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ナビスコカップ決勝・・あ〜あっ、またまた「神様マッチ」になってしまった・・(FC東京対レッズ、0-0、東京がPK勝ち!)・・(2004年11月3日、水曜日)

「この敗戦が、今後に(リーグに)どんな影響を及ぼすかって?・・悪影響なんてまったくないよ・・何せオレたちは、あれだけの決定的チャンスを作り出したんだからネ・・内容で完全に勝っていたから、選手たちが悪いイメージに苛まれるなんてこともない・・まあ、チャンスを決め切れなかったことについては心残りはあるけれど・・」。ギド・ブッフヴァルトの監督会見での弁です。

 まあ・・そういうことです。これで三年連続で決勝に進出し、二度敗れて、一度はチャンピオンにまで上り詰めた。そんなポジティブ&ネガティブ両方のプロセス体感こそが、彼らの勝者のメンタリティーを発展させるのです。負けはしたけれど、そこで得たモノも大きかった・・いや、負けたからこそ得られるモノがあったし、いまのレッズ選手たちだったら、そんな「負けたからこその何か」を掴めるに違いない・・。

 それに対しFC東京の原監督は、まさに得意満面の会見でした。レッズの攻め方は分かっていた・・彼らはカウンターが危険だ・・また多くの時間帯を前の三人だけで攻めている・・それで攻め切れないと見られたときにはじめて後方から押し上げてくる・・そしてそのことで後方ブロックのバランスが崩れる可能性が出てくる・・そこで出来る穴をねばり強く狙っていく・・この試合も、我々の粘り勝ちだった・・とにかく選手たちのガンバリを誇りに思うし、あれだけやってくれたのだから、PK戦で負けても仕方ないと思っていた・・それが優勝までしてしまったのだから・・等々。

 その話し方や内容からは、原監督のポジティブなパーソナリティーが放散されていたし、インテリジェンスも感じる・・。優れた監督に成長した原さんもまた非常に良い仕事をしているということです。ナビスコカップは、「ニューヒーロー」を生み出すことをコンセプトにしている大会だから、FC東京が「初タイトル」を取ったことは、まさにそのコンセプトにピタリと一致した結果ですよネ。昨シーズンのレッズも、そこから大きく成長したわけだし・・。その意味で、今回のナビスコカップも、日本サッカーの隆盛にとって(サッカー文化の浸透にとって)大成功だったと思っている湯浅なのです。素晴らしく魅力的なサッカーを展開してくれた両チームに大感謝!!

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 ところで、先日のジェフ対ガンバ戦の後、オシム監督と廊下で立ち話をしたことはレポートでも触れたわけですが、そこで私が・・オシムさんがサッカー内容を高く評価するクラブは、マリノスやレッズとか、ジュビロにアントラーズとか・・なんていう質問をしていた次の瞬間、「FC東京を忘れちゃいけない・・アソコは良いサッカーを展開している・・タレントも豊富だ・・だからナビスコの決勝はどうなるか分からないヨ・・」とおっしゃったのですよ。その高い評価のバックボーンまでハナシが及ばなかったのは残念だったけれど、まあ、彼が評価する高質な組織プレーのコンセプトイメージが「8人で攻めて10人で守れるチーム」ということからすれば、FC東京も、その視点でオシムさんから高く評価されているということでしょう。

 たしかにFCの原監督は良い仕事をしています。東京の強固でバランスの取れた守備ブロックは、レッズ得意の直線的で素早い仕掛け(カウンター気味の仕掛け)を機能させないなど、確実にレッズの良さを封じ込めていました。マークを受けわたしているにもかかわらず、勝負所では、確実なタイトマークが仕掛けられていましたしネ。要は、このチームにも主体的な守備意識がしっかりと根付いているということです。まあ前半では一度だけ、カウンター気味のタイミングで決定的スペースへ出たスルーパスが、走り込むアレックスにピタリと合わされた決定的ピンチはあったけれど(FC東京ディフェンスが完璧に崩されたシーン!)、それ以外では、レッズ選手たちの「ボールがないところで動くことに対するモティベーション」を減退させてしまうような効果的な抑制ディフェンスが機能していました。決してこれは、単に人数をかけた強化守備ということではなく、あくまでもクリエイティブな守備チーム戦術のタマモノです。

 そんな創造的で強固な守備イメージは、前半と後半の立ち上がり時間帯までは素晴らしく機能していました。ジャーンが退場になったにもかかわらず・・です。レッズは、足許パスのオンパレードといった体たらくでしたよ(東京にディフェンスにやられまくっていた!)。

 でも後半の8分に、東京のケリーがケガで治療されている最中に、ギドが、永井と山田をピッチ際まで呼んで何やら指示をしたところからレッズのプレー内容が格段に好転していくのです。そうです。永井を右サイドにコンバートし、山田を二列目に移動させたのです。

