湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第14節(2008年6月28日、土曜日)

 

「意志のチカラ」というテーマ・・(レイソル対レッズ、2-1)

 

レビュー
 
 まあ、ロジカルな「サッカー内容」だけを評価ベースにすれば、引き分けがフェアな結果だったとは思うけれど、それでもレイソルの方が「決定的なチャンス」をより多く作り出したというのも確かな事実だったよね。

 わたしは、レイソルが、より多くの決定機を作り出したことのバックボーンとして、やはり「意志のチカラ」を、その最大の要因として挙げます。

 まず何といっても、ボールを奪い返すという具体的な目的を強烈に意識したディフェンスの姿勢(優れた守備意識)。とにかく、それぞれの局面プレーが素晴らしく「忠実」なのです。チェイス&チェックにしても、マーキングにしても、カバーリングにしても、協力プレスへ急行する「勢い」にしても・・。

 それらの守備ブレーを基盤にレイソル選手が展開するダイナミックなボール奪取勝負を観ていて、「球際では絶対に負けないゾ!」という意志の爆発を体感しつづけていました。

 守備での「意志の爆発」は、その目的を達成した後には、より強烈な「連鎖反応的な核融合」を誘発します。そう、次の(攻撃での)仕掛けプロセスにおけるレイソル選手のプレーには、まさに「核爆発」とでも表現できるほどの「勢い」が詰め込まれていたのですよ。ボールを奪い返した後の「仕掛けへの意志」は、明確にレッズに勝っていたと言えるでしょうね。

 シンプルなパス、パス&ムーブ、ボールサイドでの(ボールなしの)サポートの動きや味方ボールホルダーを追い越していくオーバーラップ、逆サイドでのスペースランニング・・などなど。とにかく、その勢いはレベルを超えていた。

 だからこそ、レイソルが繰り出すカウンターには尋常じゃない「エネルギー」が詰め込まれていた。それが、レッズ守備ブロックのウラスペースを攻略したり、(こぼれ球を)後ろ髪を引かれることのない中距離シュートを放ったり(何度バーやポスト直撃の中距離シュートが飛んだことか!)した吹っ切れた仕掛けのバックボーンにあった。

 試合後の記者会見で、レッズのエンゲルス監督が、こんなことを言っていた。「(全体的な)サッカー内容は悪くはなかったと思っている・・ただ、レイソルに作り出されたピンチの内容は、異様に(!?)悪かった・・」

 そう・・まさにその通り。そこで質問してみた。「エンゲルス監督は、ピンチの内容が悪いというキーワードを述べていたが、たしかに全体的なサッカーの内容は悪くなかったけれど(それに比べて)ピンチの内容が極端に悪かったことも事実だと思う・・それは何故だと考えているか?」

 それに対してエンゲルス監督は、「賢くサッカーをやらなければならない・・勝ち負けをしっかりと意識しなければならない(勝ちにもこだわらなければならない)・・どうも中途半端なプレーが目立っていたと思う・・自陣ではパスとかクリアを明確にしなければならない・・その判断が甘い・・」といったニュアンスのことを述べていましたが、わたしは、やはり「意志のチカラ」で、レイソルに劣っていたことが、「最後のトコロまで足が伸びない」という現象につながってしまったと思っています。

 何度も、こんな中途半端なシーンを目撃しました。肝心なところでマークを「離して」しまったり・・行かなければならないゾーンへ急行しなかったり・・瞬間的にボールウォッチャーや様子見になってしまったり・・。

 そんな「小さなコト」が、結局は大ピンチにつながってしまうのですよ。何せ相手は、李忠成や太田圭輔、また山根厳に代表される「意志の権化チーム」だからね。彼らが魅せつづける、ボールがないところで「走り切る」というフリーランニングは、そのイメージが、しっかりとチーム内で共有されているからこそ(そこにしっかりとパスが出てくるからこそ)絶大な実効レベルを発揮するのです。

 そんなレイソルの「意志のチカラ」を観ながら、石崎信弘監督の「ストロング・ハンド」に対する賞賛の気持ちが自然と沸き上がってきたものです。

 さてレッズ。全体として見た場合、たしかに前半は良くなかったけれど、後半は持ち直した・・という表現にならざるを得ないだろうネ。

 とはいっても、ゲームが立ち上がった最初の「5分間」くらいは、レッズが、強さを感じさせる優れたサッカーを展開していたことも確かな事実です。そこでは、何度も、チャンスの内容が膨れ上がるような仕掛けの流れを演出していたのです。そんなダイナミックなサッカーを観ていて、大いなる期待を抱いたモノでした。

 シンプルなボールの動き(人の動き)でスペースへボールを運び、そこから、エジミウソンやポンテの個の勝負やトゥーリオの高さなどを駆使した危険な仕掛け(もちろん最終勝負のコンビネーションも含む仕掛け!)を繰り出していったり、両サイドをうまく活用した最終勝負を仕掛けていったり。そんなポジティブな流れに乗っていたレッズだったけれど、時間の経過とともに、徐々に(前述した)レイソルの攻守にわたる「意志エネルギー」に呑み込まれていってしまうのです。

 それに対して後半のレッズは、レイソルと互角のゲームを展開した。ただ、流れが互角ならば、やはり個のチカラで勝る(最終勝負シーンを個の勝負で打開していける)レッズの方が、微妙にチャンスの量と質で上回ることも確か。そこでは、ポンテやエジミウソンだけではなく、高原直泰も、個の勝負でチャンスを作り出していた。このゲームでの高原もまた、「復活のベクトル」に乗っていることを体感させてくれたと思いますよ。

 また交替出場した永井雄一郎にしても梅崎司にしても、好調を維持していると感じさせてくれた(攻守にわたって自分自身で仕事を探しつづけ、全力ダッシュを繰り返すなど、その仕事に全精力を傾けていた!)。要は、レッズは、決してネガティブな流れに陥っているわけではないということです。

 ただ一つだけ・・。前述した、ピンチの内容が悪いという「現象」が心配だけれどネ。

 さてこれで、俄然「J」が盛り上がってきたじゃありませんか。たしかに「ユーロ08」は、目標イメージを描写しストックできるという意味も含めて、この上なく重要な刺激だけれど、やはり我々の日常は「J」にあり・・だからね。とにかく、お互い、とことん「J」を楽しみましょう。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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