湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第12節(2004年11月6日、土曜日)

 

もっとレッズはシンプルな組織パスプレーも活用しなければ(レッズ対エスパルス、2-1)・・オジー・アルディレスのクレバーマネージメントと若手の成長がヴェルディーを生き返らせた(レイソル対ヴェルディー、0-2)

 

レビュー

 

 あ〜〜あっ、ホントに疲れた・・。いま帰宅してレポートを書きはじめたけれど、そう簡単にこの疲れが癒えるとも思えないから、とにかく短く簡潔にまとめよう・・。

 その度を超した疲れの背景には、こんなことがありました。さかのぼれば、数日前の水曜日。国立競技場でFC東京のジャーンが、前半29分に退場になったときのことです。それまでの展開は、たしかにレッズが押してはいるけれど、どうもゲーム戦術的にはFC東京の方がうまく機能しているというモノでした。ちょっとダイナミズムに欠けるレッズのサッカーにフラストレーションがたまっていたこともあって(要は、東京が展開する忠実なディフェンス戦術にレッズの仕掛けが上手く抑制されていた!)、そのタイミングでのジャーンの退場を目の当たりにした次の瞬間、こんな地獄のシナリオが頭をよぎったのです。「これは、もしかしたら大変なことになるかもしれない・・ナビスコ決勝は誰が見てもレッズが勝たなければおかしいという流れにはなったけれど・・あっと、そのことはリーグでも同じだよな・・ジェフとガンバが引き分けて、勝ち点差が7まで広がったから、もうセカンドステージはレッズもものだから・・でもそれは、もしかしたら地獄の落とし穴のフチにいるということかもしれない・・」。

 ヨーロッパも含め、私はこれまでに何度も、何度も、「結果は・・以外にない」とか「残されているのは理論的な可能性だけだ・・」という、経験則からすれば絶対といえる状況からの大ドンデン返しを体感しているのですよ。だからこそ、そんな地獄のシナリオが脳裏をよぎったというわけです。ナビスコ決勝では、案の定レッズが、何度も何度も決定機を外してPK戦へ突入して敗戦を喫してしまいました。「これはダメだ・・今日の神様はレッズには微笑まない・・多分このままゴールが決まらず、PKでレッズが惜敗するよ・・」。ナビスコ決勝のゲーム展開を観ながら、そんなことを、隣に座るジャーナリスト仲間に話したモノです。そして結局、「それ」が現実のモノになってしまった・・。

 そんなこともあって、このエスパルス戦のゲーム展開が、まさに「その地獄のシナリオ」を正確になぞっていると感じられたというわけです。たしかにチャンスは作り出すけれど、特に後半は、寸詰まりの仕掛けに終始し、どうもホンモノと言えるチャンスを演出できないレッズ。

 その背景には、ここのところの彼らが「個の勝負」を前面に押し出し過ぎているという事実もあります。観ているコチラも、仕掛けシーンに入ったら、まず何といっても、永井が、エメが、田中が、山田が、ドリブル勝負で「抜け出す」ことばかりをイメージしてしまうのです。そして、ハッと我に返り、「そうか、今のヤツらの仕掛けは、直線的な単独ドリブル勝負に偏りすぎているのか・・」という、最近のレッズの仕掛けに潜んでいるネガティブな構図を再認識したりするのです。

 前後分断の攻めという傾向・・。ナビスコ決勝レポートでも書いたけれど、前線選手たちの個の勝負能力が高く、それでうまくいっているから、チーム全体の仕掛けイメージが、どんどんと「そちら」へ偏りつづける・・対戦相手は、そんな偏ったレッズの仕掛けイメージを抑制するためのゲーム戦術(守備のゲーム戦術)を立てるわけだけれど、レッズの攻めに変化が乏しくなった分、対処が容易になる・・というわけです。「アイツ等は、前の三人だけで攻めている・・それもタテへのドリブル突破ばかりをイメージしている・・とにかくウェイティングで粘りのディフェンスをつづければ抑えられる・・」

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 この試合のレッズは、ナビスコ後半に変更した攻撃フォーメーションイメージでスタートします。エメルソンと田中達也のツートップに、山田暢久が二列目のシャドーストライカー(チャンスメイカー)に入る・・そして永井雄一郎が右サイドバックとして機能する・・。

 いまのレッズは、二つの攻撃フォーメーションイメージ(選手たちの基本タスクイメージ)を持っていると考えている湯浅です。一つは、この試合のスタートフォーメーション。そしてもう一つが、エメをワントップに、その後方で、前後左右に大きくポジションチェンジをくり返しながら、まず最前線ディフェンスからゲームに入ることで、前線に「ダイナミックな変化」を演出するというイメージのフォーメーションです。

 でも、相手ディフェンスブロックがより守備的にレッズの仕掛けを抑えようとした場合、ダイナミズムを演出するはずの「変化の胎動」が抑制され、特に後者の「スリートップ気味のフォーメーション」の場合、逆にこの三人が最前線のフタとして前線スペースを潰してしまう傾向も強くなるのです。アントラーズやマリノス、はたまたFC東京などは、レッズを、うまくワナにはめることができるチーム。相手の良さを消すゲーム(守備)戦術を忍耐強く機能させられるチームなのです。

