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2011_アジアカップ・・「その後」に気付いたいくつかのテーマ・・(2011年1月31日、月曜日)

それにしてもザッケローニは、優れた仕事をしてくれた・・

ということで、この 「その後コラム」は、まずアルベルト・ザッケローニというテーマから入ることにします。

 わたしは、ドイツのプロ現場における(内部)情報として、現在ドイツ代表のチームマネージャーに就いているオリヴァー・ビアホフが、ザッケローニをとても高く評価していることを知っている。両者は、ウディネーゼやACミランで、選手と監督の関係にあったわけだけれど、ドイツの現場で、敢えてイタリア人監督に言及するのだから、まあ、本音の評価ということなんだろうね。

 昨年のパラグアイ戦(そのときザッケローニは、まだベンチ外)からこれまでの言動や、実際の日本代表のサッカー内容、また全体的なザッケローニの采配といったグラウンド上の現象を観察する限り(もちろん私は外様だから、実際に現場で起きていることについては=体感として!=知る由もないけれど・・)、オリヴァー・ビアホフによる「ザッケローニはとても優れたコーチ・・」という評価は、その言葉どおりに受け取ってもいいと思えてきます。

 昨日の決勝戦。オーストラリアの(ホルガー・オジェックによる!)仕掛けイメージは、昨日レポートしたように、うまく統一されていた。そして日本代表は、まさにオーストラリアの仕掛けイメージそのままに、何度もピンチに陥った。そんなシーンを見せつけられた日本サポーターの誰もが、繰り返しフリーズさせられた。

 それに対して、後半ザッケローニが動く。「オーストラリアの高さ」という切迫した問題を解決するために、「韓国戦の面目躍如モティベーション」に燃える岩政大樹を投入し、同時に、マイティーマウス(日本のロベカル)長友佑都の基本ポジションを一つ上げたのです。そして、その采配が(もちろん李忠成の投入も含めて!)ピタリと的中した。

 とはいっても、ちょっと厳しい言い方をすれば、前半から、オーストラリアの仕掛けイメージは明白だったわけだから(前半の絶対的ピンチで失点していたら取り返しがつかなかったかもしれないという冷静な評価も含め!)もっと早めに対処しなければならなかったかも・・なんていう見方が出来ないこともない。まあ、それもまた結果論にしか過ぎないわけだけれど。フムフム・・

 ザッケローニについてだけれど、私が、彼についてちょっと誤解していたということも、正直に書かなければならないと思います。要は、わたしの脳裏に深く刻み込まれている「イタリアサッカー」という呪縛イメージ(先入観)をベースに、安易にも、ザッケローニが志向するサッカーを推し量ってしまったということです。

 「イタリア人監督だから、守備的なチーム戦術を前面に押し出すと考えられがちだろうけれど、これで、イタリアにも、しっかりと攻撃的なサッカーをリードできるプロコーチがいることを知っていただけたものと思う・・」

 そんなニュアンスの、ザッケローニのコメントが、全てを物語っている。いいね・・

 ・・世界との最後の僅差を縮めていかなければならない日本・・それでも、まだまだ個のチカラでは、世界に大きく後れを取っている日本・・

 ・・だから、日本の生活文化的なポジティブ面を存分に発揮するという意味合いからも、まずは組織プレーに磨きをかけていかなければならない・・そのチーム戦術を基調に、徐々に個の勝負も、勇気をもって効果的にミックスしていく・・そして、「世界」へ向かう継続的な発展プロセスを加速させていくためにも、より積極的に、そして攻撃的に、リスキーなプレーに「も」チャレンジしていかなければならない・・

 そんな発展ベクトルを着実にトレースしていかなければならない日本代表が、(世界中で一般的に考えられている・・)イタリア的な、安定確実志向の戦術サッカーに傾注していったら・・。そのことを考えただけで身の毛がよだったモノでした。でも実際は・・

 今回のアジアカップは、それが本物の勝負の場であったからこそ、日本代表チームにとって、ものすごい価値を内包した「発展機会」になっただけではなく、私にとっても、ザッケローニに対する「安易な誤解」がクリアされたことで、今後の活動に対するモティベーションが俄然アップしたという、とてもハッピーな大会になりました。

 もう一つ、ザッケローニの優れたパーソナリティーを示すエピソードとして、選手との「指先のフィーリング」にあふれた効果的コミュニケーションなども話題になっていた。とてもポジティブなことだと思います。要は、ザッケローニが、学習能力に優れた人物(インテリジェンスあふれるグッドパーソナリティー)だということだね。

 とはいっても、現場では、アメとムチ(様々なタイプの刺激)がしっかりとバランスした「心理マネージメント」も、着実に推し進められているはず。もちろん、監督や選手のパーソナリティーによって、「アメとムチの振幅」に大きな差が生じてくるモノだけれど、結局のところ、そんな心理マネージメントにしても、絶対的な正解は存在しないというのが定説なんだよね。

 とにかく監督には、千差万別の環境や状況に応じ、臨機応変に効果的な心理マネージメントを推し進めるための優れたインテリジェンスとパーソナリティー、そして「正しい人間性」が求められるということですかね。まあ・・難しいネ。

 わたしは、座右の銘として、「ダブルH」と「二つのコトを知る」を心がけています。まあそれは、日本の伝統的な生活文化バックボーンとも言える!?

