスのリズムを明確に共有することが必要になると思う・・その具体的な 目標は、相手守備ブロックのウラを突いていくコンビネーションですよね・・そのためには、静と動のメリハリをレベルアップさせる必要があると思う・・それ があってはじめて、相手の予想を超越した、爆発的にスタートするウラ突きのコンビネーションを成就させられる・・ただ、その前提となる落ち着き(静)が、 まだまだ十分ではないと感じられるのだが・・?」

 またまた長くなってしまったけれど、風間さんは、いつものように真摯に対応してくれた。曰く・・

 ・・その「静」の流れを作り出すためにも、もっともっと技術とイメージ(描写力)を磨かなければならない・・もちろん「そのこと」には、相手のアクショ ンを正確に予測することも入る・・それに選手たちは、まだまだ(自分たちのことしか!?)見えていない(イメージできていない!?)・・まあ、チームはこ れからです(もっともっと成長していくぜ!?)・・等など・・

 ・・志向するのは、相手の意識と視線を釘付けにするような、素早く広い(そして正確な)ボールの動き・・そしてそこから、「ココゾッ!」のタイミングで、フリーランニングとスルーパスを正確に「シンクロ」させること!?・・フム〜・・

 わたしは、素早く、広く、そしてスムーズで正確なボールの動き(パス回し)を、次の『爆発』のためのファウンデーションと表現する。

 そして、そんな静的な展開(落ち着いたボールの動き)から、相手がスキを見せた(≒意識と視線を引きつけられて油断した!?)瞬間を見逃さず、まさに唐突に、「ズバッ!」とウラ突きのコンビネーションをスタートしちゃうんだよ。

 だから私にとっては、「静と動のメリハリ・・」とか、「唐突にスタートする爆発コンビネーション・・」ってのが、キーワードになるっちゅうわけです。

 そして、そんな静的な(!?)ファウンデーションをうまく機能させるためにも、また、ウラ突きのスルーパスをしっかりと次のシュートへつなげるためにも、風間八宏監督が言う「止める技術のレベルアップ」が、とても重要な意味をもってくる・・っちゅうことです。

 風間さんは、その止める技術について、ボールにタッチする感覚とか、ボールをどこに置くか、はたまた相手のアクションをしっかりとイメージできているか・・等といった要素を挙げた。そういうことだよね・・

 バルセロナを見てりゃ一目瞭然。彼らは、どんなにプレッシャーを掛けられたって、どんなに相手に取り囲まれたって、まったく動じることなく、まさに「ピタリッ!」と、ボールを止めちゃう。もちろん周りの状況も、正確に「感じ」ながらね。

 やっぱり、サッカーの基本中の基本は、ボールを止めることと蹴ること・・なんですよ。このことはプロになっても同じ。常に精進が求められるんだよ。「あ の」バルセロナだって、サイドキックのショートパスを、延々とトレーニングしているんだよ。ピタッ・・ポンッ・・ピタッ・・ポンッ・・ってな具合にね。

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 さて、西野朗新任監督が率いるヴィッセル神戸。このチーム「も」、ポジティブなイメチェンを果たしつつあると感じた(今回の「EURO」はイメチェンのオンパレードだから・・あははっ・・)。

 この勝利で、ヴィッセルは、ナビスコカップも含めて4連勝だぜ。まあ、彼らが高い位置から積極的に繰り出していく、忠実で、創造性&想像性にあふれるダイナミック組織ディフェンスを観れば、その戦績にも、ナルホドと合点がいくよね。

 西野さんは、「肉をズタズタに切り裂かれた・・」なんて、ゲーム内容について自虐的な表現をしていたけれど、私の目には、とても立派なゲームを展開したと映った。まあ、たしかに、ゲームの全体的な内容では、フロンターレに軍配が上がるかもしれないけれど・・ね。

 チームをシーズン途中でテイクオーバーした西野朗が最初に着手したのは、もちろん守備だったはず。「それ」が、監督に就任して日が浅いにもかかわらず、 この試合で魅せたように、爆発的なチェイス&チェックに代表される忠実な汗かきアクションを積み重ねているからこその素晴らしい機能性を誇示した。まあ、 サスガに西野朗・・ってなところです。

 たしかに何度かは、フロンターレ得意のウラ突きコンビネーションを決められた(それでシュートまで行かれてしまった!)。それでも、フロンターレの「静 のファウンデーションの流れ」を断ち切ることで、ウラ突きのコンビネーションを効果的に抑制したシーンも、何度も目撃した。

 とはいっても、攻撃については課題のオンパレードということらしい。まあ・・ね・・

 もちろん西野朗のことだから、しっかりとゲームを支配しながらチャンスを作り出すといった横綱相撲サッカー「も」やりたいに違いないよね。

 ちょっと口を滑らしちゃったのかもしれないけれど、西野さんは、こんなニュアンスの内容もコメントしていたっけ・・

 ・・ホンモノのボランチが欲しい・・守備は、いまの選手でもしっかりと機能するけれど、でも、次の攻撃という視点では、十分ではない・・とにかく、ボールを奪い返してから、次の攻撃を効果的にリードできるような本物のボランチが欲しい・・

 ボランチ。それは、フランス語の「ボラン」と同じ。そう、チームのハンドルという意味。ボランチは、チームの重心として、攻守にわたってリーダーシップを発揮しなければいけないんだよ。

 だから私は、ブラジルに敬意を示す意味合いでも、安易に「ボランチ」という表現を使わずに、守備的ハーフと呼ぶことにしているっちゅうわけです。

 とにかく、西野朗が率いるヴィッセル「も」、とても魅力的なチームになりつつあると感じますよ。これで、楽しみがまた一つ増えた。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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