湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2008年9月13日、土曜日)

 

「またまた」トリニータの術中にはまってしまったレッズ!?・・(レッズvsトリニータ、0-0)

 

レビュー
 
 「わたしは試合に満足しているし、この勝ち点には(重要な)意味があると思っている・・」

 会見で、(イケメン)シャムスカ監督が、胸を張っていました。まさにその通り。ということで、またまた長めの質問をしてしまった。

 「いまシャムスカさんは、内心、非常に悔しいのではないかと推察する・・ゲーム全般を通じて、まさにシャムスカ監督が意図するとおりのゲーム展開になり、しっかりと決定的なチャンスも作り出した・・だからシャムスカ監督にとっては、まさに悔しい引き分けだったと思う・・」

 そこで、一旦息継ぎをした筆者がつづけるのですよ。「そのトリニータの強さの秘密ですが、それは何といっても守備にありだと思う・・ポンテに対するオールコートマンマークなど、たしかに(相手を研究し尽くしてプラニングする)ゲーム戦術も存在感を発揮したけれど、わたしにとって印象深かったのは、最後の最後までトリニータの守備での集中力が高みで安定していたことだった・・高い守備意識ということだが、それが、レッズにスペースを与えないチェイス&チェックとか激しい寄せ、はたまたねばり強いボール奪取勝負といった忠実なディフェンスプレーに現れていた・・そんな素晴らしい守備を高みで安定させられているわけだが、そのバックボーンについて(簡単な)キーワードをつかって表現していただけないだろうか・・」

 ホントに長い質問でゴメンなさい・・なんていう目くばせをしたのですが、通訳を務める(シャムスカ監督の精神的な支柱の一人であり、サッカーの専門家でもあるに違いない!?)矢野博紀さんは、イヤな顔一つせずに(同時通訳的に!)忠実に訳してくれていましたよ(そうに違いないと想像します!)。

 とにかく「通訳の方」は、外国人監督にとっては生命線だからネ。矢野博紀さんの能力の高さは、いまのトリニータのチーム状況が如実に証明していると言っても過言じゃない。(イケメン)シャムスカは、その視点でもツキに恵まれていると思いますよ。そして矢野博紀さんによる「シャムスカ節」が軽快に踊りつづける。

 「いまのチーム状態は非常によい・・守備のシステムをうまく機能させるためには、やはりチームの雰囲気が大事になってくる・・(心理的な要素が大事になってくるということ!?)だからこそ、プロとしての(個人事業主同士の!?)コミュニケーションが大事になってくる・・それは、友情とか、絆といった言葉で表現されるモノかもしれない・・もちろん守備では、後方の選手だけが頑張るのではなく、攻撃の選手たちもしっかりと守備に入らなければならない・・そのためにこそ、よいコミュニケーションが必要なのだ・・もちろん守ればいいというのではなく、その後の攻めもしっかりとイメージしながらボール奪取勝負を仕掛けていく・・要は、全てにバランスの取れていることが大事な要素なのだ・・」

 フムフム。よい表現だね・・コミュニケーション。もちろんサッカーチームに「民主主義」はそぐわない。どこかで監督が意志決定しなければならない。監督が八方美人になった次の瞬間には(選手に八方美人だと認知された次の瞬間には!)チームは崩壊の一途をたどるだろうからネ。シャムスカ監督は、そんな「ホンネの部分」も含めて、コミュニケーションという表現を使っていたと思いますよ。だからこそ、最後まで諦めない守備のシステムが機能しつづけたということです。

 とにかく、トリニータの守備意識は、本当にハイレベルだということが言いたかった湯浅です。決して「リアクション守備」ではなく、あくまでも「アクション守備」。だからこそ次の攻撃に「危険な意志」を込めることが出来る。フムフム・・。

 この試合でのトリニータは、例によって、ホベルト&エジミウソンのボランチコンビが大活躍だったけれど、わたしは、もっと大きな「枠組み」で見ていました。ホベルト&エジミウソンのボランチコンビと、トップのウェズレイによる「大きなトライアングル(三角形)」。

 中盤まで下がったウェズレイが展開した(ホベルトとエジミウソンにサポートされた)攻守にわたる「実効プレー」は見所満載でした。守備でも、ボール奪取勝負が「上手い」。もちろんボールがないところでの忠実マークまでは期待できないけれど、ここぞのボール奪取勝負では、上手さとパワーとスピードが目立ちに目立つのですよ。そして、そこから繰り出されていく、落ち着いたゲームメイクやチャンスメイク。これで36歳ネ〜。フムフム、素晴らしい。

 また最前線でタテパスを受けたときの「ポストプレー」も秀逸。とにかく、相手を抑えるスクリーニングが上手い。そしてレッズ選手を抑えてしまうパワーとスピードも十分。また、ボールをもってペナルティーエリア付近まで上がったときの「怖さ」についても誰もが認めるところでしょう。とにかく20-30メートルは、彼にとっては、十分すぎるほどのシュートレンジだからネ。

 だからこそ、相手守備もボールを持つウェズレイに「引き付け」られてしまう。そしてウェズレイは、そんな状況の変化をしっかりと把握し、最後の瞬間に、スッとラストパスを出したりするのですよ。それは、もちろん、ウェズレイのシュート力が素晴らしいからこその「最終勝負のオプションの広さ」っちゅうわけです。

