湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2005年10月29日、土曜日)

 

フロンターレが強かったからこそ、厳しい勝負を勝ち切ったことの意義は大きい!・・(レッズ対フロンターレ、3-2)

 

レビュー
 「非常に残念なゲームだった・・引き上げてくる選手たちに掛ける言葉もなかった・・私はこのチームで指揮を執れて誇りに思う・・」。記者会見での関塚監督の怒りのコメントでした。口を真一文字に結び、一点を凝視しながらパワフルなスピリチュアルエネルギーを放散する・・。勝負師としての本格感ビシバシじゃありませんか。

 ところで、彼の「指揮を執れて誇りに思う・・」というコメントだけれど、たぶんそれには、自分たち主体の立派なゲーム(ゲーム戦術イメージを完璧にグラウンド上に投影できた素晴らしいゲーム!?)を展開できただけではなく、試合終了間際でのレフェリーのアンフェアな判定にもめげず、最後まで諦めずに攻めつづけられたという二つの意味が込められているんだろうネ。後半40分を過ぎたあたりでのレフェリーの微妙な判定については、たぶんこれから様々なメディアで採り上げられるはずだから、そちらを参考に、ご自分で判断してください。とにかくフロンターレは、前節のゲーム(フロンターレ対レイソル戦)でコメントしたように、チームとしての自信と戦術的な強さが際だつ立派なサッカーを展開しました。ギド・ブッフヴァルト監督も、「両チームが全力を出し切った素晴らしい闘いだった・・」と相手を讃えていました。彼の言葉には、百戦錬磨の強者だからこその、相手に対する「ウラのない」フェアなレスペクト(敬意)が感じられたものです。

 前半8分のレッズ先制ゴールの後、フロンターレは、立てつづけに三本、まさに決定的というチャンスを「流れのなかから」作り出しました。単純なワンツーで抜け出したジュニーニョのシュート・・一発のロング・スルーパスから抜け出した我那覇(!?)のシュート・・また都築のミスでボールを奪われ、マルクスのフリーシュートにつながったシーン・・。そんなレッズのピンチを見ながら、レッズ選手たちの、ジュニーニョの速さと巧さに対するイメージトレーニングが十分ではなかったという印象を強くしたものです。単純なワンツーでも、彼がコアになったら危険度が違う。だからこそ、ゴリ押しの(安易なタイミングの)アタックを仕掛けていって置き去りにされちゃいけないんですよ。彼のボールの餅からは、まさに「それ」を誘っているのですからね。もっとねばり強く、最後の最後までタイトに「マークしつづける」という忠実ディフェンス姿勢こそが大事なのに・・。そんな「粘り腰」さえあれば、彼を「無為なこねくり回し」に追い込み、協力プレスで潰すことも簡単じゃありませんか。そう、フロンターレ守備陣が、レッズのポンテに対して展開した忠実ディフェンスのことですよ・・。とにかく才能ある選手と対峙するケースでは、相手がボールに触れないくらいハード&タイトにマークすることを基調に、ボールを確保されてしまったら「粘り腰ディフェンス」を徹底するということです。

 とにかくフロンターレの守備は素晴らしい機能性を発揮しました。「我々は、しっかりと相手をタイトにマークできていなかった・・」。ギドの弁です。まさにその通り。さすがに相手を甘く見ていたとは言わないけれど、特に後半立ち上がりでフロンターレに押し込まれた時間帯でのディフェンスは受け身そのものでした。「前から行け〜っ!!」と味方を叱咤する者もいない(・・中盤守備を指揮するリーダーがいないように見えた・・)。「前から〜っ!」とは、もちろん忠実なチェイス&チェックアクションのことです。「それ」によって、全体的なディフェンスの流れが決まる。そのポイントで、フロンターレは素晴らしく忠実でした。だからこそ、次のボール奪取勝負を自分たちに有利に展開できたのです。

 それにしても、フロンターレの久野と中村の守備的ハーフコンビは優秀でっせ。まさに縁の下の力持ち。前述したチェイス&チェック、ボールがないところでの忠実マーク、巧みなボール奪取テクニックなんていう守備プレーだけじゃなく、ボールを奪い返した後の攻撃参加も素晴らしい(スペースをつなぐドリブルや、素早いタイミングの仕掛けタテパスが秀逸!)。私は、彼らこそが、いまのフロンターレの躍進を支えていると思っているのです。

 さてレッズ。後半の最初の20分間は、前述したように、まさにタジタジといった展開がつづいていました。守備ブロックもフラストレーションを溜めていた・・だからこそ、安易なアタックが目立つようになっていく・・だからこそ、ジュニーニョたちの罠にはまってしまう・・。そんな、レッズにとってジリ貧になりそうな「ネガティブ膠着状態」に風穴を空けたのは、大胆に左サイドを押し上げた内舘でした。前半では、何度かピンチの原因をつくっていた彼だったけれど、その後はプレーも安定していた・・だからこそ、チャンスでの飛び出しにも躊躇がなかった・・そしてそのオーバーラップから、最後は、これまた最終ラインから押し上げたトゥーリオへの、グラウンダーのラスト横パスが決まる・・ってな具合。結局そのシーンでのトゥーリオのシュートは防がれてしまったけれど、その直後の「まだあるゾ!」っちゅう展開のなかから右サイドでボールをもったポンテが、まさに才能というピンポイントクロスを、トゥーリオのアタマにピタリと合わせたというわけです。すごいドラマチックな決勝ゴールだったよね。

 この決勝ゴールが生まれた要因は、前述したように内舘のオーバーラップでした。相手守備にとって「見慣れない選手」が最前線のスペースへ飛び出してくる・・相手守備にとっては予想外のレッズ守備選手がドリブル勝負を仕掛けてくる・・なんていう、想定外のこと(=要は仕掛けの変化!)がなければ、キチッとまとまっているフロンターレ守備ブロックのポジショニングバランスを崩せないということです。実は、後半9分にも、フロンターレ守備ブロックにとって「想定外」の勝負プレーがありました。山田暢久のドリブル勝負。右サイドで、相手を3人ブッちぎって決定的クロスを上げたシーンです。素晴らしかったですよ。完全にフロンターレ守備ブロックが崩されましたからね。「そうだ!! それこそ、天才山田の天才たる所以なんだ!!」なんてネ、思わず声を出してしまった。天才が、その才能を押し入れにしまい込んでいることほどフラストレーションが溜まる現象はありません。これまでの彼のドリブルは、どちらかといったら「ぬるま湯」といった雰囲気の方が強かった。勝負しながらも、吹っ切れた勢いを感じないのです。「もし失敗しても・・」なんていう、ぬるま湯マインドが見え隠れするっちゅうわけです。山田は、トレーニングにおいて、もっともっと「吹っ切れた」ドリブル勝負にチャレンジしましょう。それがなければ、確実に「歌を忘れたカナリヤ」になってしまう。やはり人間は、基本的には安定・安全を志向する社会的存在だからネ・・。

 さて、あのような厳しいゲーム展開のなかでも、最後はしっかりと「勝ち切った」浦和レッズ。優勝争いに踏みとどまっただけではなく、全力を出し切ることで自ら活路を見出したことの意義は大きい。勝者のメンタリティー・・!? いやいや、まだまだそんな大袈裟なモノじゃないけれど、フロンターレが強かったからこそ、選手たちが体感した「ギリギリの勝負コンテンツ」が、何らかの重要な意味・意義をもつに違いないと確信している湯浅なのです。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]