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2011_女子WM_6・・素晴らしい組織サッカーをブチかましたオーストラリア・・(ブラジル対オーストラリア, 1:0)・・(2011年6月29日、水曜日)

・・やっぱりサ・・これはワールドカップなんだよ・・

 ・・そう、世界一を決める頂上トーナメント・・国の威信をかけた闘い・・だから、試合前の国歌吹奏のときだけではなく、互いの強烈な意志のぶつかり合いも含めた、ものすごく濃いゲーム内容にも深い感動を覚える・・そして思った・・やっぱり来てよかった〜〜・・

 ところでドイツの気候。この二日間、場所によっては35度を超えるという猛暑に見舞われた(もちろん今の日本に比べれば甘っちょろいけれど・・)。特に、湿度の高さには参った。そんな自然条件がサッカーに及ぼす影響の大きさは、推して知るべし・・なのだ〜。

 それが、今日からは、最高気温が20度前後と(また湿度も60%前後)、うって変わって秋の気配なのです。昨日は半袖のポロシャツ一枚だったのが、今日は革ジャンまで着込んでいる。

 そんななかではじまったブラジル対オーストラリアの勝負マッチ。これまた、ものすごく興味深いテーマがテンコ盛りだった。

 ブラジルは、やはり、どちらかといったら「個の勝負」を前面に押し出して仕掛けていくというイメージが強い。そのリーダーは、言わずと知れた、ブラジルが誇るストライカー、マルタ。信じられないほど鋭いスプリント力、軽快でスキルフル、そして正確なボールコントロールなどなど、世界のスーパースターの名に恥じない、素晴らしい才能ではあります。

 でも、そんな素晴らしい個の才能が、様々な意味合いで、「諸刃の剣」という現象の元凶になってしまっている。そう、ブラジル攻撃では、「組織プレー」がうまく機能しないのですよ。

 ・・足許パスをつなぎ、ある程度フリーでボールをもったら、そこから「まず」ドリブルで突っ掛けていく・・最初のタッチがうまくいったら、もう、最後の最後までドリブルで突き抜けていこうとする・・もちろん、ドリブルで相手ディフェンスを引きつけられたら(別なゾーンにスペースを作れたら)、そこから一発ラストパス(もちろん最終勝負ドリブル&シュート)や一発クロス(ニアポスト勝負のダイレクトシュートなど)で最終勝負をブチかましていく・・

 ・・そんな仕掛けの流れだから、組み立ての段階でのボールがないところでの動きが沈滞するのも道理だよね・・ブラジルの組織(パス)プレーは、とても単純で単調だったということ・・

 ・・まあ、ボールを動かそうにも、ボールがないところでの動きの量と質が十分ではないから(パスの可能性が限られてしまうから)、オーストラリア守備ブロックも、余裕をもって対処できる・・ブラジル選手のボールなしの動きは、ワンツーのフリーランニングくらいで、3人目、4人目の動きは、ほとんど見られない・・

 そんなブラジルに対し、オーストラリアは、本当に素晴らしいサッカーを展開した。守備においても・・攻撃においても・・

 まあ・・ネ・・オーストラリアのセルマーニ監督は、ブラジルの「やり方」を明確に把握し、効果的に対抗できるゲーム戦術を駆使したということだね。「個」を前面に押し出す攻撃への対処・・また、マルタや、その他の選手の「局面での個の勝負プレー」をしっかりとイメージトレーニングし、それに対抗するアイデアをチームのなかでしっかりと共有する・・。

 ブラジルのリーマ監督が言っていたけれど、オーストラリアのセルマーニ監督は、古狸としても知られているらしい・・あははっ・・

 とにかく、オーストラリアは、ものすごく忠実でダイナミックな強力ディフェンスを展開した。そしてボールを奪いかえしたら、素早く広い人とボールの動きをベースに、どんどんブラジル守備ブロックのなかにあるスペースへと突っ掛けていった。

 全体的なチャンスの量と質を考えれば、シュートに至るまでのプロセス内容では、明らかにオーストラリアに分があった。でも、シュートがネ・・

 一点を追いかける最後の時間帯。オーストラリアは、11番の「突貫娘」デ・ヴァンナの飛び出しに、何度もタテパスがピタリと合うなど、本当に素晴らしいチャンスを作り出した。でも、最後のシュートが、まさに稚拙の限りだった。バーを大きく越えてしまったり、ボールが、力なくブラジルGKの正面に転がったり。

 観ているこちらは、オーストラリアが展開した素晴らしい組織サッカーに魅せられたから、彼らをサポートしていた。それは、観客も同じだったに違いない。デ・ヴァンナのシュートがミスになるたびに、スタジアムは、大きな溜息に包まれたモノです。もちろん私も、「フ〜〜ッ」・・

 記者会見だけれど、セルマーニ監督には、こんな質問を投げかけてみた。

 「オーストラリアは素晴らしくアップテンポな組織サッカーを展開した・・でも、もし今日の天候が昨日のような猛暑だったらどうだろうか・・そのときは、別なゲーム戦術を駆使しただろうか?」

 ちょっと微笑んだセルマーニ監督が、「たしかに、昨日のような天候だったら、サッカーが全体的にスローダウンするよね・・とはいっても、基本的なチーム戦術的なやり方は変えなかったし、今日のような優れたサッカーを展開できたと確信するよ・・」ってな内容をコメントしてくれた。

 またブラジルのリーマ監督には、「先ほど、オーストラリアのセルマーニ監督は、とても経験豊富なグッドコーチだと言われた・・たしかに、その言葉どおり、セルマーニ監督は、クレバーなゲーム戦術をうまく機能させた・・でもそれは、ブラジルが、マルタに代表されるように、あまりにも個の勝負を前面に押し出し過ぎたからだと思う・・これから進化していくために、またブラジルの個の才能を活かすためにも、もっと組織プレーを機能させるべきだとは思わないですか?」ってな内容の質問を投げた。

 それに対してリーマ監督は、ちょっと頷きながら、「そう・・我々は、もう少し効果的なパスを回せるようにならなければいけない・・マルタの才能にしても、ボールが走れば、もっと効果的に光り輝くはずだからね・・」ってな内容をコメントしてくれた。フムフム・・

 今日もまた、とても興味深いテーマと対峙できた。それも、これも、発展途上の女子サッカーだから・・というバックボーンがあることを誰も否定できないでしょ。

 それにしても、やっぱり「ワールドカップ」だ。そのことを体感し、再認識できただけでも、ものすごくハッピーな筆者なのでありました。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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