 要は、人とボールの動きが停滞「させられて」しまっている状況を打開するために、中盤センターの高い位置に、ボールの動きを活性化させるための中継ポイント(=山田暢久)を入れたということです。山田には、ボールのデバイダー(シンプルパスでボールの動きを活性化するマネージャー)とか仕掛けコンビネーションのコア、ボールのないところでの汗かきフリーランナーとか守備での爆発チェイサー&チェッカー等々、攻守にわたって全力で仕事を探しつづけるという積極プレーの実績もありますからネ。

 リーグ第10節のアントラーズ戦では、エメのワントップに、田中と永井のダブルシャドーという布陣で成功をおさめました。そこでの田中と永井に対するギド・ブッフヴァルトの指示のプライオリティーは、アントラーズの守備的ハーフコンビ、フェルナンドと中田浩二の後方からのゲームメイクと後方からの飛び出しをしっかりと抑制するというディフェンスにありました。守備こそが、全てのスタートライン。だからこそ、彼らのポジショニングも縦横無尽で変幻自在というポジティブなものになったし、そこからの仕掛けにも素晴らしいパワーが表現されたというわけです。

 そして次のセレッソ戦でも同じ「基本タスクイメージ」で成功したレッズは、この試合にも同じコンセプトで臨んだというわけです。でも東京はフォーバックだし、この三人を抑えるという東京の守備イメージがレベルを超えていたから、徐々に彼らの足が止まり気味になって心理的な悪魔のサイクルにはまり込んでいったというわけです。だからそ三人は、まさに「最前線のフタ」にまで成り下がってしまったというわけです。

 そんな八方ふさがりの状況を打開するために、選手たちが成功イメージを持っている「もう一つの基本ポジショニングセット」に変更したというわけです。それが殊の外うまく機能しはじめた。

 キッカケは、後半10分にエメルソンが演出した爆発カウンター場面でしたかネ。ラストパスを受けた永井が放った決定的シュートは、この試合では明確な「神様のメッセンジャー」になっていた東京GK土肥洋一に阻まれてしまったけれど、そのチャンスをキッカケに、また山田がセンターゾーンへ移動したことをキッカケに、レッズの攻撃に、レベルを超えたパワーが出てくるようになったのです。要は、人とボールが格段に動きつづけるようになったということです。

 だから私は、原監督の「レッズはカウンターだけ・・」という発言にはアグリーできません。たしかにここのところのレッズは、中盤の高い位置でボールを奪い、そのまま前線へパスを供給することで直線的に仕掛けていく傾向が強くなっていました。エメに田中、それに永井のトップスリーが演出する仕掛けコンテンツがあまりにも素晴らしかったから、後方の選手たちが絡んでいく必要もなかった・・それがうまく行かなくなったときや、レッズが先制ゴールを挙げた後などに、より人数を掛けた組織プレーが出てくる・・(ここまでは原さんの言うとおり)。ただ、後半から延長にかけてレッズが魅せた攻撃は、まさに組織コンビネーションでした。

 人とボールがよく動く組み立て・・組織パスプレーと単独ドリブル勝負が高い次元でバランスした仕掛け・・等々、その仕掛けコンテンツは、決して、前線の三人だけによるカウンター・・というものではありません。それとは全く別物の、互いの仕掛けイメージが有機的に連鎖しつづける高質なコンビネーションだったのです。だからこそ、田中や永井、エメルソンや山田、はたまた後半途中から交代出場し、攻守にわたって、これ以上ないというほどの素晴らしいパフォーマンスを披露した平川たちがチャレンジする「個の勝負プレー」にも格段の勢いがついたというわけです。

 とにかく今のレッズは、ダブルシャドー(セカンドストライカー)と、山田暢久の二列目という二つのオプションを持っているということです。

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 まあ、ゲームの実質的な内容からすれば、東京にはツキがあった(レッズはツキに見放された)という見方もできるけれど、私は、一人退場になったにもかかわらず、最後の最後まで、忠実でダイナミックな守備を主体的に実行しつづけ、全力で守りきったFC東京の闘いぶりに対し、心からの拍手を送りたいと思います。何度も何度も決定的なカタチでクロスを入れられたにもかかわらず、中央ゾーンでのマークがズレることなく、確実に身体を寄せたディフェンスができていた・・それはもう素晴らしく感動的なディフェンスだった!!

 原さん、FC東京のファンの皆さん、初タイトル、本当におめでとうございます。これで来シーズンは、(心理・精神的に!)一皮剥けたFC東京も、本当の意味でリーグを盛り上げる主役になること請け合いじゃありませんか。

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 さて明日は、(バルセロナ、レアル、バイエルン、ミラン、インテル等々)チャンピオンズリーグをレポートする予定です。

 



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