 ダブル「H」は、英語で「Humble」と「Honest」。要は、謙虚で誠実な生活態度という意味合いです。そして、足るを知り、恥を知る。それさえ常に心がけていれば(いまの自分が十分に出来ているっちゅうコトじゃないよ・・念のため!!)、哲学的な方向性に間違いはないと思っているわけです。

 でも、そこは狩猟民族のスポーツであるサッカーだからネ。そんな「ベーシック」から外れることなく、それでも必要に応じて、賢い狡(ずる)さをも内包する極限の自己主張をブチかましていかなければならないのですよ。

 わたしは、そのテーマについて、「サッカーに必要な二面性パーソナティー・・」なんていう表現を編み出した。

 その要素(組織と個のハイレベルなバランスという方向性!?)では、明らかに日本は、世界でも指折りのアドバンテージをもっている!? 何といっても、サッカーの絶対的な基本はパスゲーム(≒協調性や自己犠牲精神!?)なんだからネ。 何か・・分かる気がするでしょ!?

 ということで、ザッケローニのパーソナリティーには、何らかの日本的なニオイ「も」感じられる・・ということが言いたかった筆者なのでした。

 日本の心理・精神環境は、多分ザッケローニにとっても心地よいモノに違いない!? フムフム・・

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 さて次は、この時点でのアジア勢力図というテーマ。それは、昨日のコラムでも書いたし、皆さんも実感として受け容れざるを得なかった「事実」のことです。

 そう・・、韓国とオーストラリアが、日本に比べて、まだ少しだけ「一日の長」を確保しているという事実のことです。

 たしかに日本代表は、ミッドフィールドにおける組織プレー(人とボールがよく動くコンビネーション)ベースの「構成力」では、この二か国と比較しても、優るとも劣らない(実際には、アドバンテージを確保している!?)かもしれない。要は、人とボールを動かしてスペースを突いていくという組織パスプレー(コンビネーション)イメージと、そのシンクロレベルのことです。

 それでも、攻守の本当の目的を達成するための「局面でのギリギリの実効プレー」という意味合いでは、どうだろうか・・

 ボールを奪い返す(スペースを攻略させない・・一対一で抜かれない・・シュートをさせない等々)といった守備の目的を達成するプレーの「ギリギリの量と質」・・また、シュートを打つという攻撃の目的を達成するプレーの「ギリギリの量と質」・・

 その視点で・・、まあ限りなく、心理・精神的な要素である「意志のチカラ」というテーマに関わってくるわけだけれど、そのポイントで、まだまだ韓国とオーストラリアに「一日の長」があると感じているわけです。

 AFCの「2011アジアカップ」サイトに、「Statistics」という情報が載っているページがある。そこで、ベストフォーに残った4チームを比較してみたら面白い。

 シュート総数では、オーストラリアと韓国が、日本とウズベキスタンを明確に凌駕している。それでも、「シュート・オン・ターゲット(枠内シュート数)」では、その二か国との差が大きく縮まるのですよ。まあウズベキスタンは、その両方で低いけれど・・。

 その意味合いは、もちろん、日本選手たちのシュートを打つことに対する「意志」が、依然として足りないということです。拙著、「日本人はなぜシュートを打たないのか?(湯浅健二著・・アスキー新書)」をご参照あれ・・なんてネ・・スミマセン・・あははっ・・

 それでも日本は、(組織的なチャンスメイクの象徴である)アシストではトップなんですよ。要は、日本の課題は、依然として「個の意志=自己主張」にあり・・もっと言えば、彼らの組織と個のバランスが、まだまだ「組織」に偏りすぎている・・ということなんだろうね。

 とはいっても、日本代表にも、世界でも通用するくらいの爆発的な個人勝負プレーをブチかましていける「個の才能」がいる。その代表格が、本田圭佑であり、長友佑都ということだね。

 この試合での本田圭佑は、まだまだ、良いプレーと(忠実汗かきをサボるような)悪いプレーの「振幅」が大きかったとはいうものの、何度か、効果的なタメや勝負ドリブルなど、持てる天賦の才が光り輝いた(他のチームメイトには出来ない!?)シーンも演出した。もちろん、ドリブル勝負という視点じゃ、長友佑都も素晴らしいパフォーマンスを披露した。とにかくこの二人には、リスク(失敗)を恐れない積極的なチャレンジ精神がある(鈍感力!?・・それは生まれつきのモノか!?)。

 とにかく、少なくともこの二人には、彼らの才能を本当の意味で開花させるために、リスキー勝負へ積極的にチャレンジさせつづけなければいけない(才能を開花させるための機会を与えつづけなければならない!)。もちろんザッケローニも、そのメカニズムを深く理解しているからこそ、この二人には、的確な(刺激的な!?)アドヴァイスを発信しつづけていると聞いています。

 ペーター・ドラッカーも言っているように、組織パフォーマンスを最大化するためには、まず何といっても、構成員一人一人の「ポジティブな特性」を、最大限発揮させられるように組織をマネージすることです。要は、実力が「それ」に見合ったモノであるのならば(その見極めこそが監督のタスク!)、彼らがやりたいと思っていることを、全ての「ブレーキ&マイナス要素」を排除することで、最高の効率で実行していけるように組織をマネージするということです。

 そうすれば、彼らの「やる気」は高揚しつづけるはず(より大きな幸福を感じられるようになるはず!)。そして、それに伴って組織パフォーマンスも、自動的にアップしていくというわけです。

 もちろんそこでは、「自由と義務」の根源的なメカニズムに対する深い理解も必要になってくる。要は、攻守にわたる汗かきハードワークこそが、全ての基本ということだけれど、選手にしても、自分がやりたいプレーが出来ると分かっているならば、そんな厳しい汗かきハードワークにしても、楽しみの一環になるかもしれないわけです。

 ドイツサッカーの父と慕われた故ゼップ・ヘルベルガー。このスーパーコーチが、生前、こんなことを言った。

 最高なのは、終わったとき、選手たちが、笑いながら(疲労で)ブッ倒れてしまうようなサッカー(トレーニング)なんだよ・・

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 また何か気付いたら、その都度コラムをアップすることにします。ということで、今日は、こんなところで・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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