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ヨーロッパの日本人・・今週は中田英寿と高原直泰・・(2004年2月9日、月曜日)

さてヨーロッパの日本人。今週は中田英寿から。

 完全休養先(インド&タイ)でも、リーガエスパニョーラやプレミアリーグ、はたまたセリエやブンデスリーガまで、様々なサッカーを観戦できました(でも、やはりまだプレミア中心である構図に大きな変化なし!)。だから中田ボローニャが、ホームでミランに負けたこと(0-2)も知っています。ちょこっとだけ映像も見ることができたのですが、ミランの仕掛けばかりが目立っていました。もちろんダイジェストだから良いシーンのピックアップだけですが、そこでミランの存在感がボローニャを凌駕していた。良い攻撃シーンとは、個人の身体・技術・戦術レベルから、イメージシンクロレベル(戦術的な共通理解のレベル!)まで、とにかくありとあらゆる「プロセス」の集大成のことですからね、ミランの実力が上回っているということです・・。

 強いチームとの対戦は、様々な意味での学習機会であり、深いチーム・コノテーション(言外に含蓄される意味)の観察機会でもあります。だからこそ見たかったですよね、全体的なゲームの流れを・・。たしかにミランに「実質的なペース」を握られているボローニャだった(?!)にせよ、中田英寿を中心に、仕掛けへの積極マインドを収縮させることなく、最後の最後まで攻守にわたるリスクにチャレンジしつづけた・・なんていう実質的な構図だったに違いない・・なんて思っている湯浅なのです。あっと、実際に見てもいないのに語っちゃったりして・・あははっ。

 さてウディネーゼとのアウェー戦。とにかく素晴らしい出来でしたよ、中田英寿は。そんな中田の高質プレーを見せつけられたからこそ、ミラン戦の中田も見たかった・・なんて強く思ったというわけです。しつこくてスミマセン。とにかく、攻守にわたる積極プレーマインドの放散と、実際の実効プレーのオンパレードに、やはり中田は日本代表の絶対的なリーダーだ・・彼さえいれば、(昨日の)藤田や小笠原のプレーも何倍も活性化したに違いない・・なんて感嘆しきりの湯浅でした。

 ボールがないところでの鋭いイメージ構築プロセスが素晴らしい・・止まっている状態でも無為な様子見がない・・。とにかく、常に何らかの「状況判断と次のプレーに対する意図」が彼のアタマを駆けめぐっていると確信させてくれます。それに対し、一昨日の日本代表の中盤は無為な様子見のオンパレード。パスが来なくても、ボールがないところでの仕掛けプレー(仕掛け&刺激のフリーランニング!)をつづけなければゲームを活性化させられるはずがありません。そんな小さく目立たないプレーの積み重ねが全体的なプレーコンテンツを高めていくのですよ。相手(マレーシア)の実力に合わせた低級プレーをつづけていても何かを得ることなどできるはずがない。日本代表の選手達が(相手が弱いことで)気を抜いても大事には至らないというイージーな心理に陥っているのは一目瞭然でした。

 様子見が悪いと言っているのではありません。どんな選手でも「考える時間」は必要ですからネ。それでも、次々と浮かんでは消えていく「攻守にわたるプレーイメージ」をどんどんと掴んでいく(実行に移していく)のではなく、アクションを起こさずに受け身の観察者になってしまうのがいけないと言っているのです。そんな傍観行為がくり返されている状態を、私は「無為な様子見」と呼んでいるというわけです。

 様子見状態から、ちょっとでも「次のプレーイメージ」が浮かんだ瞬間に身体が動くという条件反射的なプレー姿勢を心がけていなければ(アンティシペーション=予測・予想プレーの心がけ!)、結局は、誰もが反応できるような明確な絶対的チャンスに「しか」アクションを起こせなくなってしまうということです。そして無為な様子見状態の占める時間が長くなって低級プレーに終始してしまう・・。

 一昨日のフル代表マレーシア戦について、そんな不満がつのっている湯浅なのですよ。あんな高質な才能に恵まれているのに・・。

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 さて、素晴らしいプレーをつづける中田英寿。ボローニャでも中盤の王様です。それも「こんな」短い期間で王位についてしまうなんて・・。彼は、サッカーファンにとってだけではなく、「チームメイト達にとっても」スターなのですよ。このことについては、拙著「サッカー監督という仕事(新潮社)」でも書いたわけですが、チームメイト達にとっての「実効スター」になることこそが「ホンモノ」の条件だということです。そう、中田英寿やドゥンガのようにネ。

 ところで「サッカー監督という仕事」ですが、先日、「文庫本化」が決まりました。6月あたりの出版予定だそうです。まあ、それとは別に本執筆のハナシは色々とあるのですが、どうも次の段階へ進むための助走が足りないこともあって(?!)創作意欲が湧いてこない現状ですから、そのなかでの文庫化のハナシは(何かをカタチに残しておくという意味でも)有難いことこの上ありません。本の執筆については、新作は「前」を超えるモノじゃなければ意味がないから、そのためにも、もっともっと「タメ」てから・・などと思っている今日この頃なのです。

 あっと、またまたハナシが逸れてしまった。でもネ・・中田英寿については、例によって、様々な戦術的視点で深い、深〜いコノテーションを包含する「良いプレー」をつづけているという表現に集約されてしまうから・・。とはいっても、それじゃ詰まらないからちょぃと視点を変えて、ここで用いた「良いプレーを継続しようとする意志」という表現を掘り下げましょうか。私は、それこそが、彼の能力の本質をうまく説明している表現だと思っているのですよ。アイデンティティー(≒誇りに思える何らかのモノを持っていること)を基盤に、常に自分主体で考えつづけ、攻守にわたって、リスクを恐れない実効プレーを志向する・・。

