湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第26節(2008年9月23日、火曜日)

 

二試合のポイントをまとめます・・(マリノスvsフロンターレ、1-1)(ジェフvsグランパス、2-1)

 

レビュー
 
 「立ち上がりは、中盤でのミスが重なったこともあってフロンターレにペースを握られた・・まあ、相手の方が上だという意識があったのかもしれない・・その流れが、ゴールを境に好転しはじめた・・またハーフタイムでも、そんな意識とポジショニングの修正を行った・・そんなこともあって、後半はよいサッカーになったと思う・・だから引き分けは残念だ・・もちろん選手たちも悔しい思いをしたに違いない・・」

 マリノス、木村浩吉監督が記者会見の冒頭でそんなニュアンスのことを言っていた。ということで、そのポイントについて続けて質問することにした。「おっしゃるように、前半はフロンターレにかなりやられていた・・ウラの決定的スペースも攻略された(要は守備ブロックが崩されたということ)・・それが、後半には、互角かそれ以上の展開へと好転した・・そんな改善のキッカケになったハーフタイムでの指示について、もう少し具体的に聞かせてくれないでしょうか?」

 それに対して木村浩吉監督は、例によって誠実に、こんなニュアンスの内容を語ってくれた。

 「相手は強力なスリートップで臨んできた・・それに対して、より首尾一貫して対応するように指示をした(多分それは、ポジショニングの修正やマーキングのやり方、ウェイティングからの協力プレス等といった内容だったはず)・・ただし、同時に、その修正が、受け身の戦術的な変更ではないことも強く言い聞かせた・・とにかく積極的にプレーすることで二点目を取りに行くという意志が大事だと強調した・・そんななかで、選手たちのなかでも様々なコミュニケーションがあった・・」

 フムフム。選手間でのコミュニケーションは、主体的に考え、自己主張するという積極的な意志の表れです。彼らは、自分たちなりに、木村監督の修正アイデアをイメージ処理し、相互に調整していたということでしょう。頼もしいね。

 ところで、木村監督が冒頭で口を滑らせた(!?)一言。「選手には、相手の方が上という意識があったのかもしれない・・」

 チョン・テセ、ジュニーニョ、黒津勝で組むスリートップ(まあチョン・テセのワントップに、上がり気味の両サイドハーフとも言える)。その後ろには、攻守にわたって動き回る「実効ある助っ人」ヴィトール・ジュニオールと、谷口博之&牛若丸(中村憲剛)で組む守備的ハーフコンビが縦横無尽にポジションをチェンジしながらマリノスの中盤を振り回す。素晴らしい組織プレーと個人勝負のハイレベルなバランス。たしかにフロンターレの個の才能たちが展開する攻撃は迫力満点です。

 何度あったですかね、前半のマリノス最終ラインが決定的スペースを突かれたシーンが。マリノスの中澤佑二が叩き込んだスーパーヘディング先制ゴールが飛び出すまでのフロンターレは、とても魅力的で強力な攻撃によって完全にゲームを牛耳っていたのですよ。でも、そんな(マリノスにとってネガティブな)流れの背景には、木村監督が言っていたように、多分に、受け身で消極的にプレー(ディフェンス)するマリノス自身が「呼び込んだ」というニュアンスもあったのです。

 とにかく、マリノスの先制ゴールが飛び出すまでのフロンターレの仕掛けは、強力そのものでした。そしてその流れをリードしたのが、言わずと知れた牛若丸。

 彼を中心に人とボールを動きつづけ、そんな組織的な流れのなかに、ヴィトール・ジュニオールやジュニーニョ、はたまた黒津勝やチョン・テセが(もちろん中村憲剛も)タイミングよくドリブル勝負を仕掛けていくのです。そんな流れのなかから、決定的スペースを攻略するドリブル勝負やコンビネーションだけではなく、唐突に中距離シュートが飛んだりするのです(黒津勝が放った二本の中距離シュートは可能性に満ちていた!)。

 そんな一方的な展開を観ながら、「やはり山瀬功治や松田直樹の不在は痛いよな・・このままマリノスにとってジリ貧のゲームになってしまうのかな・・」なんて思いはじめたタイミングで、コーナーキックから、唐突に中澤のキャノンヘディングシュートが飛び出したというわけです。あ〜〜ビックリした。

 それは、後方からパワフルな助走を入れた完璧なヘディングシュート。中澤佑二は、競り合った井川よりもアタマ一つ「上」でヘディングをブチかましたのです。それは、「助走を入れたジャンプ」と「その場でのスタンディングジャンプ」との差とも言える。もちろん、走りながらピタリと合わせた中澤の技術には大拍手だけれど、そのシーンを見ながら、「やはりセットプレーでは、相手ディフェンダーやGKを目がけたボールが効果的だよな・・」という経験則を反芻していた次第。その意味合いは、こうです・・

