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全日本、ワールドカップ本大会へ向けての準備第一戦、対オーストラリアに、3-0で「快勝?!」(1998年2月18日)

1998年2月15日に行われた、全日本vsオーストラリアの試合を、昨日の深夜やっとビデオでみることができました。それにしても、オーストラリアのテレビ局の中継技術はヒドイですね。ボール周辺の「半径20メートル」を見るのがやっとというアングルでしかゲームを映しません。これではサッカーゲームの本質である「ボールがないところでのプレー」を見ることができません。日本チームの全体的な出来も含め、かなりガッカリ・・という試合でした。

 未熟な中継技術(それはオーストラリアでのサッカーの社会的ポジションを如実に現している?!)ということで、このコラムでは、あまり深い「内容分析」ができていないことを、まずお断りしておきます。

 さてゲームですが、開始早々の「41秒」、オーストラリアチームが、怒涛の攻撃から、日本チーム最終守備ラインの「中央」をズタズタに切り裂き、最後はGKと一対一という決定的な状況を作ってしまいます。GK楢崎のファインプレーがなければ、確実に失点という場面でした。確かにそれは、何度かの日本守備陣のアタックを、「運良く」くぐり抜けて出来たチャンスでしたが、守備ラインの中央が「ポカッ」と空いてしまい、そこにカバーが誰も入らなかった、また、一つの守備プレーの後に、その場に「残ってしまった」プレーヤー(つまり置き去りにされてしまったプレーヤー)、また、その守備プレーを「ボール・ウォッチャー」になってしまっていたプレーヤーが何人かいたというネガティブな事実は残ります。中央に空いてしまったスペースですが、その「スペース・カバー」は、マークする相手がいなかった「秋田」がやらなければならない仕事でした。彼は「オフサイド」になるかも・・と考えていたようですが、それでも「かも・・」でアクションを起こさないのでは、あのような状況ではリスクが大きすぎます。それが、直接的に「失点」につながってしまうのですからね。立ち上がりの「魔の時間帯」?!ワールドカップなどの世界の大会では、そんな一瞬のスキが致命傷になってしまうことだけは肝に銘じておいてほしいものです。

 その後の前半5分、名波の芸術的なコーナーキックから、これまた芸術的なゴール前での「動き・待ち」でスーパーヘッドシュートを見舞った城のおかげで、PKを得ただけではなく、相手ディフェンダーの一人が退場処分になるという「幸運」に恵まれた全日本でしたが、テストマッチということを考えれば、逆にそれは「不運」だったとする方が正解のようです。テストマッチにおける本来の目的は、ギリギリの状況での「自チームの良いポイント」だけではなく「問題点」をも把握することですからね。その意味では、この「人数的なアドバンテージ」は、その後の日本チームのプレーに悪影響を及ぼしたといえそうです。攻守にわたって、全員がよりアクティブになったオーストラリアに比べ、その後の日本チームにおける、選手の動き、ボールの動きが緩慢になったことは誰の目にも明らかでした。

 そして、前半27分、それまで決定的なチャンスを作ることさえできない全日本に対し、人数の少ないオーストラリアの方が決定的なチャンスをつくり出してしまいます。中央から右サイドに出されたパスを、早いタイミングでセンタリングされたシーンです。それは、センタリングを簡単に(楽に)上げさせてしまった服部、中央で、21番の「サード(これは特筆に値する素晴らしいプレーヤーです)」にマークを振り切られてしまった名良橋に反省して欲しいプレーでした。

 逆に、前半終了間際の45分、右サイドの中田が、スーパー・キープからのスーパーセンタリングを上げ、それにピッタリカンカンのタイミングで飛び込んだ城のゴールチャンスは見応え十分でした。それでも、流れの中でのゴールチャンスが「ほとんどそれだけ」というのはいただけません。

 たぶんハーフタイムで岡田監督がゲキを飛ばしたのでしょう、後半の全日本のプレーは、前半とは見違えるほどアクティブなものになります。まず、前半は全く目立たなかった柳沢の、左足でのロングシュート。そして、増田とのコンビからの、右ポストギリギリに飛んだもう一本のシュート。また、前半は、スペースへのパスが全く機能しなかった中田も、積極的な「前からの守備」だけではなく、果敢にシュートにもトライし始めます。彼のスペースへのパスが機能しなかったのは、「受ける側」にも問題がありました。つまり、彼が決定的なスルーパスを出すタイミングを、城、柳沢、そして増田が、まだよく分かっていなかった(これは感覚的なものです)ということです。これは、追々調整されていくに違いありません。とはいっても、全日本に残された時間はもうわずか。中田が、攻撃におけるチャンスメーキングの中心になることは誰も否定できませんから、前線の選手たちには、彼のパス出しのタイミングをしっかりと「感覚的に把握」する努力が必要なようです。そこでは、「監督・コーチ抜き」の、選手同士のコミュニケーションが重要になってきます。

 ただ結局は、勝負を決めたのは中田でした。交代出場したロペスへのラストパス(ロペスがシュートしたこぼれ球を平野がゲット)、もう一本、柳沢の動きで、左サイドでフリーになった平野への素晴らしいラストパス(平野がそのままゲット)。それは、中田の才能を証明するに余りあるプレーでした。全体的には低調だった中田ですが、『日本の(または日本の体育会体質の)常識(それは世界の非常識?!)』を否定し続ける彼のことですから、他の若い「才能は十分にある」プレーヤーのように、勘違いして、「才能の墓場」へ向かってしまうようなことはないとは思います(そう願っています)。これからも、彼の「社会的な言動」、そして彼がスターであることの唯一の拠り所である「フィールド上での実際のプレー」に、注目し続けようと思っています。

 最後に、全日本のプレーでホントウに気になった部分をもう一つ挙げたいと思います。それは、中盤での日本チームのディフェンスが非常に甘かったということです。中盤守備とは、「自分が決めた相手」をピッタリとマークすることではありません。中盤のディフェンスでは、「次」または「次の次」で、「どこへボールが動いていくのか」を「予測し」、勝負の瞬間に、そのターゲットをしっかりと把握することがポイント。それが、「美しいインターセプト」につながるというわけです。(ボールを持っていない)相手に付いて行きすぎてもいけないし、相手をフリーにし過ぎてもいけない・・。そして「次」を読む。中盤守備の難しいところですが、そこで彼らの力量が試されるというわけです。山口は、そんな職人芸をマスターしているプレーヤーの一人ですが、彼だけが、「ターゲットを絞った追い込み」や「次のインターセプトを狙った、微妙なマーキングの動き」をしても、他がついてこなければうまく行くはずがありません。そんな全日本チームの「集中力のなさ」は、もしかしたら人数的なアドバンテージの「負の効果」だったのかもしれません。




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