湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2009年10月24日、土曜日)

 

本山雅志の復調と、アントラーズ本来の粘りの勝負強さの復活!?・・(AvsJE, 3-0)

 

レビュー
 
 さて、アントラーズの調子が戻ってきた。そう・・本山雅志の復調とともに・・

 まあ、彼らの場合、その「調子」という表現のバックボーンにあるコノテーション(言外に含蓄される意味)の大部分は、安定したディフェンスをベースに粘り強く勝ち切るというゲーム運び(チームに共通した確信イメージ!?)というところにあるわけだけれどネ。

 これまで何度も書いたように、そんなアントラーズが、「勝てなくなった」ことのバックボーンには、いくつかの要因があると思うのですよ。

 まず何といっても、抜群の強さ(粘り強い勝負強さ!)を誇っていたアントラーズに対して、相手チームが、アントラーズの良さを「消す」ような、しっかりとしたゲーム戦術を練り、それを全力で徹底してきたという側面があります。ただそれは、強いチームの宿命のようなモノだし、だからといって、あれほど派手に負けつづける(あっと・・粘りの勝利を挙げられなくなった・・という表現の方が正しいかな・・)のは、どう考えたって不自然だよね。

 ということで私は、その他に、より根源的な要因があったと思うわけです。そう、本山雅志のケガによる離脱と、彼の代わりに先発に名を連ねるようになったダニーロの(攻守にわたる)中途半端プレーによるネガティブ(心理)ビールスの発生と、そのチーム内への蔓延・・

 それまでのアントラーズには、全員が、攻守にわたって「汗かき」を徹底するという暗黙の了解が徹底していた。そして、そんな「プレー姿勢」を率先して引っ張ったのが本山雅志だったのです。

 彼は、 スピードに乗ったとても器用でテクニカルなドリブル勝負など、本来は天才肌のプレイヤーなのです。その「才能プレー」はチームメイトの誰もが認めるところなのだけれど、そんな本山雅志が、率先して「汗かき」に精を出す。そんな姿を見て、自分もやらなくちゃ・・と思わないチームメイトなど出てくるはずがない。フムフム・・

 もちろん、ダニーロだって(全体的に)良いプレーを展開した時期もあったし、この試合でも、才能を感じさせるダイレクトパスでチャンスを作ったり、自ら惜しいシュートを放ったりした。

 ただ、ダニーロのそんな良いプレーは、多くの場合、本山雅志に代表される、組織的な汗かきチームメイトがうまく機能していたなかでのプレーだった。だから一度(ひとたび)、自分が、攻守にわたる組織プレーを引っ張らなければならなくなったとき(少なくとも、周りと同等の汗かきプレーで走り回らなければならなくなった状況では)彼の本質的な(動きの少ないスタンディングの!?)プレーイメージが、大きなブレーキとなってしまうというわけです。

 そしてチームには、「どうしてアイツは動かないんだヨ〜!」とか「何でアイツは守備に戻らないんだ〜!」といった不満(ネガティブ)エネルギーがぶつかり合うようになってしまう。前にも書いたけれど、そんなネガティブ(心理)ビールスが蔓延しはじめたら、簡単には止められない。

 そして、守備でのチェイス&チェックや、ボールがないところでの忠実マークに代表される汗かきディフェンスの勢いだけではなく、攻撃での、ボールがないところでの汗かきプレー(スペースを作り出す動きとか、パスを受けて次に展開するような忠実なリンクプレーなどなど)の量と質も、徐々に浸食されていく。そう・・心理的な悪魔のサイクル・・

 また「タテのポジションチェンジ」という戦術的な機能性が、うまく回るかどうかというポイントでも、やはり、汗かき(まあ・・基本は優れた守備意識!)の量と質が、もっとも重要な原動力になるのです。

 本山雅志の攻守にわたる汗かきプレー。それがあるからこそ、小笠原満男も、より効果的に「前」で実効プレーを展開できるのですよ。ダニーロの場合は、タテのポジションチェンジという発想が鈍いからネ(後方からのオーバーラップに対して、次の守備で、自分が戻ってカバーリングに入るというイメージがほとんどなかった!)。

 それにしても本山雅志は、アントラーズにとって、とても大事な選手だね。この試合では、前述したような攻守にわたる汗かき組織プレーだけじゃなく、局面での「才能ドリブル」や、センスあふれる勝負パスなど、彼本来の「天才プレー」も冴えわたっていた。もちろん彼自身は、まだまだ本調子ではないと感じている(自分のプレー内容に不満)だろうけれどネ・・

 とにかく、この試合でのアントラーズは、久しぶりに、彼ら本来の粘り強く勝負強い「質実剛健サッカー」を魅せてくれたのです。そして、自分たちのサッカー内容が上向いていると体感しているアントラーズ選手たちのプレーも「より」活性化していく。リーグ終盤になって「やっと」調子を取り戻してきたアントラーズ。優勝争いが、どんどんエキサイティングに白熱してくるじゃありませんか。私は、まだまだ8チームに優勝のチャンスがあると踏んでいるのですよ。さて・・

 最後に、ジェフ千葉について。江尻篤彦監督の下、例によって、最後の最後まで、攻守にわたって全力を傾注した。そこでは、「半歩、足が伸びない」ような中途半端プレーを展開する選手は、一人としていなかった。とても爽快な共感を覚えた。それでも・・

 これについては、前節の「がんばれジェフ!コラム」を参照してください。彼らには、どんなことがあっても、最後の最後まで、ストイックな全力プレーを期待します。プロとして・・人生のチャレンジャーとして・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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