湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2005年10月23日、日曜日)

 

「ソリッド」な強さを魅せつけるフロンターレ・・(フロンターレ対レイソル、3-1)

 

レビュー
 「そうですね・・キーワードは攻守のバランスという表現に集約されますかネ・・強いスリーバックと破壊力のあるスリートップ・・それを攻めと守りのコアにして、攻守にわたって中盤がうまくバランスを取るように機能している・・選手たちの理解も深まっているし、それで結果がついてきていることで選手たちも自信を深めている・・だからキーワードは攻守のバランスっていうことになります・・」

 「このところ結果がうまくついてくるようになっていますが、気持ちの部分は除いて、戦術的に、関塚さんが考える要因はどのようなところにありますか? できればキーワードで表現してもらいたいのですが・・」。そんな私の質問に、冒頭のようなキチッとした回答がスムーズに出てきたものです。落ち着いたインテリジェンス。なかなかのモノじゃありませんか。以前、ジュニーニョが欠場したゲームの後に、「関塚さんにとってジュニーニョは諸刃の剣ですか?」と質問したことがあります。そんな質問に対しても、「たしかに素晴らしい才能を持つジュニーニョは攻撃の核弾頭だけれど、我々は、それに頼り切るのではなく、ジュニーニョも一つの駒だという意識で攻撃を組み立てられるようになることを目指している・・」という立派な回答をもらって感心したことがありました。

 本当にフロンターレは、ソリッドな良いサッカーをしています。ソリッドという形容詞の基盤は、忠実でダイナミックな守備イメージですが、彼らの場合は、まさにハチの一刺しという表現がふさわしい鋭いカウンターなど、次の攻撃に対するイメージも明確にミックスされていると感じます。それらが(攻守の切り替えという流れが)一つのイメージユニットとなって、彼らのソリッドサッカーを形作っているということです。以前に何度も書いたように、フロンターレの守備は、非常によくトレーニングされています。組織ディフェンスの優等生といったところ。そしてその背景にある心理バックボーンが、次の攻撃に対する信頼であり、チャンスさえあれば、自分もそれに「最後まで」関わっていくゾという強固な意志だということです。だからこそ良いバランス。冒頭の関塚さんの言葉に、チーム内で、ソリッドサッカーに対するイメージの善循環が回りつづけている・・というニュアンスを感じていた湯浅でした。

 フロンターレは、スリーバックと、その前の四人(両サイドバックと両ディフェンシブハーフ)による7人で守備ブロックを組みます。そして、我那覇、マルクス、ジュニーニョで組む、ディフェンスにも積極的に絡んでくる強力なスリートップが前線に控える。ただしこのスリートップは、決して「前後分断」の仕掛け専門グループといった性格ではありません。要は、基本的にはこの三人だけで攻め、残りは守るだけという後ろ向きのチーム戦術ではないということです。そこには、守備ブロックとスリートップを「リンク」する選手が、常に後方から押し上げてきますからね。両サイドの長橋とアウグスト。そして両守備的ハーフの久野と中村。彼らが、臨機応変に、攻撃の最終段階まで効果的に絡んでいくのですよ。私は、スリートップと「1.5人」なんていうふうに感じていました。特に、カウンター状況での押し上げが素晴らしく効果的。前半には、中村が50メートルは全力&直線ドリブルでレイソル守備ブロックをブッちぎり、最後は、右サイドのジュニーニョにラストパスを送り込んだというシーンがありました。また後半でも、ボールを持って押し上げた久野が、右サイドのジュニーニョにボールを預け、そのまま全力で逆サイドのスペースへ抜け出していく(そのとき我那覇とマルクスを追い抜いた!)。ゴールには結びつかなかったけれど、フロンターレの攻撃が高いレベルの組織イメージを基盤にしていることを如実に物語るシーンではありました。

 対するレイソル。明神と波戸の不在が明確に感じられました。まあだからこそ、守備ブロックでの薩川のリーダーシップが目立ちに目立っていたわけだけれど・・。何度も、強力なフロンターレの攻撃を身体を張って止めたり、決定的な場面で「読みカバーリング」を魅せる薩川。それは、見応えのある(ある意味、感動さえ覚える)実効ディフェンスでした。でも、どうも、そんな薩川のガンバリエネルギーが前線の選手たちに伝わっていかない・・。特に大野敏隆の、攻守にわたる緩慢なプレー姿勢にはフラストレーションがたまりつづけました。あれほどの才能は、そうそうは出てこない。でも結局は、才能に溺れているだけ・・。サッカーは、攻守にわたってボールがないところで勝負が決まるのです。マラドーナではない限りネ・・。そのメカニズムを理解できず、汗かきプレーをしない「才能」たちは、私にとって、本当に残念な存在なのですよ。いつも書いているように、日本では、才能ある選手が大成しない「確率」は、フットボールネーションのケースと比べて何倍も高いと思います。それも、「サッカー文化の本質」を問われる現象なのです。フットボールネーションだったら、「前例を一般的に体感する確率が高い」ことで、身近な人々からの様々な心理的アプローチも機能するでしょうからね。

 「選手たちは勇気をもって仕掛けていかなかった・・」。記者会見での早野監督のハナシでは、その発言が耳に残りました。それで・・「早野さんにとって、攻撃での勇気とは具体的にどんなところに現れてくるのだろうか?」と質問した次第。悔しい敗戦の後にもかかわらず、早野さんは真摯に答えてくれましたよ。「例えば、右サイドを押し上げた・・がアウグストと対峙する。でも、勝負を仕掛けていくのではなく、結局は横パスに逃げてしまう。それは勇気をもって、失敗してもいいからチャレンジしていく場面なのに。そんなシーンに、勇気という心理ファクターが大きく絡んでいると思うのですよ・・」。しっかりと、サッカーという本物の心理ボールゲームのメカニズムを理解している早野監督。その通り。これからのサバイバル戦では、より深く、様々な心理ファクターの極限状態での強さが問われます。私にとって「降格リーグ」は大いなる学習機会なのです。

 さて、強いフロンターレ。次の相手は、浦和レッズじゃありませんか(埼玉スタジアムでのアウェーゲーム)。これは見逃せない。いまから楽しみで仕方ありません。
 

 



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