 わたしは、ウェズレイのポストプレーやラストパスなどだけではなく、彼のパワフルな中距離シュートなども堪能していました。そして思っていた。「ホントにレッズでは、強引なシュート場面がない・・」

 ということで、ここからは「レッズ」に入っていこうと思います。この試合でのレッズについての全体的な評価だけれど、前述したように、トリニータの術中にはまっていた時間帯が長かったと言わざるを得ないね。

 たしかに前半の半ばからは、前からの協力プレスがうまく機能しはじめたことで、『シュートチャンスを作り出せるような前への勢い』が乗った(攻撃にしっかりと人数を掛けられた)時間帯もあったし、実際に(サイドを起点にしたクロス攻撃などから)シュートも打った。でも、強引にシュートまで持っていくという「個の勝負ベース」のチャンスメイクがほとんどなくなったのも確かな事実だと思うのですよ。

 もちろん左右の平川忠亮と相馬崇人のドリブル勝負もあったし、サイドで永井雄一郎がうまくドリブルで抜け出したシーンもあった。ただ全体的には、「強引さ」というニュアンスで、何か物足りなかったのも確かなことでした。もちろん、そう感じた背景に、前述の「ウェズレイという現象」が強烈だったということもあったわけだけれどネ。

 たしかにトリニータが展開した「スーパーな粘りディフェンス」が相手だから、そう簡単に「ある程度フリーでボールを持つ」という状況を作り出せるわけじゃない。それでも、高原直泰にしても永井雄一郎にしても、はたまた両サイドバックやポンテ、また後方からオーバーラップする阿部勇樹にしても細貝萌にしても、もっともっと「強引に」、もっともっと積極的に「シュートをイメージ」してもよかったと思っていたのです。

 レッズは絶対的なチャンスにならなければシュートにチャレンジしてこない・・。レッズの攻撃が、トリニータ守備ブロックに、そう見くびられていたと感じられて仕方なかった。だから、トリニータ守備ブロックが、余裕をもってレッズの最終勝負の流れを「抑える」ことが出来たと思うのです。

 意表を突く強引な最終勝負らかのシュート。それそこが、相手の守備のイメージを「分散させてしまう」ような、ボール奪取勝負のポイントを絞り込みにくい「攻撃の変化」を演出するのです。でも、ここのところのレッズの攻撃では・・

 もちろん、強引な「個の勝負」は、人数を掛けた組織的な流れがうまく機能しなければ出てくるはずがない。まあ、この試合でも、レッズの(人数を掛けた)組織プレーがうまく回らなかったということだね。

 そして、このコラムの最後のテーマ。エジミウソン・・

 彼が優れたストライカーであることは、もう何度も述べたとおりです。だから、彼がベンチに座っていることが惜しくて仕方ない。

 たしかに彼の場合、いつも書いているように、『出来ること』と『やらないこと』のバランスが崩れている。

 出来ることについては、皆さんもご存じの通りです。それに対して、彼が「やらないこと」についても、徐々に広く認知されはじめている。守備でのチェイス&チェックが不十分・・ボールがないところでのマーキングや、味方のチェイス&チェックを基盤にした次のボール奪取勝負をサボったりする・・

 また攻撃では、とにかくボールがないところでのプレーの「量と質」が足りない。もっと、もっと動き回ることで、味方に「使われる」プレー「も」意識しなければ、彼の特別な能力が効果的に活かされないという「ムダ」が繰り返されることになる。この「メカニズム」を、エジミウソンに心底理解させるのが、ゲルト・エンゲルス監督の、当面もっとも重要なタスクなのではありませんかネ。

 「湯浅さん・・エジミウソンは、新潟では王様だったんですよ・・周りが汗かきして彼にボールを渡す・・それも良い形になるまで、周りがしっかりとお膳立てする・・そんな環境でしかプレーしたことがない彼に、もっとボールがないところで走れと言っても、聞く耳持たずなんじゃないですかネ・・」

 私が信頼するジャーナリストの方が、そんなことを言っていた。ナルホドね。でも、今は状況が違う。そのことを、何とか彼に理解させなければならないのです。何せ、攻守にわたる組織プレーに「も」エネルギーを割くことが、結局は、彼のプレイヤーとしてのキャパシティーを大きく開花させる(ブレイクスルーを果たさせる)ことになるわけだからね。その「メカニズム」をしっかりと理解させるのですよ。

 それが上手くいけば、彼のストライカーとしての価値が上がり、それに伴い「自然に」カネも付いてくる。そんな明快なメカニズムが分からないハズないと思うのだけれど。もちろんエジミウソンが、『マラドーナ』のように、ボールを持ったら、半分以上の確立で(100%に近い!)シュートチャンスを演出してしまうんだったら、もう彼を中心にしたチーム戦術を徹底させるしかないわけだけれどネ・・。

 まあ、鈴木啓太と田中達也が戻ってくれば、大きく「流れ」が変わるとは思うけれど・・。ちょっと長くなりすぎた。今日はこれから(2100時から)テレビ埼玉の「レッズナビ」。ちょっとネガティブなマインドでスタジオ入りすることになりそうな感じですかね。もし他に気付いたポイントがあれば、後から書き足すことにします。それでは・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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