 レッズは、もっと「組織パスプレー」を意識しなければいけません。要は、選手たちは、人とボールをより活発に動かすことを強く意識しなければならないということです。時に前線の選手たちは、まさに「停滞」と呼べるような後ろ向きの「ボール絡みプレー」で自滅していましたよ。

 私は、そんな自滅プレーをみせられるたびに、「山瀬の穴」を感じているというわけです。中盤選手たちは、もっと長谷部が「自由に上がれる」ようにイメージしなければならない・・彼が、後ろ髪を引かれることなく上がることが出来れば(次のディフェンスでのカバーリングがしっかりと機能していれば!)、確実に、前線での組織プレーイメージは好転していくはずです。この試合でも、攻守にわたってうまく機能していた山田暢久は、もっと「タテの歩ジョンチェンジの演出家」というイメージでもプレーしなければならなかったということです。そう・・もっと積極的に下がって中盤ディフェンスに参加し、逆に長谷部をもっと前線へ送り出すというプレイメージをもっと強くもってもよかった・・ということです。

 それにしてもよく勝った。まあこれでセカンドステージ優勝はかたいでしょう。だからこそここで、少し余裕ができたこの状況で、マリノスとの年間チャンピオンシップを睨んだ「仕掛けイメージの調整」を本格的にはじめなければならないと思っている湯浅なのです。フ〜〜ッ! 疲れてはいるけれど、やっぱり書きはじめたら止まらない・・

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 そして、書きはじめたら止まらない湯浅は、深夜にスカパーで放送されたレイソル対ヴェルディーも観戦することにしました。そしてすぐに創作意欲がかき立てられてしまう・・。前節でもレポートしたとおり、何せ、オジー・アルディレスのヴェルディーがホンモノの再生を遂げようとしているのですからネ。こちらのエンスージアズム(熱意とか意気込み)も天上知らずっちゅうわけです。

 ヴェルディー若手の成長・・。それは、ベテラン選手たちがまだ背負っている昔の体質から若手や中堅選手たちが脱却し、自分たちがコアになったダイナミックサッカーを展開できるようになったことを意味すると思います。まあ、ボール扱いの上手いベテランのネガティブな影響が排除されたとも言い換えられるでしょうかネ。ゲームペースを、自分たちがイメージする「ゆっくり」した足許パスを積み重ねるやり方でコントロールしようとするベテラン連中の呪縛。そこから解放された中堅&若手で構成する攻撃ブロック。そのサッカーは、まさにイメチェン。彼らもまた「解放」されたということでしょう。

 ボール扱いが上手い(クレバーな守備力も抜群の)ベテラン連中が、後方からのボールプロバイダー(パス供給役)に徹し、そこからタテパスを受けた若手&中堅選手たちが、自分たちが描くイメージをなぞるように、ダイナミックなペースで主体的に仕掛けていくという構図なのです。

 小気味よい人とボールの動き・・バックボーンは、もちろん労を惜しまないボールがないところでの人の動き(フリーランニングとパス&ムーブ!)・・以前は足許パスばかりが目立ったのに、今ではクリエイティブなスペースパスのオンパレードだから、まさにイメチェン・・また守備でも、ダイナミックな追い込みプレーと、クリエイティブなボール奪取プレーが、まさに有機的に連鎖しつづける・・あれだけ技術のしっかりした選手たちが労を惜しまずに走るのだから良いサッカーになるのも道理・・

 とにかく、やっとオジーの仕事が報われはじめたということでしょう。いや、もしかしたら、やっとオジーが、長年ヴェルディーが抱えていた「体質的な問題点の本質」とその解決法を見出したということなのかもしれません。

 技術がある「才能タイプの選手」たちは、監督にとっては、まさに麻薬。だらか、どうしても優先的にグラウンドへ送り出すことになってしまう。でも、局面プレーではなく、その選手たちの総合的なパフォーマンスが追いつかない場合、チームは大きなトラブルを抱えてしまうことになる。要は、そんなクリエイティブ能力の高い選手たちをしっかり「走らせる」ことができれば、おのずとサッカーの質が高揚していくということです。それが、才能のある選手がチームに参加してくることは、監督にとっての大いなる挑戦がはじまると言われる所以だということです。

 ここでいう「走るという行為」は、チームの目的を達成するために考えつづけ、そこでの決断に基づいて積極的に行動していくことを意味します。サッカーは、攻守にわたるクリエイティブなムダ走りの積み重ね。そのメカニズムが理解され、ポジティブに回りはじめれば、自然と良いサッカーになるのは道理。そのように組織メカニズムがポジティブサイクルに入ることを大前提にすれば、アウトプットとしてのサッカーの質は、選手たち個々の能力(才能レベル)に応じて高まってくる。だからこそ、個々の能力が高いヴェルディーは、大きな可能性を秘めているということです。

 来シーズンへ向けたヴェルディーの変身プロセス(発展ストーリー)に思いを馳せながら、そんなサッカーの原則的メカニズムについても考えていた湯浅でした。それにしても、いいネ、ヴェルディーは。オジー・アルディレスは来シーズンもつづけるのだろうか。いや、ここまでチームを引っ張ってきたのだから、つづけてもらわなければ困ります。ここで彼とクラブが袂を分かつことのなるとしたら、それは、あまりにも心残りじゃありませんか。頼みますよ、オジーさん。

 



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