 彼のプレーを見るにつけ、単に上手いプレーヤーと、ホンモノの良いプレーヤーの(次元の)違いだけではなく、その違いの背景ファクターまでも意識させられる・・だからこそサッカーは、21世紀の日本社会におけるイメージリーダーにもなり得る社会的存在だと確信が持てる・・だからこそ中田英寿の存在を、サッカー選手としてだけではなく、もっと広く深い視点で観察していく必要がある・・そのことは、日本サッカー界だけではなく日本社会にとっても価値がある・・なんてことを思ったりするのです。

 不遇で、かなりクサった心理状態で(肉体的・心理的に)不健康なプレーをつづけなければならなかったパルマ時代。そして解放されたボローニャでの中田英寿。まさに、脅威と機会は表裏一体じゃありませんか。もちろん、変化という恒常的な状況のなかで、常に全力でものごとに取り組めるだけの自信と確信が、その前提条件ではありますが・・。

 ところで中田英寿の素晴らしい実効ドリブルですが(特にハンドオフが自信レベルの深化を象徴している?!)、そこにも、彼のシンプルプレーの発想がバランスよくミックスされていると感じます。要は、そこで「抜き去ってからの決定的仕事」をイメージしているだけではなく、次の仕掛け勝負(ラストパスやコンビネーション等々)のためのアプローチというニュアンスも込められているということです。まあアタリマエのことですがネ。でも、そのバランス感覚に欠けたドリブル勝負が横行しているのが現状だから、中田が魅せつづける多面的なドリブル・コノテーションには、(様々な選択肢が込められたバランス感覚に優れたドリブルという視点でも)かなり分析価値があると思っている湯浅なのですよ。

 まあ、そのドリブルや他の戦術的な詳細分析なども、近いうちに「5秒間のドラマ風に」まとめてみることにしましょうかネ。

 ところでボローニャが挙げた三つのゴールですが、それって、すべて中田の演出による得点だったじゃありませんか。前半のロカテッリの先制ゴールにしても、最前線で動いたロカテッリへの30-40メートルの正確なタテパスを供給したのは中田(たしかにちょっとラッキーなカタチで通りましたが、その一連のプレーイメージはまさに、守備からゲームメイク、そしてチャンスメイクまでこなしてしまう本物のボランチ!)・・二点目は中田自身のフリーキック・・そして三点目は、中田のクロスからのゴール・・。まあ、大したものだ。

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 さて久しぶりの高原直泰。インドで、高原が先発したハノーファー戦(後期開幕戦)のピックアップシーンが見られました。マハダヴィキアのクロスに、ドカン!と身体ごと入り込んで仕掛けたニアポスト勝負(マーク相手を身体で抑えて飛び込んだ勝負プレー!)は印象的でした。でもチームは負けてしまったとか(3-2)。ハノーファー96のラルフ・ラングニックは優秀な監督だしね、たぶんクレバーなゲーム戦術にやられちゃったんでしょう。

 そして今週は、ハンブルクのAOLアリーナに戻ってのボーフム戦。この試合での高原はベンチスタートということになりました。かなり悔しかったに違いない・・。とにかく後半から登場してすぐに、ものすごい勢いのドリブル突破チャレンジですからネ。その迫力には、本格感がテンコ盛りでしたよ。でも、最後の瞬間の冷静さというポイントでは、まだまだ・・。

 その後も、数分間のうちに二本もシュートを放ったりします。そこでは、シュートポジションへの入り方に、明らかな工夫の後が感じられます。良い、良い。特に、二本目(後半10分)のシュートポジションへの入り方が良かった(結局シュートミス・・それはいただけなかったけれど・・)。そこでは、ロメオが相手を引きつけている状況をうまく利用して動きに変化を入れ、相手マークから完全にフリーになって右サイドのヴィッキーからのラスト・グラウンダークロスに合わせたという次第。誰もが「あっ、ゴールだ!」と思った次の瞬間、振り抜かれた右足がボールをスリップキックしてしまい、ボールは転々と左サイドへ転がっていってしまった・・。呆然とする高原。ヤツも「いただき〜〜!!」って思ったでしょうからネ。事前に描いた成功イメージと現実のギャップを認識できずにいる・・といったたたずまいでした。

 その後も高原の実効シーンがつづきます。15分には、完璧な動きで「こぼれ球」に反応してダイレクトシュート(わずかにゴール右ポストをかすめた!)を放ったり、つなぎプレーでも、「逃げ」ではなく、常に前へ突っかけていく姿勢で、攻撃的なプレー姿勢を崩さないなど、明確な成長の跡を感じていた湯浅でした。

 仕掛け段階でのボールの絡み方もいいし(ボールなしの動きがいいから、ボールも頻繁に触れている!)、ボールを持ったときのシンプルプレーと「個の勝負プレー」とのバランス&メリハリもいい。特に「個の最終勝負プレー」のコンテンツが格段に向上していると感じます。ドリブルよし、タメキープよし・・はたまた(前述したように)シュートへの入り方もよし・・。

 (様々な意味での危機感を背景にして?!)どんどんとストライカーとしての本格感が増幅してきている高原直泰。久しぶりだったこともあって、彼の積極ダイナミックプレーには、ちょいとした新鮮でポジティブな「驚き」がありました。もちろん課題も山積みですが、その課題の意味が正確に把握され、(実効あるイメージトレーニングなどを経て?!)一つひとつ確実に乗り越えられつつあると感じるのです。心強い限りじゃありませんか。




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