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2007_アジアカップ・・結局、サウジの「個」にやられてしまった日本代表・・(日本 vsサウジアラビア、2-3)・・(2007年7月25日、水曜日)

「明日の試合は、コントラディクショナルな(真っ向から相反する)サッカーが対決するという構図になるはず・・その視点で観たら面白いでしょう・・サウジは、とことん個人のチカラを積み重ねながら仕掛けてくるだろうし、対する日本は、あくまでも組織的に人とボールを動かすコレクティブなサッカーで対抗していく・・個人勝負と組織プレーが対峙する・・面白くなりますよ・・とはいっても私は、日本の組織プレーがサウジアラビアの個人プレーを凌駕すると思っていますけれどね・・」

 昨日のランチタイム、両チーム監督に対する公式記者会見が、チームが投宿するホテルで開催されました。それが終了した後、中東のアルジャジーラ・テレビからインタビューされたのですが(記者会見では英語で何度も質問したし、記者からの質問にも丁寧に答えたから、是非インタビューをということになった次第・・もちろん受け答えは英語です)、それに対して冒頭のようなコメントを述べたというわけです。

 ゲームの内容は、まあ、そのコメント通りに立ち上がったといっても間違いじゃないでしょう。個と組織の闘い・・それも、前半のゲーム展開で日本が完全にサウジアラビアを凌駕していた・・というところまではね。

 それにしても、立ち上がりに日本が魅せたサッカー内容には、本当に素晴らしいモノがありました。まあ、サウジが守備的に立ち上がったということもあったけれど、それにしても、完全にゲームの流れを牛耳っていただけではなく、しっかりとサウジ守備ブロックのウラスペースも突いていけていた。

 そんなハイレベルな攻撃が機能していた背景には、もちろん素晴らしく組織的なディフェンスがありました。チカラまかせのパワーサッカーを効果的に抑制してしまうクレバーな組織ディフェンス・・。

 ボールホルダーに対する忠実で素早いチェイス&チェックを基盤に、相手を粘り強く追い込みながら制限された状態でパスを出させ、次のパスレシーバーに集中して(組織的に)ボールを奪い返してしまう。そんなボール奪取勝負プロセスが、本当に素晴らしく機能しつづけていたのですよ。

 その機能性は、サウジに偶発的な先制ゴールを奪われた直後には勢いを大きく増幅させる傾向まで魅せていた。ただ勝負のプロセスは、そんな戦術的な(ロジックな)ゲーム展開とは関係なく、神様の仕切りで進行していくのですよ。サウジの先制ゴールの1分後には、(日本の仕掛け内容の高揚プロセスとは違うところで)遠藤のコーナーキックから中澤が同点ヘディングシュートを叩き込んでしまうのです。

 例によって最終勝負ポイントを「空けて」おき、そのスポットへ遠藤がピタリのクロスを上げ、最後の瞬間、飛び出してきた相手GKの眼前を(GKがボールをキャッチする直前!)青い影が横切った・・というわけです。素晴らしい同点ゴールでした。

 そのとき私は、こう思っていた。「これで二度目だ・・ベトナム戦での同点ゴールとこの同点ゴール・・間髪を入れない同点劇は本当にラッキーだ・・時間が経てば、確実に心理的なストレスが大きくなってくるから・・」ってね。

 その後は、またまた立ち上がりと同じような(日本が主導権を握るという)展開になっていく。ただそこで私は、ゴールという刺激がもたらしたに違いない「微妙な変化」も感じ取っていました。特に、サウジアラビア。彼らがチャレンジする個のドリブル勝負に、(日本には御しきれない!?)勢いが乗りはじめたと感じたのです。

 要は、日本の守備陣が、局所的に、サウジの個人プレーのキープ&ドリブルに振り回されるシーンが出てきたということです。ホントに微妙な変化ではあったけれど、それまでは、まったくといっていいほどサウジに展開プレーを許さなかったのに、徐々にサウジも、フリーな味方へボールをつなげるようになっていっただけではなく、ドリブルでも局面を打開できるようになっていった。