 セットプレーなどで蹴られたボールが自分に向かってくる。でも、「いただき〜」なんて思っていた最後の瞬間に、目の前を「影」が横切ってボールをかっさらってしまう・・。そんなピンポイント勝負シーンは数限りなく繰り返されているというわけです。だからこそディフェンダーは、ボールウォッチャーになることなく、走り込んでくる相手までもしっかりとイメージし、しっかりと身体を「寄せ」ることでプレッシャーを掛けつづけなければならないのですよ(相手にフリーアクションをさせない!)。

 それにしても、マリノスが魅せた、守備のパワーアップと徹底度の深化を基盤にした「吹っ切れたペースアップ」は見事の一言でした。そんな「ダイナミックな変身」を見ながら、こんなことを思っていた。

 『やはりサッカーは究極の心理ゲームだよナ・・ほんのちょっでも相手に対する劣等意識をもったら、持てるチカラの半分も出せずに心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまうのがオチ・・ミスをしてもいいから、ねばり強く全力のチャレンジをつづければ、逆に相手を心理的な悪魔のサイクルに陥れることだって出来る・・そう、この試合でマリノスが実証したように・・意志さえあれば、おのずと道は見えてくる・・』

 ということで、後半は(フロンターレもすぐに立ち直ったから!)両チームが積極的に仕掛け合い、互いにシュートチャンスを作り出すといったダイナミックでエキサイティングな勝負マッチへと盛り上がっていきました。いや、本当に堪能させてもらいましたよ。

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 さて次は、ジェフ対グランパス。

 とにかく電光石火の逆転劇でした。後半2分に同点ゴール。そしてその一分後に逆転ゴールだからね。ホントにビックリした。もちろん、ジェフにとってこの大逆転劇は、まさしく「順当に勝ち取った成果」でした。アレックス・ミラー監督の面目躍如。

 この試合の見所は、この逆転ゴールが入ってからの残り40数分間にありました。そこでグランパスが「どのような地力」を発揮するのか・・。でも結局は、忠実でダイナミックなジェフ守備ブロックのまえに、為すスベなく敗れ去ってしまったという次第。

 これはもう、ミラー監督のゲーム戦術的采配(戦術家としてのウデ)の賜物だったと言うほかありません。とにかく、グランパスの仕掛けのツボを完璧に抑えきったんだからネ。シンプルに展開し、サイドから仕掛けていく・・。そんな仕掛けイメージを行使しようとするグランパスだけれど、ほとんどのボールホルダーが(ジェフのねばり強いマーキング&プレッシング守備によって)抑えられてしまうんだから、そう簡単に人とボールを動かせるハズもない。

 とにかく、効果的なタテパスやクロスの「出所」が、ことごとく抑えられてしまうんだから、グランパスの攻め手がなくなるのも道理。そこでピクシーに聞いてみた。

 「あれだけ、パスの出所を抑えられ、パスレシーバーもハードにマークされてしまうのでは、攻め手がなくなるのも道理・・監督は、例えば(ヨンセンのアタマをターゲットに)アーリークロスを放り込むとか、中距離シュートをシンプルなタイミングでどんどん打つといった(アバウトな仕掛けの)イメージは持っていませんでしたか?・・何らかの変化を演出しなければ、あのようにカッチリと決まったジェフの守備ブロックを揺さぶることは出来ないと思うのですが・・」

 それに対してピクシーは、こんな言い方をしていた。「いまのジェフは生き残りマッチを闘っているから、とにかくモティベーションは最高レベルにある・・それに対して我々は、厳しい相手との連戦がつづいたことで少し疲れ気味だった・・だから(パワープレーをやるには)エネルギーが残っていなかった・・とにかく今は、チームを(効果的に)休ませることが第一義的にやらなければならないことだ・・」

 それにしてもジェフは、効果的な組織ディフェンスが、最初から最後まで素晴らしく有機的に連鎖しつづけるなど、素晴らしく忠実な「ゲーム戦術サッカー」を展開したと思いますよ。あれでは、グランパスに、後方ゾーンを除いて、フリーでプレーできる選手がほとんど出てこないのも道理か。

 ディフェンスの首尾一貫性が格段にアップしたジェフ千葉。要は、選手の意識が格段に高まっているということです。そう、主体的に考え、決して逃げることなく勇気をもって実行していく強い意志。その証明が、彼らが展開する、有機的に連鎖しつづける高質な組織ディフェンスということです。それが、ミラー監督による「修正の第一幕」ということなんだろうね。

 先日のコラムで、さて、ここからジェフの反攻がはじまる・・なんて書いた。そして実際に(そのゲームも含めて)三連勝を遂げた。もちろん(ミラー監督自身も言っていたように)残留に向けた闘いは、ここからが正念場ということになるわけだけれど、今日のプレーぶりを見れば、ミラー監督による「第二幕」に対して期待が高まるのも道理だよね。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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