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ドラマチックな準決勝第一試合は、ブラジルがPKで決勝へ・・(1998年7月7日)

 カルチェラタンのキャフェ。ここには、テレビが備え付けられ、常時サッカーの番組を流しています。雰囲気も落ちついていますし、私のお気に入りなのですが、ここでビデオを見たり、本を読んだり、原稿を書いたりしています。店の人とも顔見知りになってしまい、頼まなくてもカフェオレが運ばれてきたりして・・。

 ウェイターの人ともハナシをすることがあるのですが、最後はどうしてもフランスの話題になります。面白いのは、彼らが例外なく、「フランスはどうせ負けるヨ」と言うことです。斜に構えるフランス人・・?! 本音は、勝って欲しいに違いありませんが、それでも、感情に左右されずに現実を直視できなければ、レベルの低いパーソナリティーに見られてしまう、ということなのでしょうが。たまには素直になることも必要ですよ・・と思うの湯浅なのです。

 さて準決勝の第一戦、ブラジル対オランダです。前回のアメリカワールドカップでは、3-2でブラジルが制したのですが、私はその試合が、その大会でのベストゲームだと思っています。今回も、そんなエキサイティングなゲームが展開されるに違いありません。

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 試合です。

 こんな、限界の緊張状態でのゲームを見るのは、本当に久しぶりだ・・、それが、私の脳裏に浮かんだ最初のインプレッションでした。

 実力が伯仲する両チーム。それも、「現在の時点」で世界一の実力同士がぶつかった試合。中盤での、またゴール前での攻撃、守備のせめぎ合い、それはもうワールドトップクラス。守備では、互いに、相手の「次のプレー意図」を読んで的確に対応してしまう。攻撃でも、針の穴を通すような「チャンス」に、ギリギリのタイミングで仕掛ける。

 観客は、意気を飲んで試合を見つめるだけ・・。ゴールチャンスは、両チーム合わせても数度。すごい試合・・としか表現のしようがありません。両チームの、世界最高峰の攻撃と守備がぶつかり合う、ガップリ四つのゲーム展開。

 互いに、(特に守備での)ミスがほとんどありません。そして、最後の決定的な勝負に挑むのです。そこでの、攻守の駆け引き。いい表しようのない緊張感が、スタンドも含めたスタジアム全体を包み込んでいます。

 ただその緊張の糸が、プツンッと音を立てて切れます。後半0分、左のリバウドからタテパスがオランダゴール前に送られたのです。そこに、「ギリギリのタイミング」で走り込むロナウド。マークするコクが一瞬遅れます。その差は数十センチ。そしてコトが起きてしまいます。ロナウドのゴロのシュートが、オランダGK、ファン・デルサールの股間を抜けてゴールへ飛び込んだのです。

 その後、オランダが、CKから何度か決定的なチャンスを迎えましたがゴールに結びつけることができず、逆に、ブラジルのカウンターから、リバウドがスルーパスを出し、ロナウドが、オランダGKと一対一という場面を迎えたりします(ここはダビッツの戻りと、ファン・デルサールが守りきる)。

 また、クライファートが、交替出場したファン・フォーイドンクとのワンツーで抜け出し、フリーでシュート! それが、バーのはるか上を越えていくシュートミスです。この試合でのクライファートは、ヘディングシュートも含め、何本、決定的シュートを外したのでしょうか。これでは・・と、思っていたら、そのクライファートが、ついにヘディングシュートを決めてしまうのです(後半41分)。同点ゴ〜〜ル!! それを演出したのも、ロナルド・デブール。それは、彼の右サイドからの正確な「ピンポイント」センタリングでした。彼の、今大会における活躍はもうスーパーです。ベルカンプばかりが注目されますが、オランダ攻撃の中心は完全にロナルド・デブールだったのです。

 その後は、もうオランダの押せ押せ。何度も決定的なチャンスを迎えます。対するブラジルは、もう完全にバラバラ。ブラジルは、ベベトとレオナルドが、デニウソン、エメルソンと交替したことで、成功しているチームを崩してしまったことになるのですが、その交替が早すぎたのでは・・と感じました。

 またロナウドのプレーに迫力がないのも気になります。もしかすると彼の膝は想像以上に悪化しているのでは・・。

 そして「ゴールデンゴール」の延長です。まず、同点にした後の時間帯と同様に、オランダがペースを握り、チームがバラバラのブラジルを攻めたてます。オランダがゴールデンゴールを奪うのは時間の問題か・・。ただ、そんなことまで感じられた時間帯が数分続いた後、ブラジルの闘い方がガラッと変わってしまうのです。

 「今の我々のパフォーマンスだったら、オランダの勢いをしっかりと受けとめるしかない・・」

 そんなことを敏感に感じとったかのように、彼らの戦い方が、しっかり守ってカウンターを仕掛けるというふうに見事なまでに変化してしまったのです。

 それは誰かの指示だったのでしょうか。ザガロ監督が、グランドの外からそんな指示を出せるはずなどないと思うのですが・・。それとも、経験から「自然と」そんな戦い方に変化していったのか・・。

 一つだけいえることは、交替して入ってきた、エメルソンとデニウソンのポジションが下がり、守備に全力を注ぎはじめたことです。これは私の仮説ですが、試合展開がおかしくなった時点で、「誰か」が、その二人に「まず守りから入れ!!」と指示したに違いないと思うのです。一人、二人の選手のプレーが変われば、チーム全体の戦い方がガラッと変わってしまうのはサッカー界の常識ですからね。そしてその「誰か」とは・・。「彼」の、日頃のグランド上での戦略家ぶりを見ていれば容易に想像できそうだとは思いませんか?

 そして、ブラジルが、再び安定した守備をベースに、危険なカウンター攻撃までも仕掛けることができるまでに回復してしまうのです。

 ここからは、いつ決着がついてもおかしくないという展開で、時間だけが経過していきます。

 ロナウドが、決定的なドリブル勝負からシュート! ファン・デルサールが横っ飛びでパンチング。逆にオランダが、左サイドでフリーでボールをもったクライファートがそのままシュート。タファレルは見送るだけ。そして数センチ、右に外れる・・。フー!!

 延長後半は、もう完全に精神力の戦い。両チーム選手の動きがどんどんと鈍くなっていくのが目に見えるようになってきます。ワールドカップの試合で、こんな状況になるとは・・。死闘・・?! そんな表現ではまったく追いつかない、人間の限界での闘い・・。そしてタイムアップのホイッスルが吹かれました。

 PKの結果については、ご覧になったとおりです。

 ただそこでは、ブラジルGK、タファレルの的確な「読み」と、ブラジル選手たちの「確実」なシュートコースが強烈な印象として残りました。

 ブラジル選手たちは、ゴールの「上半分」へ蹴ったり(このコースに蹴るのは、バーを越えてしまう危険が大きいために勇気がいる)、ゴールキーパーがどちらかのサイドへ飛ぶことを前提に、ゴール中央の「上側」へシュートをしていたのです。これは明らかにトレーニングの賜です。このことも含め、この勝利は、ブラジルが(必然的に)勝ち取ったものだとすることが妥当だと思う湯浅なのです。




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