 それは、ちょっと危険な兆候。局所的な勝負で負けが込んできたら、相手に自信をもたせるだけではなく、日本選手も焦りはじめるだろう・・焦って安易なアタックを仕掛けたら、確実にヤツらの術中にはまって振り回されてしまうに違いない・・。

 そして後半、そんな心配が現実のものになりはじめるのですよ。まず後半立ち上がりの1分にサウジが勝ち越しゴールを挙げるのです。それは本当に見事なゴールでした。

 右サイドで17番からのスルーパスを受けた15番が、ダイレクトで素晴らしいクロスを上げ、それに9番のマレクが飛びついてヘディングを決めたというスーパーゴール。この9番のヘディングは、高さといいパワーといい、本当に驚異的です。そのことも、サウジ選手たちに、「オレたちは日本を凌駕できる武器をもっている」という自信を持たせたのかもしれない。

 後半8分には、阿部が再び同点となるオーバーヘッドシュートを成功させたけれど、その3分後には、再び9番のマレクが単独ドリブルで阿部と中澤を翻弄し、飛び出してきた川口の脇を抜けるアウトサイドキックのシュートを決めてしまうのですよ。サウジ選手たちは、確実に、自分たちが持つ「武器」の実効レベルを体感しはじめた・・。

 そしてその後は、ゲームの立ち上がり(まあ前半を通して)に日本代表が魅せていた、攻守にわたるハイレベルな組織プレーが影をひそめてしまうのです。ボール奪取勝負を「急ぎすぎる」日本代表。ボールを持つサウジ選手が待つ構えている「タイミング」でボール奪取のアタックを仕掛けるものだから、簡単に逆を取られて置き去り成ってしまう。前半のように、もっと粘り強いウエイティングでチャンスを待ち、数的優位の協力プレスを機能させなければならないのに・・。

 また攻撃でも、(ゆっくりとしたキープから急激にテンポアップする)仕掛けの流れがはじまっても、どうも選手の足が止まり気味になっている。そのことで、どうしてもパスを読まれて、相手の「長い足」に引っかかってしまうのです。何度、エッ!?とビックリするようなミスパスを目撃したか。それは、日本のミスパスというよりも、サウジ選手にパスを読まれてカットされたと言った方が正確かもしれません。

 そして時間の経過とともに、疲れだけではなく、心理的なストレスも溜まっていく・・。たしかに最後の時間帯では効果的なパワープレーで同点の可能性を感じさせてはくれたけれど・・。

 この試合では、サウジの「個のチカラ」を出させない(機能させない)というアイデアが絶対的なベースでした。それが、前半では素晴らしくうまく機能していた。でも途中から、組織的なディフェンスがうまく回らなくなった。その要因は、協力プレスに対する運動量の低下・・チェイス&チェックやマーキングの減退・・局面勝負での我慢の足りない安易なアタック・・などといったことを挙げることができるだろうね。

 また、それに伴って攻撃での人とボールの動きもうまく機能しなくなっていった。もちろんそれには、サウジ守備プレイヤーの個のチカラが素晴らしかったこともあります。ウズベキスタン戦でのサウジ守備は、フラットラインがズタズタに破られたシーンが連続したけれど、日本戦では、ギリギリのところで持ちこたえていたし、1対1の勝負では、やはり強かった。

 まあ・・仕方ない。ものすごく悔しく、残念な気持ちで一杯なのだけれど、とにかく心にムチ打ち、いまこの時点で考えるところだけは記録しておかなければとキーボードに向かった次第でした。乱筆、乱文、失礼。

 わたしは、明日の朝には、クアラルンプール経由でジャカルタへ移動します。日本対韓国の三位決定戦がおこなわれる「パレンバン」には試合の当日(28日の土曜日)に入る予定。そして29日にはジャカルタに戻り、そのまま「サウジアラビア対イラク」の決勝戦を観る予定です。フ〜〜・・・・・・。ということで、今日はこんなところです。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」をご参照ください。
 




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